氷室京介の本質を表すB面曲、それはモップスとデヴィッド・ボウイのカヴァー 1988年 10月7日 氷室京介のシングル「DEAR ALGERNON」がリリースされた日

高校生だった僕が初めて BOØWY を意識したのは、渋谷のレコード店で『GIGS JUST A HERO TOUR』の緑色の限定版を目にしたときのことです。あるなぁと思いながらも買わずに帰り、のちに “中古は出会い” という格言を肝に命じることになります。

間もなく「B・BLUE」(1986年)で人気爆発。“以前からの” ファンがわんさかでてきて「BAD FEELING」が最高とか「わがままジュリエット」ぐらいから注目していたとか、何度耳にしたことでしょう。

ライブには山下久美子さん(布袋さんの前妻)が出てきて、“私の彼” と紹介するお宝映像が流れたり、みんな寝ても覚めても BOØWY でした。アルバム『BEAT EMOTION』、シングル「ONLY YOU」「Marionette」が矢継ぎ早にリリースされ、あれよあれよというまに超のつくほどメジャーなバンドとなりました。

その頃、ヴォーカルの氷室さんは MC で「伊達に日の丸しょってロックしてるんぢゃねーぜー」とか「King of Rock'n Roll」とか口にしていましたが、その絶頂期に前触れもなく解散してしまいます。

ところが、宣言後にもう一度同窓会的ライブをやると発表したものだからさあ大変。チケットの発売日には、寂れた町のチケットぴあに長蛇の列ができ、東京、埼玉の電話回線は混線にパンク状態。まさに都市機能が麻痺した1日でした。

でも今日はその後の話です。

氷室さんはほどなくしてソロ活動を始めました。ポップなシングル「ANGEL」で順調に滑り出し、ファーストアルバム『FLOWERS for ALGERNON』を出し、アルバムから「DEAR ALGERNON」をシングルカットしました。僕はといえば、当時のベストセラー小説『アルジャーノンに花束を』の名を冠したことに理由もなく反感を覚え、タイトル曲だけをシングルで購入することにしました。

これが幸運でした。

A面の「DEAR ALGERNON」(45回転)には、「こうしていつも愛を感じていたいだけ」という詞の直後に「ai-ai」と合いの手(の言葉)が入り思わず苦笑いをしましたが、B面には33回転で「サフラジェット・シティ」と「たどりついたらいつも雨ふり」の2曲のライブ・ヴァージョンが収録されていたのです。デヴィッド・ボウイが1972年に発表した『ジギー・スターダスト』に収録されていた曲と、奇しくも同じ年に吉田拓郎が作詞・作曲を手掛け、ザ・モップスに提供した曲です。

この頃、氷室さんのコンサートでは BOØWY とカヴァーが半分を占めていたそうです。シングルの構成はそれを反映しているのですが、何はともあれベースで参加していた吉田健さんのあか抜けたアレンジが非常にお洒落に聞こえました。吉田さんは同じ頃『イカ天』で審査員をしていたので、凄い人がバックで演奏するんだなぁと感心したものです。

2曲とも氷室さん以前にも以降にも何度もカヴァーされているし、氷室さんのヴァージョンはさほど個性的ではありません。でも、ノリノリなのです。オリジナル曲に、自分の好きな音楽を混ぜて歌う、ストレートでてらいのない氷室さん!

(恥ずかしながら)初めて聞いたこの2曲が氷室さんのヴァージョンだったのはほんとうに幸せでした。いまだに良い買い物をしたと思います。

※2017年1月8日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: ジャン・タリメー

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