<大ヒット盤> 高橋真梨子『MariCovers』 お互いに年を重ね、くつろいで聴ける歌声に

高橋真梨子『MariCovers』

 『桃色吐息』がヒットした1984年までの初期アルバム9作の中から11曲をセルフカバーしたアルバム。本編は、高橋がもっと陽の目を浴びてほしいという楽曲中心で、ベスト盤的な味わいとは異なるが、そこが良い。

 全体として、今の彼女の歌声で歌謡ポップスを沢山聴けることがとても新鮮だ。近年は自作詞の多い高橋が、本作では康珍化や竜真知子、大津あきら、来生えつこ等が描くラブソングを歌っているのだ。スマホのない時代のせいか、人と人との距離が近く、高橋の歌声がいつも以上に熱く感じられる。恋人のボクサーのもとを離れる『BAD BOY』などは、昭和を描いた名画の主題歌かと思うほどドラマティックだ。

 また、多くの曲でオリジナルよりキーが下がっていて、当時タイアップのCMやドラマで聴いていた『アフロディーテ』や『祭りばやしが終わるまで』は、激情から穏やかな愛へと、その印象が変わっている。ただ、聴き手も同じだけ歳を取っており(笑)、くつろいで聴けるのは今回の新バージョンだろう。特に、松井五郎作詞×玉置浩二作曲の『忘れない』は、深みのある歌声により、別れても続く恋慕がより強く響く。

 初回盤では、初期の中でも、『for you…』や『あなたの空を翔びたい』などの人気曲を、近年のライブ音源にて集めたCDも追加。本作を聴けば、変わりゆくものをより前向きに捉えることが出来るはず。

(ビクター・2CD初回盤3704円+税)=臼井孝

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