中華チェーン「日高屋」が“餃子リニューアル”に並々ならぬ力を入れる理由

日本中が消費増税で良くも悪くも大いに盛り上がった10月1日。中華料理店チェーン「日高屋」が看板メニューの一角をリニューアルして発売しました。老若男女、大好きな人が多い「餃子」です。

9月30日の23時45分から24時には、先着100名限定で新・旧の餃子が無料で食べられる、「ゆく餃子・くる餃子カウントダウン」を東銀座店で実施。テレビ局の取材も入り、キー局のうち、取材に来なかったのはNHKとテレビ朝日だけだったそうです。

日高屋が今このタイミングで並々ならぬ力を注ぐ、餃子のリニューアル。その理由はどこにあるのでしょうか。


1人1皿注文してもらえる餃子に

日高屋の餃子といえば、6個で1皿、それもモチモチの皮で、結構ボリュームがありました。それゆえ、サイドメニューとして2~3人で1皿注文する人が多かったようです。それを、1人1皿注文してもらえるように、というのが今回のリニューアルのコンセプトです。

一口で食べられるようサイズダウンする一方、皮は薄くパリっとさせ、餡は野菜中心から肉、それも赤身中心に変えたそうです。税抜き価格は据え置いて、1皿210円のまま。ただし、10月31日までは店内飲食に限って155円に値下げしています。

メディアへの露出や期間限定の値下げキャンペーンと、日高屋がリニューアル餃子の販促に力を入れている理由を探るヒントは、発売の4日前にありました。同チェーンを経営するハイデイ日高が9月27日に発表した、2020年2月期・第2四半期累計(2019年3~8月期)の決算です。

実績は、売上高こそほぼ前年同期並みの211億円でしたが、本業の儲けを示す営業利益は同11.0%減の22.8億円。上期としては2期連続の減益で、期初の会社計画に対しては売上高が2.7%、営業利益は12.3%の未達でした。

おじさんのお小遣い減少が直撃

前年度も、上期は売上高こそ前年同期比で4.2%増でしたが、営業利益は同3.4%減。それを下期で挽回し、なんとか16期連続の増収増益を達成しています。

今年度も17期連続の増収増益を目指していますが、今上期は前上期よりもさらに厳しい状況になっています。今年度の第2四半期(2019年6~8月期)は、四半期(3ヵ月間)ごとの前年同期比で、上場以来、初めて減収になりました。7月、8月が前年をわずかに下回ったことが影響しています。

その原因について、会社側では「働き方改革の影響である」と分析しています。残業がないと早く帰って自宅で夕飯を食べられる一方で、残業代が減る分、可処分所得が減ってしまいます。主要顧客層の中高年のおじさんたちのお小遣いが減って、ちょい飲みに使えるお金がなくなってしまったのでは、というわけです。

今のところ、会社側は期初に出した業績予想を変えていませんが、期初予想を達成するには、下期6ヵ月間で売上高は前年同期比で7.9%の増収を達成したうえで、営業利益率は前下期6ヵ月間の営業利益率よりも0.9ポイント改善しなければなりません。

今期はいつも秋に値上がりするコメの価格が上がっていないので、原価は抑えられるとはいうものの、かなり厳しい状況にあることは間違いありません。

餃子リニューアルに託すV字回復

いつも強気な高橋均社長も、17期連続の増収増益の達成が微妙であることは正直に認めています。

取引所の規定では、予想数値に対し、売上高で上下1割、利益は上下3割の変動がなければ業績修正を発表する必要がありませんので、修正の義務が発生するほどではないけれど、達成がだいぶ難しいと考えているというのが本音なのでしょう。

そこへ加えて、消費増税です。何もしなければ、客足はさらに減ってしまいます。そこで打ち出したのが、餃子のリニューアルというわけでした。

餃子のキャンペーン告知が飾られた日高屋の店舗

毎月公表している月次実績では、消費増税前の9月の実績は前年同月比で102%とやや盛り返しましたが、このペースでは通期計画の達成はできません。餃子のリニューアル効果が見えるのは10月からですから、11月7日辺りに公表される10月の月次がどうなるかが注目されます。

ちゃんぽんにパスタ、餃子専門店も

業績低迷からの脱却を狙う施策は、餃子のリニューアルだけではありません。すでに日高屋の店舗は飽和状態にあり、出店候補地として好条件の案件を持ち込まれても、近隣の店舗とカニバらないようにするため、見送らざるを得ないケースが増えているのだそうです。

そこで検討を進めているのが、業態の拡大。まずは、かなり以前から表名していた、ちゃんぽん専門店への進出を年内には実現したい考えです。ハイデイ日高は自前の麺工場を持っていますから、これは隣接事業といえるでしょう。

餃子専門店の展開も準備中で、こちらは来年度内の出店を目指します。餃子は日高屋の看板商品ですから、これも隣接事業です。

実はパスタ専門店への進出も狙っています。すでに麺はほぼ完成していて、あとはソースとおつまみの開発なのだそうです。

会社側は、若い女性など既存の顧客層とは異なる層の取り込みを狙っているとのこと。麺つながりという点では隣接事業といえますが、客層があまりにも違いますので、少々無謀な気がします。

狙うべきターゲットはむしろ…

筆者はむしろ現有の主要顧客層、つまり中高年のおじさんたちをターゲットにしたほうが良いのではないかと考えています。昔懐かしい喫茶店のナポリタンに限らず、パスタ好きなおじさんは少なくありません。 しかし、若い女性だらけのパスタ専門店はそもそも入りにくいはずです。

フォークにくるくる巻きつけて食べるのがまどろっこしい、かといって蕎麦のようにすすって食べると思い切り顰蹙(ひんしゅく)を買って肩身の狭い思いをする、などなど……。おじさんにとって、パスタ専門店は決して入りやすい業態ではないでしょうか。

もしも、気取らず「お箸でソバ食い大歓迎」にしてくれて、しかも値段は日高屋プライスだったら、とても喜ばれるのではないかと思うのです。

日高屋のブランドコンセプトがあいまいにならないように、新業態は日高屋とは別の屋号を付ける予定だといいます。日高屋には信者と言っても過言ではないファンがいます。彼らを失望させることなく多角化を図れたら、業績のV字回復も視野に入ってくるのではないでしょうか。

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