繰り上げ返済と教育費の確保、どちらを優先するべき?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、マネープランが立てられず悩んでいるという30代の共働き主婦。住宅ローンの繰り上げ返済と教育費のための貯蓄、どちらを優先させたらいいのでしょうか。FPの渡邊裕介氏がお答えします。

夫が72歳になるまで続く、住宅ローンの返済について悩んでいます。貯金ではなく返済に回した方がいいのか、これから教育費もかかってくるので現金で残した方がいいのか、マネープランが立てられず困っています。子どもが小さいうちにこそ車も欲しいのですが、いまの家計だと贅沢すぎるかなとも思い悩んでいます。

妻は今年から育休復帰のため、しばらく時短が続きます。育休中は貯金がほとんどできませんでした。また年内に会社でマッチング拠出が始まり、夫婦で手取りが4万円ほど減る予定です。ボーナスは、GW、夏休み、年末年始にプラス2回程度の帰省、お年玉、父の日母の日、親戚の誕生日祝いなど交際費や、自宅の家電買い換えなどに使っています。残った分を貯蓄に回している状況です。子どもは中学までは公立、その後は状況に応じてと考えています。アドバイスどうぞよろしくお願いいたします。

<相談者プロフィール>

・女性、36歳、既婚(夫:40歳、会社員)

・子ども2人:5歳、2歳

・職業:会社員

・居住形態:持ち家(マンション)

・毎月の世帯の手取り金額:67.5万円

(夫:40万円、妻:25万円、児童手当:2.5万円)

・年間の手取りボーナス額:50~200万円

・毎月の世帯の支出目安:約56万円

【支出の内訳】

・住居費:12.3万円(住宅ローン、修繕管理費込み)

・食費:8万円

・水道光熱費:1.8万円

・教育費:10.6万円(保育料9万円、習い事1.6万円)

・保険料:6.42万円

(夫:外貨建終身2.2万円、医療0.7万円、夫婦:低返戻終身3.2万円、 妻:医療0.17万円、がん0.05万円、子供:医療0.1万円)

・車両費:なし

・通信費:1.2万円

・お小遣い:4.5万円

(夫3万円、妻1.5万円)

・交通費:4万円(定期代)

・日用品代:1.5万円

・ウォーターサーバー代:0.5万円

・交際費:2万円

・その他:3万円(洋服など)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:11万円

・現在の貯蓄総額:600万円

-生活防衛資金:300万円

-ローン返済積立:150万円

-児童手当など:150万円

・現在の投資総額:540万円

・現在の負債総額:3045万円(住宅ローン:物件購入額3800万円、借入額3300万円、金利1.47%、返済期間35年)


渡邊:こんにちは。ファイナンシャルプランナーの渡邊です。

住宅ローンの繰上げ返済と教育費準備のバランスのご相談ですね。住宅ローンは利息もかかるし、早めに返したい。でも、教育費も準備しなければいけない。こんな方、多いのではと思います。

繰り上げ返済のメリットと注意点

まずは、住宅ローンの繰上げ返済のメリット、および注意点について見ていきましょう。

<繰り上げ返済のメリット>
〇利息軽減効果
〇支払金額の減額
〇支払い期間の短縮

<注意点>
〇手元資金が減る
〇住宅ローン控除の額が減る
〇ローン残債が減ることにより、団体信用生命による保障機能が減る

住宅ローンの返済だけを考えると、繰上げ返済による利息軽減効果は大きく、その効果は早めの返済の方が大きいため、焦って返したくなる気持ちも分かります。

その一方で、手元資金が減ってしまうので、ローンの返済以外にお金が必要な場合、準備が足りなくなってしまいます。例えば、教育費の準備や車の購入などです。

また、がんばって繰り上げ返済をして手元資金が減った状態で、万が一の事があった場合、団体信用生命保険によりローンはなくなりますが、手元資金がないため、保障として足りなくなってしまう可能性もあります。

まずは、必要なものを確保した上で、住宅ローンの繰上げ返済計画を立てることをおすすめします。

何を優先させたいか目標に順位をつける

まず、ローン返済も含め、生活に必要な経済的な目標を整理してみましょう。ご相談者の場合、以下が主な目標かと思われます。

・ローン返済
・教育費の準備
・自動車購入
・老後の準備

では、それぞれの優先順位はどうでしょうか。個人によって、優先順位は変わってくるかと思います。ご自身にとってどうかを考えてみましょう。仮に、下記のように優先順位を置いてみます。

1.教育費準備
2.ローン返済
3.老後の準備
4.自動車購入

すべての目標を達成するのが理想ではありますが、現実は難しいケースもあります。その場合、優先順位の高い目標を達成するために、優先順位の低い目標の金額を下げたり、時期を遅らせるなどの対策も必要となってきます。

現状を振り返り、軌道修正をする

では次に、それぞれに対しての現在の準備状況も見てみましょう。

1.教育費準備:児童手当など150万円 低返戻終身3.2万/月
2.ローン返済:ローン返済積み立て150万円
3.老後の準備:外貨建終身2.2万/月、マッチング拠出4万/月
4.自動車購入:余裕資金

外貨建終身や低返戻終身など、貯蓄性のある保険に関しては、教育費としての準備も考えられるので、今一度貯蓄目的を確認してみてください。仮に老後のためというのであれば、老後の準備が過剰になってしまっています。

また、マッチング拠出をスタートされるということですが、確定拠出年金は原則60歳まで引き出すことができないため、完全に老後のための準備となります。教育費やローン返済などの準備ができていない中で、掛金を大きくするのは、老後まで利用できない資金としてブロックしてしまうため、おすすめできません。月4万円の掛金は見直すべきかと思われます。

家計収支の中でやりくりできない分の教育費を確保する

教育費の確保を考えると、現在、教育費として年間120万円ぐらいは収入の中から支払えています。それを考慮すると、公立の中学までは、家計の収支の中から拠出できる範囲でしょう。

高校から仮に私立へ行った場合で考えると、高校(私立全日制)、大学(私立理系自宅通学)の7年間を二人分で約1825万円となります。そのうち、約840万円程度は家計の収支の中でやりくりできると考えると、1000万円ほどの準備が必要となります。児童手当だけでは足りないので、子どもの教育費準備としての貯蓄をまず確保しましょう。

繰り上げ返済は、結果的に老後の負担軽減につながる

続いて住宅ローン返済ですが、住宅ローン控除が終わる7年経過後から年間50万円ずつ繰り上げ返済すると、65歳までに返済完了する計算となります(※ローン条件:借入年齢37歳、借入金3300万、金利固定1.47%、35年ローン)。その際の利息軽減効果は約178万円となります。今焦って返済しなくても、住宅ローン控除を最大限利用した上での返済でも十分効果はあります。

マッチング拠出で運用すると、将来的に繰り上げ返済の利息軽減効果以上の運用益を期待できる可能性はありますが、流動性を考えると、ご相談者の場合は、マッチング拠出としてではなく、将来のローン返済のために貯めた方が良いでしょう。結果的に老後の負担軽減にも繋がりますし、いざという時に他の用途でも使うことができます。

流動性を加味した貯蓄計画を

整理すると、以下の通りになります

1.教育費:児童手当2万円/月+低返戻終身3.2万/月+3万円/月
2.ローン返済:4万円/月
3.老後の準備:外貨建終身2.2万/月+マッチング拠出2万円/月
4.自動車:300万円程度

ある程度、目的別に分け、流動性も加味しながら貯蓄計画を立てることで、将来的な状況の変化にも対応できるようになります。単純な利益追求ではなく、生活の中で何を優先するのかを考えながら生活設計していきましょう。

© 株式会社マネーフォワード