クライメート・ウィークNYC:企業が新たに発表した気候対策とは

ニューヨークでは国連気候行動サミットの開催に合わせ、世界の企業や政府、NGOなどが集結するフォーラム「クライメート・ウィーク(気候週間)」が23―29日まで開催されている。一連の行事に合わせて、各社は気候変動に関する新たな取り組みを発表した。ネスレやイケア、アシックス、マルイなど87社は新たに国連グローバルコンパクトの「Business Ambition for 1.5°C」に署名。HPはWWFと連携して「フォレスト・ポジティブ」な未来をつくると発表した。

87社が「Business Ambition for 1.5°C」に署名 アシックスやマルイも

ネスレやイケアなど大手87社はこのほど、世界の気温上昇を産業革命前から1.5度未満に抑え、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを誓約する国連グローバルコンパクトの「Business Ambition for 1.5°C」に署名した。87社の時価総額は2.3兆ドル(約240兆円)に上り、年間の二酸化炭素排出量は石炭火力発電所73基分に相当する。

「Business Ambition for 1.5°C」は今年6月、企業連合や市民社会、国連などが世界の企業に要求したもの。27カ国、28セクターに及ぶ87社は、420万人以上の従業員を擁し、事業とバリューチェーンにおいて目標の達成を目指す。

すでに7月時点で、ユニリーバやHP、リーバイストラウス、SAP、アストラゼネカなど28社が署名。今回、新たに署名したのは、アシックス、バーバリー、ダノン、エリクソン、ドイツテレコム、イケア、ロレアル、マルイ、ネスレ、ノキア、ノボ ノルディスク、エルステッド、セールスフォース、シュナイダーエレクトリックなど87社。

今回の動きについて、国連グローバルコンパクトのCEOリセ・キンゴ氏は「SDGs達成に求められている『根本的な変化』」と評している。

HP、WWFと持続可能な森林連携を立ち上げ

同じくニューヨークで開催されている「世界経済フォーラムの持続可能な開発インパクトサミット」で、HPはWWFと連携して「フォレスト・ポジティブ」な未来をつくると発表した。「フォレスト・ポジティブ」とは、使用する木材の量を上回る持続可能な森林管理を推進するもの。

WWFの協力を受け、HPはニューヨーク市の面積と同じ20万エーカーの森林の回復、保護、保全を行い、1100万ドル(約11億円)を投入する計画。5カ年協定の一部として、HPはWWFの森林のSBT(科学的根拠に基づいた目標設定)開発を支援し、森林の回復や効果的な森林管理による炭素の吸収や自然の相乗効果を測定する。新たなイニシアティブは11月から始まる予定だ。

HPは、「持続可能な印刷」を実現するために、世界の森林の保全に投資し、効果的な活動を実行していく。今回の持続可能な森林連携は、いま行動を起こすことを目的にしており、将来世代のための世界の森林エコシステムの保全、改善に向けて他企業の動きも促したい考え。同社の目標は、将来世代のために世界の森林の回復、保全、効果的な管理に貢献しながら、HPのプリンターで印刷をすることでFSC認証のついた紙やリサイクルされた紙の調達が増えること。

WWFのカーター・ロバーツCEOは、「世界の森林減少は年々、気候を不安定化させ、数十億の生命とその暮らしを支える豊かな生物多様性を脅かそうとしている。森林の世界的な損失と劣化を解決するには、企業がサプライチェーンの先にあるものを思い描き、生態系を保全し回復するための大胆な戦略を実施することが必要となる」と話している。

3M、NGOと連携しアジアの大気汚染改善に乗り出す

3MはNGOクリーン・エア・アジア(CAA)と連携し、ニューデリー、マニラ首都圏で科学的根拠に基づき空気質を改善するソリューションを提供すると発表した。より健康的で住みやすい街づくりを目指す同団体のミッションを実現する狙いだ。

大気汚染は世界的な健康問題になっている。アジアの都市に暮らす人の多くが重大な健康被害を受けるレベルの汚染にさらされている。2017年、大気汚染に起因する早期死亡は約500万人に達し、その7割はアジアで発生している。CAAがアジアで調査した420都市のうち、PM2.5の値が世界保健機関(WHO)の定める基準値に合致していたのはわずか2%だったという。

2017年、マニラ首都圏の5市のうち4市は国とWHOの定める空気質ガイドラインの基準を上回っていた。インドは、全土で大気汚染に関して深刻な課題を抱えている。2016年の世界で最も汚染されている20都市のうち14都市が同国だった。大気汚染による早期死亡者数は90万人に上る。

3Mは目標達成に向けて、今後5年間、CAAを支援する計画。現状の空気質を把握し、空気質マネジメントのための能力構築支援(キャパシティ・ビルディング)事業を計画、啓発・教育キャンペーンの実施、選定都市と自治体と協働しCAAの事業を進め、その効果を空気質のレベルで測定する。

サウス・ポール、ニューヨークを1時間 カーボンニュートラルに

スイスの炭素金融コンサルタント「サウス・ポール」はこのほど、ニューヨーク支部を新たに立ち上げた。そして9月24日、ニューヨーク市を1時間、温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルにした。ジンバブエの森林保全プロジェクトに投資することでこれを実現。

同社CEOのレナート・ホイベルガー氏は、「異常気象による被害は増え続け、地域社会や企業にも影響を及ぼしている。その一方で、企業も野心的なCO2排出量の削減目標を掲げ、気候変動のために立ち上がるよう従業員の後押しし、具体的な行動を起こしている」と話した。

気候危機に対する社会の意識や20日金曜日に世界で行われたグローバル・クライメート・ストライキ(グローバル気候マーチ)に象徴されるデモの数は、気候が温暖になるにつれ増加しており、政府や企業はさらに野心的な行動をとるよう求められている。サウス・ポールでは、ニューヨーク・ヤンキースやアルド・グループ、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの企業が国際的な気候計画に則ってサステナビリティ目標を掲げる支援を行っている。

コスタリカ、生物多様性の保全目指し連携を求める

コスタリカのカルロス・アルバラド・ケサダ大統領は、2030年までに地球の30%を保護する案の実施を実現するための「高い野心連合」の結成を求めている。2020年、中国で開催される生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で同案を成立させる計画。すでにセーシェル、アラブ、モナコ、ガボン、モザンビークが同イニシアティブに参画し、2030年までに地球の生物多様性の約30%を保護するために求められる科学的根拠に基づく目標を掲げている。

気候危機と絶滅危機は相互につながっている問題だ。今よりもさらに広範囲の自然を守ることは、炭素隔離をし、危機にさらされている種を守る絶好の機会だ。科学者たちは、気候対策の少なくとも3分の1は自然界を保護し回復させることだと結論を出している。

同大統領は、「火災や洪水、南極の氷が溶けているということは、地球が人間に行動を起こすように警報を鳴らしているということ。コスタリカはその大きく明確な声に耳を傾け、すべての国に、サンホセで開催されるCOPの事前会合における『高い野心連合』の立ち上げに参加するよう求める。われわれがいま団結すれば、自然を回復、保全し、食料を供給し、豊かな経済を構築することができる」と話している。

今年5月、パリで開催された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)では、100万種の動植物が絶滅の危機にあり、自然保護のために「根本的な変化」が必要だと明かされた。同時に、著名科学者らがパリ協定に連帯して地球面積の少なくとも半分を保護区に指定することを求める報告書「グローバル・ディール・フォー・ネイチャー」を発表した。そこでは、地球の30%を世界が公式的に保護し、さらに20%の面積を気候安定エリアとして2030年までに気温上昇を1.5度未満に抑える必要があると指摘している。

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