鹿島が強い秘訣は「過密日程」 大迫、柴崎も成長を果たした独自のメソッドとは?

サッカーにおけるシーズン終盤戦、リーグ戦やカップ戦などいくつかのタイトルを狙える状態にあるチームにはどうしても過密日程という問題が浮上する。

そんな中、鹿島アントラーズの強化責任者である鈴木満フットボールダイレクターは「試合が多いからこそ強くなる」と語る。

その言葉の裏にある、鹿島が強豪であり続けようとする独自に編み出したメソッドとは?

(文=田中滋、写真=Getty Images)

「過密日程、大歓迎。どんどん試合をやりたい」

9月25日、カシマスタジアムは前半からゴールラッシュに沸いていた。約4カ月ぶりの先発となった中村充孝が次々とゴールを決め、前半だけでハットトリックの活躍を見せる。試合終盤にも貪欲にゴールを狙い続けた伊藤翔が得点を奪い、鹿島アントラーズが横浜F・マリノスを4-1の大差で退けた。

試合内容もさることながら、この試合への両チームのアプローチに大きな違いがあったことは興味深い。選手起用の仕方を見るとその差がハッキリ見てとれる。じつは、この天皇杯の3日後には優勝争いが佳境に入っている明治安田生命J1リーグ第27節の試合が控えていた。リーグ戦で2位につける鹿島と3位の横浜FMは、両者ともにリーグ優勝を視野に捉えている。その戦いに万全を期すためには、この天皇杯をうまく戦う必要があった。

横浜FMのアンジェ・ポステコグルー監督は、直前の公式戦だった第26節のサンフレッチェ広島戦からスターティングメンバーを大きく入れ替えて臨む。第27節を累積警告で出ることができない喜田拓也とティーラトン以外は、エリキしか起用しなかった。

それに対して、鹿島の大岩剛監督は半分の選手しか入れ替えなかった。直前の公式戦であるACL(AFCチャンピオンズリーグ)の広州恒大戦から、天皇杯も続いて先発した選手は5人。さらに、この天皇杯の横浜FM戦と第27節のコンサドーレ札幌戦で連続して先発した選手も5人。3試合連続で先発したのは犬飼智也、レオ・シルバ、セルジーニョの3人だった。

普通に考えれば、最も重要なリーグタイトルに戦力を集中し、それ以外のタイトルとは優劣や優先順位をつけて臨むものだろう。しかし、鹿島はシーズンの始めからACLを含めた“4冠制覇”を公言し、全てのタイトルを等しく取りにいく。終盤戦になればリーグ戦の合間にACLやルヴァンカップ、天皇杯の試合が挟まり、中2日で重要な試合を戦うことを強いられる。日程的に厳しく、強度の高い試合の連続は、全てのタイトルを消失させる可能性をもたらす。

それでも強化責任者である鈴木満フットボールダイレクター(以下、FD)は「過密日程、大歓迎。どんどん試合をやりたい」と言う。なぜ、鹿島は自らの首を絞めるような過密日程を歓迎し、その上で全てのタイトルを取りにいくのだろうか。

サッカーの技術とは別に学ぶ必要がある要素

結論から言ってしまえば、そのほうが強くなるからだ。選手を成長させるのは試合、それもタイトルがかかるような重要な試合である。

そうした試合は極限の緊張感を選手たちに強いる。そうした試合を前にしたとき、どういう心構えで臨み、どういうプレーをしなければいけないのか、劣勢を挽回するために何をすべきなのか。そうした要素はサッカーの技術とは別に学ぶ必要がある。そして、鹿島はクラブとして、その経験値を非常に重要視している。

第26節、鹿島はFC東京と対戦したが、この試合は首位攻防戦に相応しい手に汗握る熱戦だった。インテンシティは高く、欧州リーグの試合にも引けを取らないクオリティの高い試合だったが、この試合のあと、鈴木FDは試合を勝ったことと同時に「こういう試合を経験すると選手は伸びる」と満足そうな様子を見せていた。

試合が多ければ選手は疲弊する。疲弊すればパフォーマンスは落ち、チームの成績にも影響を及ぼす。だから試合が短い期間で連続するよりも、選手のコンディションが保たれるほうが歓迎される。少数精鋭で臨んでいるチームなら、狙うべきタイトルを絞って戦わなければチーム力を保つことができない。

だから、鈴木TDは「本気で。真剣に。全部勝つように、うまくターンオーバーなりローテーションしてほしい」と大岩剛監督に求める。この夏、安部裕葵、安西幸輝、鈴木優磨の3人が欧州に挑戦すれば、すぐさま小泉慶、相馬勇紀、上田綺世をチームに加え、戦力ダウンを最小限に食い止めた。

かつての鹿島も少数精鋭だった時期がなかったわけではない。リーグ3連覇を成し遂げたオズワルド・オリヴェイラに率いられたチームは、ほとんどメンバーが固定されており、主力と控えの境目はハッキリしていた。

しかし、時代は変わった。若手選手は次々と欧州に活躍の場を求め、チームを熟成する期間はなく、さらに近年は、FIFAクラブワールドカップにも出場したこともあり年間の公式戦試合数は60試合を超えることもある。次々と押し寄せる試合を勝ち、タイトルを獲得するためには、より大きなグループで戦ういまの形に行き着いた。

大迫勇也や柴崎岳もこのメソッドで成長してきた

試合に関わる選手が多いことは、チームの一体感を醸成することにも寄与する。例えば、天皇杯を敗退し、ルヴァン杯も終えているチームの場合、10月に組まれている公式戦は2試合しかない。試合間隔は空き、次の対戦相手に対して十分に対策を練って臨めるかもしれないが、試合のない週も緊張感のあるトレーニングを続けることは思いのほか難しい。当然、メンバーも固定されているため、試合に出る選手と出ない選手のモチベーションはハッキリと分かれてくるだろう。チームのために尽力することを選手に求めることは簡単だが、それに見合う目標を全選手に与えることはかなり困難なことだ。

その点、試合数が多ければ誰にでも出場のチャンスはある。おちおちしている暇はなく、トレーニングの強度も落ちることなく試合に臨める。その分、監督はチームとしてのクオリティを落とすことなく選手を組み合わせなければならず、選手起用はかなり難しくなるが、起用された選手が活躍すれば「次は俺が」と出番の少ない選手のモチベーションを生みやすい。

そして、優勝争いのターニングポイントとなる試合や、タイトルがかかった重要な試合で活躍すれば、選手は自信という何ものにも代えがたい武器を手に入れる。いま日本代表で欠かせない存在となっている大迫勇也や柴崎岳も、そうやって成長し、自信を身につけてきた。

力のある選手が欧州に活躍の場を移す傾向は今後も続くだろう。それでも強さを保つには次々と新たな戦力が出てくる体制づくりが不可欠だ。ACLを含めた4つの大会に本気で挑み、全てのタイトル獲得を目指す鹿島のやり方は、これからも強豪であり続けようとする鹿島が独自に編み出したメソッドなのである。

<了>

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