ERC第7戦:盟主アル-アティヤが新記録の同一イベント6勝目。ヒルボネンは3位

 WRC世界ラリー選手権への登竜門であると同時に、各国を代表する実力派ラリーストが集うハイレベルなシリーズ戦でもあるERCヨーロッパ・ラリー選手権の第7戦キプロス・ラリーが9月28~29日に開催され、ダカール・ラリー覇者であり中東選手権の盟主でもあるナッサー・アル-アティヤ(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)が、自身の記録を更新する同一イベント6勝目のERC新記録を樹立した。

 2018年王者で現ディフェンデイング・チャンピオンとなるアレクセイ・ルカヤナク(シトロエンC3 R5)や、2018年キプロス勝者の地元スペシャリスト、シモン・ガラタリオティス(シュコダ・ファビアR5)、そして久々のスプリント・ラリー挑戦となる元WRCフロントランナー、ミッコ・ヒルボネン(フォード・フィエスタR5)らの勝負に注目が集まった1戦は、連年どおり併催の中東選手権タイトルが掛かるアル-アティヤがレグ1序盤から圧巻のラリー運びを見せる。

 午前のループ3ステージすべてでトップタイムをマークし、ミッドデイザービスを前に約30秒ものセーフティマージンを築くと、午後に反応を見せたサンテロック・ジュニアチームの現ERC王者の反撃を約3.5秒に喰い止め、オートテック・モータースポーツのクルーに「不具合が恐いので予防整備的に」違和感を感じていたギアリンケージのピンを交換する余裕を見せ、25.4秒差の圧倒的首位で初日を終えた。

「今日は本当に順調で、良い1日になったね」と、満面の笑みで振り返ったキプロス通算5勝のアル-アティヤ。

「(午後のループとなる)ステージ5は非常にハードでタフな設定だったので、リスクを犯すことなく適切な速度管理だけを意識した。そのため、ルカヤナクには3秒差でステージベストを譲ったが、総合タイムでは良いリードを築くことができた。明日も長い1日になるだろうね」と振り返ったアル-アティヤ。

 一方、ERCタイトル防衛に向け中東選手権登録のアル-アティヤとは直接争いたくない、との意向を示したルカヤナクは2番手。その背後には、この悪名高い岩場のラフロードで、重量を抑えるべくスペアタイヤ1本搭載のリスキーな戦略で勝負したガラタリオティスが続き、なんとか首位攻防に喰らい付く展開となった。

 さらに4番手には、前戦でジュニアタイトルのERC1獲得を逃し、プライズの10万ユーロ(約1200万円)獲得を逃したクリス・イングラム(シュコダ・ファビアR5)が、クラウドファンディングでエントリーフィーを掻き集め、引き続きトックスポーツWRTからのエントリーで背水の陣。

マルコ・マルティン率いるMM-Motorsportのフォード・フィエスタR5で17年ぶりのERC参戦となったミッコ・ヒルボネン
らしからぬステディな走りに徹し、選手権防衛を狙ったアレクセイ・ルカヤナクだったが、レグ2で悲運に見舞われる
ナッサー・アル-アティヤは、全12SSで一度もラリーリーダーの座を譲らず、完全勝利を成し遂げる

 そして旧友マルコ・マルティンの誘いにより17年ぶりのERC参戦となったヒルボネンは、ロングステージ中盤のブレーキフェードによるペースダウンを余儀なくされながら、MMモータースポーツのフィエスタR5を総合6番手に導く、さすがのドライビングを披露した。

 続く日曜レグ2もアル-アティヤの快走が続き、午前のロングステージを含む3SSすべてで、トップタイムを叩き出す。一方のルカヤナクも「(ERCのシリーズ戦を追っていない)彼と争うのは馬鹿げている」と、“ロシアン・ロケット”の異名らしからぬ全ステージ2番手タイムの堅実な走りでラリーを進めるも、SS10フィニッシュ目前、残り1km弱の地点でまたも今季を象徴するような悲劇に見舞われる。

 電気系を軸としたメカニカルトラブルに襲われた王者のシトロエンC3は、なす術なくパワーを失いステージ上でストップ。そのままレグリタイヤに。代わって2位に上がったのは薄氷の参戦だったイングラムで、同じくタイトルを争うウカシュ・ハバイ(シュコダ・ファビアR5)が電気系トラブルにより、午後のループで30%以上スロットルの明かない不具合で総合4位に終わったことにより、ポイントスタンディングで18点差のマージンを築くことに成功した。

 さらにインターコムの不調がダメ押しとなり2分以上を失ったハバイに代わり、ヒルボネンが最後の最後で3位表彰台を獲得。ブレーキ不調以外はなんのアクシデントもトラブルも抱えず、15回のWRC優勝経験が伊達ではないことを示したヒルボネンが「久々のステージラリーは、ものすごく楽しかった」と、フィニッシュランプ後に3位を確保することとなった。

 この後続のトラブルを尻目に、危なげない走りで首位フィニッシュを果たしたアル-アティヤは、最終的に3分5秒9という圧倒的なリードでキプロス通算6勝目の新記録を達成。昨年の最終ステージで逃していた記録更新を1年越しで実現することとなった。

「そう、2018年最後のステージでこの記録達成を逃していて、あのときは本当に悔しかった。でも、今はすべてOKさ。最後のステージは昨年を思い出して、本当に慎重に走ったよ(笑)。勝ててうれしいし、主催者に感謝したい。僕らはこのラリーが大好きなんだ」

 これで2019年のERCタイトル戦線は18点差の首位イングラムを軸に、伏兵ハバイとディフェンディングチャンピオン、ルカヤナクの三つ巴に。運命の最終戦ラリー・ハンガリーは、同国北部ニーレジハーザのターマックを舞台に、11月8~10日に決戦のときを迎える。

クラウドファンディングでエントリーフィーを掻き集め、ERC王座を狙うクリス・イングラムは、最大の結果を得て最終戦へ
2019年序盤からコンスタントに入賞を続け、タイトル戦線に踏みとどまるウカシュ・ハバイ
「最後のステージは昨年を思い出して、本当に慎重に走ったよ(笑)」と、余裕を見せた勝者アル-アティヤ

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