<隠れた名盤> 秋元順子『令和元年の猫たち~秋元順子 愛をこめて~』 猫をフィルターに孤独を映し出す

秋元順子『令和元年の猫たち~秋元順子 愛をこめて~』

 デビュー15周年として猫にまつわる楽曲を集めたアルバム。一般的な猫のイメージからか、哀しい女性と猫を重ねた恋歌が多い。それを70代の秋元順子(予想通り猫好き)が温かく見守るように歌う。桑山哲也によるアコーディオン演奏が全編に加わったことで、楽曲の軽快さも淋しさも増した気がする。

 カバーの9曲には『黒ネコのタンゴ』や『ノラ』といったヒット曲もあるが、大半はあまり知られていない楽曲を収録。浅川マキ『ふしあわせという名の猫』、中島みゆき『なつかない猫』、山崎ハコ『ワルツの猫』といった訳ありな状況を歌ってきた女性の曲が前半に収録され、猫をフィルターに人間の孤独や身勝手さが映し出される。

 カラオケ愛好家に人気の『猫のファド』(リンダ・コラソン)や『NE-KO』(保科有里)といった歌謡曲系の楽曲は、当然ながら上手いのだが、本作のクライマックスは、8曲目の『猫につけた鈴の音』(なかにし礼)だろうか。身重の女性に去られ、彼女が残した身重の猫と暮らす男が描かれており、シャンソン風に緩急を使い分ける秋元の歌声に聞き惚れる。

 ラストに新曲『たそがれ坂の二日月』を収録。ややスモーキーな声質だからこそ、失恋を重ねた主人公の切なさが滲み出ている。本アルバムを聴けば、身近にいる猫に自分の本音をそっと話してみたくなるはず。

(キング・2727円+税)=臼井孝

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