【岐路 郊外百貨店の今】(上) 購買行動変化が打撃

閉店間際まで大勢の買い物客が詰め掛け、名残を惜しむ様子が見られた伊勢丹相模原店=9月30日午後6時45分ごろ

 9月30日午後7時すぎ。小田急線相模大野駅前で、伊勢丹相模原店が29年間の歴史に幕を下ろした。閉店セレモニーで山下洋志店長(53)は「多くのお客さまにご来店いただき、日々支えてもらった」と語り、玄関前の明かりが消えた後も名残を惜しむ人々が途切れなかった。

 開業当初から約20年間売り場に立ったという女性(70)は、かつての従業員仲間とセレモニーを見守り「さみしい」と繰り返した。近隣に住む男性会社員(54)も「駅至近の立地。街が衰退しなければよいが」と指摘した。

 伊勢丹相模原店はバブル期の1990年9月から、相模原市内唯一の百貨店としてにぎわいを生んできた。93年には増床し、ピークの96年度は売上高が377億円にまで伸びたが、2018年度は187億円と半減していた。

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)は同店の閉店理由として、消費行動の変化や周辺商業施設との競争激化を挙げる。「こだわりの強い品は都心で買い求め、廉価品は専門店やインターネット通販へと流れた」。主力の衣料品で購買客を囲い込み切れなかった、と説明する。

 百貨店業界では近年、大都市で富裕層やインバウンド(訪日外国人客)の高額品需要を追い風に売り場を拡張した一方、地方の不採算店を整理する動きに歯止めがかからない。従来の主要顧客層の高齢化によって売り上げが減少。インターネット通販の台頭も追い打ちを掛けた。こうした行き詰まりの現状に、抜本的な打開策を見いだせていない。

 消費者の購買行動の変化は、各地の百貨店に構造転換を迫った。自社運営の売り場展開から有力テナントの誘致で集客維持を図る「脱百貨店」「専門店化」の動きが相次いでいる。

 相模大野の隣、小田急線町田駅では小田急百貨店町田店が3月上旬に大規模リニューアルを完了。「ビックカメラ」「無印良品」といった集客力の高いテナントを入居させた。小田急百貨店はほぼ同じころ、藤沢店の婦人服や紳士服、子供服などのフロアだった2階から7階までを全面改装。建物全体に「ODAKYU 湘南GATE」の名を冠し、専門店を中心とする業態へと大きくかじを切った。

 「百貨店の上質さと新テナントが融合し、フロア特性と多様性のある売り場に生まれ変わった」と小田急電鉄。両店とも若年層の獲得が進み、百貨店部分の売り場面積が大幅縮小した藤沢の店も「坪当たりの売り上げは上昇している」という。

 跡地利用が注目される伊勢丹相模原店を巡っては、三越伊勢丹HDが現在、野村不動産と土地・建物の売買交渉中で、野村不動産はマンションと小売店の複合施設整備を検討している。こうした案は利便性や目新しさで消費者を引き付けようとする半面、郊外で百貨店業態を維持する難しさを如実に物語っている。

 地域経済をけん引し、街の顔を担う郊外の百貨店が今、撤退や業績不振に苦しむ。県内も例外ではない。岐路に立つ百貨店の今を報告する。

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