<社説>首相の所信表明演説 国民目線で真摯な議論を

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 臨時国会が始まり、安倍晋三首相が衆参両院本会議で所信表明演説を行った。自民党総裁の任期が残り2年を切った首相は、自らの政治的「遺産」への意欲を強くにじませた。求められているのは国民生活に真に寄り添う政治だ。 首相は演説の最後で「令和の時代の新しい国創りを皆さん、共に進めていこう。その道しるべは憲法だ」などと表明。さらに「国会議員がしっかりと議論し、国民への責任を果たそう」と述べ、改憲論議を呼び掛けた。

 首相は今回、「皆さん」と柔らかい言葉を選ぶなど、改憲に向けた発言自体は抑制的な表現にとどめた。悲願とされる改憲の実現に向けて野党への刺激を避けた形だが、改憲にこだわる首相の基本姿勢に違和感を覚える。

 首相は7月の参院選で自民、公明両党が改選過半数を確保したことをもって改憲論議を迫っているが、参院選で改憲勢力は国会発議に必要な3分の2議席を割った。共同通信社が9月中旬に行った全国世論調査では安倍首相の下での改憲に反対が47.1%で賛成の38.8%を上回った。

 国民の多くは「道しるべ」たる憲法を改めることに反対している。改憲のニーズが高まっていない中で、憲法の定めによりその尊重擁護義務を負っている為政者が改憲に突き進もうとするのは、リーダーシップをはき違えていると言わざるを得ない。法によって権力者を縛るという立憲主義にも反している。

 沖縄に関しては米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を進める姿勢を示す一方、1月の施政方針演説では消えていた「沖縄の皆さんの心に寄り添う」との表現を復活させた。

 2月の県民投票をはじめ、何度も示された新基地建設反対の民意を無視する中で「寄り添う」と言われても空疎に響く。首相は牧港補給地区の一部返還にも触れたが、施設端の土地の返還を誇るよりも、浦添市の西海岸に面した広大な牧港地区の早期全面返還への道筋を示すべきだ。

 首相は経済最優先の姿勢を強調した。だが消費税率は引き上げられ、負担増が国民生活にのしかかっている。演説では消費税増税が経済に与える影響を注視して対策を打つ考えを示したが、踏み込んだ説明はなかった。デフレ下で景気への影響が懸念される。

 社会保障制度改革では全世代型への意欲を語った。だが、「年金以外に老後資金2千万円が必要」とする報告書で広がった不安に応えるような、具体的な展望は示していない。必要なのは国民の目線で政策論議を深めることと、説明責任を果たしていく姿勢だ。

 安倍政権は先の通常国会で4月以降、衆参両院の予算委員会開催に応じず、老後資金2千万円問題では報告書受け取りを拒んだ。山積する懸案や政権批判と真摯(しんし)に向き合い論戦にも丁寧に対応していくことこそが、国民への責任を果たす確かな道である。