『ブルーアワーにぶっ飛ばす』 会話にテンポ、セリフもキャッチー

(C)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会

 CMディレクターとして活躍する箱田優子の映画監督デビュー作だ。『嘘を愛する女』などを生んだ「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」で審査員特別賞に輝いた企画の映画化で、自ら脚本も手掛けている。

 主人公は、30歳の自称売れっ子CMディレクター。かなりの毒舌家だ。病気の祖母を見舞うため、友人を伴って大嫌いな故郷へ渋々帰るのだが…。その故郷も監督と同じ茨城。つまり自伝的な要素がとても強い。よく誰にでも生涯に一本は傑作が作れると言うから、2作目以降が気掛かりになる…が、恐らく彼女は大丈夫だろう。

 というのも、まず脚本がよく出来ている。会話にテンポがあって飽きさせないし、CMのプロだけにセリフもキャッチー。内省的だが客観視が生むユーモアもしっかりあって、何より冒頭の子役のシーンでのカメラとの会話「待ってくださいよー」「ついてくるな!」などセリフだけに頼らない伏線の張り方もうまい。雨だって映画的に降るし、ロードムービーとしてもダメ女の再生物語としても演出上の創意工夫に満ちているから。

 友人役の韓国の女優シム・ウンギョンが納豆を食べる際に素がのぞいたり、祖母のツメを切るシーンの即興性などが全体から浮いてしまってはいるが、エンタメよりも作家性を志向するこだわりだと考えれば、むしろ好感が持てる。映画作家として伸びしろがまだまだありそうで、次回作も観たくなった。★★★★☆(外山真也)

監督・脚本:箱田優子

出演:夏帆、シム・ウンギョン

10月11日(金)から全国順次公開

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