少女像巡る首長発言に抗議 元慰安婦、川崎で証言

慰安婦として受けた被害を証言する李さん =川崎市中原区のエポックなかはら

 旧日本軍慰安婦の韓国人女性、李玉善(イ・オクソン)さん(92)が5日、川崎市内で自らが受けた被害を証言した。慰安婦の歴史を否定する言説がまかり通る中、市民団体の集会に合わせて急きょ来日。「日本政府はきちんと反省し、公的な謝罪と賠償をしてほしい」と訴えた。

 ソウル近郊で共同生活する李さんら元慰安婦のドキュメンタリー映画「まわり道」の上映会に合わせて来日した。主催の「川崎から日本軍『慰安婦』問題の解決を求める市民の会」によると、あいちトリエンナーレで平和の少女像の展示が相次ぐ脅迫で中止に追い込まれ、慰安婦の歴史を否定する首長の発言を知り、証言することを決意したという。

 満場の約180人が詰めかける中、李さんは「私たちは『慰安婦』ではない。日本人が勝手に名付けたもので、強制的に軍人の相手をさせられた強制労働の被害者だ」と訴えた。

 14歳だった1942年7月、朝鮮半島東南部の蔚山で2人組の男にトラックに押し込められ、中国の慰安所へ連れて行かれた。時折苦しそうな表情を浮かべながら「1日で40、50人の相手をさせられ、耐えられずに自ら命を絶つ人もいた。拒否すれば軍人に刀で刺し殺された。慰安所は実際には死刑場のような所だった」と証言した。

 介助者に車いすを押してもらい、看護師同伴で来日した。上映会に先立つ記者会見では「安倍(晋三首相)に会いたい一心で来た。謝罪を直接求める。皆さんの力で会えるよう取りはからってほしい」と呼び掛け、「強制的な状況に置かれていたのだから謝罪と賠償を求めるのは当然。日本政府が強制したのではないと言い張るのは耐えられない」と思いを吐露した。

 歴史否定の発言は首長からも相次ぐ。慰安婦を象徴する少女像を巡っては、悲劇を繰り返さぬよう願って創作されたものであるにもかかわらず、河村たかし名古屋市長が「日本人の心を踏みにじる」と敵対視。松井一郎大阪市長は「慰安婦の問題というのは完全なデマ」と発言、神奈川県の黒岩祐治知事も「事実を歪曲(わいきょく)したような政治的メッセージ」と曲解を重ねる。

 「少女像は私たち自身。歴史を記憶するための像になぜ反対するのか」と李さん。「自らやった悪いことをなかったと言い、私たちの身に起こったこともなかったと言う。許されないことだ」と語気を強めると「その結果が今の日韓の対立だ。歴史に向き合わずに政治的、経済的圧力をかけている」と断じた。

 記者会見を含め約1時間の証言を李さんは「日本政府は私たちが死ぬのを待っているとしか思えないが、死んでも問題はなくならない。次の世代が解明してくれる」と結んだ。元慰安婦の女性たちが共同生活を送る「ナヌムの家」の安信権(アン・シンクォン)所長によると「韓国では若い人の関心が膨らんでおり希望的雰囲気がある」といい、「慰安婦」ではなく「日本軍性奴隷制度被害者」と呼ぶようになるなど人権意識の高まりを指摘した。

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