【トムス東條エンジニア特別寄稿】無念のリタイア。ローグリップでも攻めるDTM勢のレベルの高い走り《DTM×スーパーGTインサイド3》

 DTM第9戦ホッケンハイムのシリーズ戦に参戦するスーパーGT500クラスのマシン。初の試みにチームはどのようにメニューを進め、そして対応していくのか。日本を代表するレースエンジニアのひとりでもあるLEXUS TEAM TOM’Sの東條力エンジニアが現場からお届けします。3回目は日曜日のレース2。残念ながらLEXUS TEAM TOM’Sのニック・キャシディはオープニングラップに他車と接触してリタイアしてしまいましたが、東條エンジニアが2回のレースで感じたDTMのポイントをお伝えします。

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●シンプルなセーフティカー運用と素早い車両回収
セーフティーカー(SC)の運用がシンプルで早い。スーパーGTのような2クラス混走レースではない事から、スーパーフォーミュラと同じくFIAの運用で行われます。SCのスピードが速く、コースがクリアになればすぐにリスタート。隊列に追いつかないクルマを待つことはありませんでした。

この素早いSCオペレーションに欠かせないのが、重機による吊り上げ回収にありました。コースアウトした車両の回収方法がとても合理的(大雑把とも言いますが……)。コースアウトしたクルマにドライバーを乗せたままブルトーザーがロープでつり上げ、コースサイドへ落とす。そして、すぐに出て行け的なジェスチャーでコースへ復帰させていました。SC介入によるレースのダラダラ感がほとんどないような感覚です。

●DRSを使用したときのスーパーGTとのギャップ
レース1はドライで行われました。DTMとスーパーGTの単独トップスピードを比べるとほぼ変わらないのですが、DRSを使用すると15km/h以上もスピードアップします。スーパーGT勢としてはこれではレースになりません。富士ではDRSの使用を絶対に阻止する必要があります(DRSが禁止されるスーパーGTの規定で運用予定)。

DTM勢のリヤウイング迎角は深めです。追い抜きのあるレースでは、DRSのドラッグ低減効果があるためか、トップスピードはそれほど気にしていない様子がうかがえました。ダウンフォースを稼ぐためか、車両姿勢も高レイクのHDF(ハイダウンフォース)セットアップが標準のようです。

一方、スーパーGTではDRSを使用しません。コーナーリングとトップスピードのバランスをとったセッティングが主流です。DTM車両と比べるとややダウンフォースは薄めになってしまうようなイメージです。スーパーGTでいうと、DTMのエアロバランスに近いのはNSXなのかもしれません。。

●ウエットタイヤの難しさはDTM側も同じ
BMWモータースポーツの知人のエンジニアに、ウエットタイヤのグリップに関して質問を投げかけてみたところ、快くディスカッションの場を設けていただきました。彼らもグリップを引き出すために相当苦労しているらしく、スーパーGT勢の様子を気にしていたとのことでした。

その甲斐あって、前日のウェット〜ダンプコンディションの予選で3秒6もあったトップからのギャップが、日曜のレース2予選ではより難しいヘビーレインで1.7秒差の16位。大きな進歩です。ドライバーのニックも満足なアタックだったとのこと。少しだけ理解を深めて午後のレースへ望めそうです。ドミニク、ありがとう!

日曜レース2の予選では16番手を獲得したLEXUS TEAM TOM’Sだったが、決勝では接触してリタイア

レース2のLEXUS TEAM TOM’Sはリタイアしてしまうも、ローグリップで攻めるDTM勢のレベルの高さ

●LEXUS TEAM TOM’S レース2は無念のリタイアもDTM勢のバトルに一番の収穫
雨のレース2がスタートしました。2周のフォーメーションラップを行ってから、スタンディングスタートです。スタートでやや出遅れたニックですが、接触があってまさかのスピン。ウォールにクラッシュしてしまいました。その直後、アストンマーチンのエンジンブローがあり、レースは赤旗中断。

#37号車は1周回もすることなくリタイヤとなってしまいました。予選で得たグリップの感触をレースで確かめたかったのですが、かないませんでした。残念ですが、これもレースです。ちなみにニックは無事ですのでご安心ください。

レースの方ですが、やはりAUDI勢が優勢でした。比較的強い雨でしたが、安定した水量があって、レースは非常に興味深いものでした。

ラップタイム的には3グループに分かれていたように感じています。

A:TOPグループ 1分52〜53秒
B:2ndグループ 1分53〜54秒
C:スーパーGT勢(GT-R/NSX)1分56〜59秒

仮に#37ニックがレースを続行できていた場合、どの程度のラップを刻んでいたのかは定かではありませんが、おそらく良くてBの後段あたり。予選の仕上がりを鑑みて、比較的リーズナブルなところでは、BとCの中間が今の実力の最大値だと考えます。

いずれにしても我らスーパーGTは、ハイグリップのコンフィデンシャルタイヤを使用していますので、ワンメイク用の低グリップタイヤを使用してDTMと戦うには、それなりの工夫が必要だということが分かりました。ドライの予選であれば何とか戦える感はありますが、ドライでのレースラップや、特にウェットコンディションで大きな差をつけられています。

ウェットで行われたレース2の最終ラップ、先頭を走る2台のマシンが同時にピットイン義務を果した直後のアウトラップは圧巻でした。すでにタイヤ交換を済ませて猛追する後続のマシンとアウトラップのマシンが遜色のないドライビングができることに、DTMのレベルの高さが表れていたのではないでしょうか。この1周を見られたことが一番の収穫です。ローグリップでも、タイヤが冷えていても、果敢に攻められる。そういうクルマに仕上げる必要があります。

スーパーGT勢最上位は、レース1で#1TEAM KUNIMITSU(ジェンソン・バトン)が記録した9位。#37LEXUS TEAM TOM’Sの最高位はレース1平川亮の13位。LEXUS TEAM TOM’Sとしてはトップ10を目指していましたので、目標不達。今回は完敗です。

最後に、モータースポーツファンの皆様、熱いご声援に感謝します。富士でのリベンジに期待してください。

日曜レース2の決勝グリッドでのGTA坂東代表と東條エンジニア

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