『サラリーマン金太郎』と『ナニワ金融道』から学ぶ営業テク

はじめまして。一晩中漫画を読めるホテル「MANGA ART HOTEL,TOKYO」(東京都千代田区)を運営している御子柴雅慶です。

新卒で楽天に入社し、ECコンサルタントとして広告営業を行っていました。 その頃、営業部500人中、広告営業成績が全国1位でした。無類のマンガ好きとして、マンガから学んだビジネススキルを紹介したいと思います。

「ダメな営業」とは何でしょうか。営業では、商品の売り方次第で、人によって天と地ほど売り上げに差がつきます。営業という職種ほど、成果が数字化しやすいものはありません。楽天時代から今に至るまで、自分を含め、売れないダメな営業マンを見てきました。

売れない営業マンの特徴は、以下にあると考えます。

(1)マネタイズ(モノやサービスの対価を換金すること)が早い(2)取引の持ちかける内容が信用残高に見合っていない(3)アフターケアができないこれら3つの特徴について、2つのマンガ作品の具体的なエピソードから学ぶべき、営業マンにとって必須のテクニックをご紹介します。


人は「信用残高」の低い営業マンから買わない

まず、1点目の「マネタイズが早い」です。買っていただく相手は、売る相手に対して「信用残高」という目に見えない「取引口座とその残高の数字」を持っています。この残高は、相手の信頼を得る行為で貯まり、その逆だと減ってしまう流動的なものです。

会っていきなり商品を売ると、信用残高はありません。だから、その商品の価値でしか売れません。そうなると、商品そのものの価値をプレゼンテーションすることが営業のメインとなり、他人と同じものを売る場合や商品力が弱い場合は、どうしようもありません。

逆に信頼残高を貯め、自分の価値をその商品の価値にオンすれば、トータルの残高は相手が買っても良いと思える水準を超えてくるかもしれません。 商品価値だけで差がつかないものを売る場合、売る人の価値で勝負が決まります。それゆえ、売る対象に対しての信頼残高を貯める行動が必然となります。

しかし、その残高がまだ必要な分だけ貯まってないのに、取引を持ちかけている人が多い。自分での判断で、適切な水準まで貯まっていると勘違いしている人もいます。

金太郎に学ぶ「信用残高」を貯める術

銀行は担保がなければ、なかなかお金を貸してくれないのは当然です。これは、個人間の売買も同じ。売ったモノやサービスがダメだった時に、補填するものがないのです。「担保はなくても、自分が売るサービスをいきなり相手が買ってくれて当然」と考える人が、売れない営業マンです。

売れる営業マンのお手本となるのが『サラリーマン金太郎』です。コミックス29巻に、主人公の金太郎がコンドームを1週間で10万ダース売る話があります。一見すると、金太郎は一瞬でマネタイズしているように見えます。

しかし、買ってくれたヤクザの親分や業界のフィクサーたちとの関係ができているから売れているのであり、重要なのはこの親分たちとの信頼残高を貯めた工程です。よく読むと、関係構築からマネタイズまで非常に長いのです。作品を読んでみると、長く、紆余曲折して信頼残高を貯めた過程がわかります。

この件以外にも、金太郎の商取引というのは、相手から「OK」と言わせてしまうくらいの信頼残高を貯める関係性を作っています。 頼み込まず、マネタイズを相手から主体的に言わせるのは最強です。「武士に二言はない」という日本人の性分が働き、途中解約の少ないパターンです。

灰原に学ぶ「信用残高」の重要性

次は(2)の「取引の持ちかける内容が信用残高に見合っていない」です。売ろうとしているモノやサービスの価格が、信頼残高の量より低い場合は売れません。銀行は融資の際、担保の換金額から融資額を決定します。担保となりうる信頼残高の額を超えた金額の決済を求めても、相手方は応じてはくれません。

自分では500万円分の信頼があると思っていても、実際には100万ほどの信頼しかないと思われていれば、200万円分の決済も通りません。人と人の間には目に見えない信頼残高の口座が必ずあり、この残高量によって取引がすべて決まっているのです。

ここで、完全に信頼残高の見積もりを見誤ったケースをご紹介します。『ナニワ金融道』コミックス8巻で、帝国金融社員の主人公・灰原は、融資先に最もキツい裏切りを受けます。

この時、灰原は、困った山川さん(帝国金融からお金を借りた側)からのお願いで、家に帰れない家族3人を自宅に泊めてあげました。また、灰原の彼女の朱美さんは保険金の上積み300万円もしてあげました。そこまでしたのだから裏切らないはずと、灰原は追加で融資の提案さえしました。

しかし灰原は、山川さんの親戚からの提案より簡単に裏切られました。相手の信頼残高を見誤って取引に踏み切って、失敗したのです。町の金貸しよりも、親戚に対する信頼残高が勝る形でした。このように、金額が大きくなればなるほど、信頼を適切に積み上げておかないと、決済は最後まで完了しません。

灰原のケースは、土地がいずれ3億円になるという巨額の決済に対し、相手の灰原に対する信頼残高の量がそこまで達していなかったケースではないでしょうか。

営業マンが最も犯してはならない失敗

最後に(3)の「アフターケア」です。売ったモノやサービスが常に成功し続けるという、うまい話はなかなかありません。売った側の不満が発生することもありますし、クレームや損害賠償によって、売った金額以上の損失を招くこともあります。商品の説明やケアは必須です。

逆に、「売っておしまい」という言葉もあります。この言葉は、 売って信頼残高がゼロ以下になるために、営業マンから連絡ができない気持ちになることを表した言葉でもあります。

営業マンから連絡できないような関係を生み出してしまう。これはアフターケアを主体的 にできない状態のことです。私は、これが“営業マンが最も犯してはならない失敗”だと考えています。

再び『ナニワ金融道』を見ましょう。コミックス5巻で、灰原は肉欲棒太郎という青年に融資しながらも、裏で相手を破産させます。それなのに、力強いメンタルでノコノコと肉欲さんの夜逃げの現場におもむきます。

通常は、顔を見るのも怖いほどの状況。肉欲さんに対するアフターケアの主体性は、もはや笑えるレベルです。

結果、肉欲さんは変に暴れることなく、自分の想いのこもったビルを灰原に受け渡して去っていきます。このように「結果が出た」「売り切った」と思った後も、「売っておしまい」ではなく、主体的に相手に会いに行ける営業マンこそ、アフターケアができている人です。

今回は、営業のできなかった若い頃の自分を省み、3つのポイントをまとめました。『ナニワ金融道』のケーススタディと『サラリーマン金太郎』の仕事におけるスタンスは、学ぶものしかありません。全巻読むことを強くお勧めします。

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