なぜサモア代表がヤフオクDに? 偶然が生んだ初の野球観戦、ホークスの“おもてなし”

ヤフオクドームでCSパ第3戦を観戦したラグビーサモア代表【写真:荒川祐史】

前日6日にヤフオクドーム内にある「HUB」でサモア代表選手とホークスの職員が交流したことがキッカケに

■ソフトバンク 2-1 楽天(CS・7日・ヤフオクドーム)

 7日にヤフオクドームで行われた「パーソル クライマックスシリーズ パ」1stステージのソフトバンク対楽天戦。この試合で一塁側内野スタンドの一角を埋めた“大男”たちがいた。ソフトバンクの「鷹の祭典2019」専用の水色のユニホームを纏い、2-1でソフトバンクが競り勝った熱戦を興味深そうに見守っていた。

 総勢30人ほどの一団、現在、日本で開催中で盛り上がりを見せている「ラグビーワールドカップ」に出場しているサモア代表の選手とその家族たちだった。5日の日本代表戦で敗戦を喫した彼らは、12日に福岡・東平尾公園博多の森競技場で行われる予定のアイルランド戦に向けて福岡へと移動。偶然にも、この日「初めて」だという野球観戦を体感することになった。

 彼らの母国であるサモア独立国(別にアメリカ領サモアもある)では野球はほとんど知られておらず、多くの選手が野球を見るのも初めて、もちろんルールも分からなかった。それでも、初めて体感する“日本文化”の1つであるプロ野球と球場の空気を満喫し、そして「最高さ」と喜んでいた。

 なぜ、野球に縁も所縁もない彼らが、この日、ヤフオクドームでクライマックスシリーズを観戦することになったのだろうか。そこには、偶然の出来事があった。

 遡ること、わずか1日前のこと。ソフトバンクが勝利して1勝1敗としたCS第2戦後の夜のことだった。福岡に移動してきたサモア代表の一部の選手たちが、近くに宿泊していたこともあり、ヤフオクドーム内にある英国風パブ「HUB」に足を運んだ。

日本戦に途中出場していたアロエミレ選手はホークスへの感謝を自身のツイッターに投稿

 そこには、この日の仕事を終えたソフトバンクの職員たちも訪れていた。このうちの1人がラグビーに造詣が深く、サモア代表の選手たちに気付いた。彼らに声をかけると、この「HUB」がヤフオクドーム内を見渡せることもあり、選手たちが「野球を見てみたい」と口にした。

 前日に日本代表と激戦を繰り広げていたサモア代表。遠く離れた日本の地に来た彼らに喜んでもらいたい、日本のことを知ってもらいたい、日本のことを好きになって帰ってもらいたいーー。そう考えたソフトバンクの職員たちはサモア代表を、急遽、翌日の第3戦に招待することにした。

 SNSで連絡を取り合い観戦が実現。記念にと「鷹の祭典2019」用のユニホームも準備しプレゼントした。サモア代表の選手、家族らは大喜び。試合を楽しむだけでなく、イニング間に行われるダンスや、日本のプロ野球では恒例の7回のジェット風船飛ばしなども体験した。さらに、ソフトバンク側の粋な計らいで、試合後にはヤフオクドームのグラウンドに降りる経験もした。

 日本戦にLOで出場していたピウラ・ファアサレレ選手は「野球を見るのは初めてだよ。球場の雰囲気は最高! 楽しかった」と笑顔。さらに、日本戦で途中出場していたポール・アロエミレ選手は自身のツイッターで「初めての野球体験はとてもクールだったよ。チケットと忘れられない経験をありがとう、ソフトバンクホークス」とツイートし、試合観戦の様子で動画でアップしていた。

 日本に敗れ、予選敗退が決定したサモア代表だが、この日の体験は決して忘れられないものになったはずだろう。ソフトバンクホークスが彼らに与えた“おもてなし”の心。きっと、この体験も1つのキッカケとして、日本のことを好きになって母国に戻ってくれることだろう。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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