「モンゴルのルカク」がやばい?モンゴル代表、“急成長の秘密”を現地でプレーする日本人に聞いた

日本代表は10日、2022年カタールW杯アジア2次予選でモンゴル代表と対戦する。

モンゴルは2000年以降にサッカーの国際大会に参加し始めたばかり。W杯への出場はもちろんアジアカップの出場もないが、今予選では初めて1次予選を突破し、これが日本代表との初対戦となる。

そんなモンゴル代表は一体どんなチームなのか?Qolyでは、モンゴル1部リーグのFCウランバートルでプレーしているMF大津一貴選手にお話しをうかがった。

高まるモンゴルでのサッカー人気

Qoly(以下略):いよいよ日本とモンゴルの試合ですが、現地での盛り上がりはいかがですか?

大津(以下略):サッカーに関わる人たちは、日本代表と試合ができることを楽しみにしています。また、街の中心部に試合に関する宣伝看板も登場していますよ。

ただ、国民全員が関心を持っているわけではなく、この試合があることを知らない人がかなり多いのも現実でもありますね。

ーー日本戦にはサッカー通としても有名な元横綱の朝青龍さんも来日しますね。

朝青龍さんにはお会いしたことがあります。日本人のサッカー仲間4~5人と食事をさせていただいて、サッカーの話をしたり現役時代のお話をうかがったりしました。

ただ、サッカーの代表チームとの関りが直接あるわけではないみたいです。

ーーモンゴルといえばその朝青龍さんの相撲が有名ですがサッカー人気はどうなんでしょうか?

相撲のような人気はまだまだありません。他にはバスケットボールとかバレーボールも人気ですね。しかし、ここ数年で少しずつサッカー熱が盛り上がってきていることは事実だと思います。

ーーモンゴルの方はサッカーをよく見られるんですか?

国内リーグは全試合を放送していますよ。ただ、地上波でプレミアリーグやUEFAチャンピオンズリーグを放送しており、むしろ、国内リーグより見られているのではとも感じるほど。欧州トップクラブの熱狂的なファンもいます。

ーーJリーグの知名度はどうですか?日本人で最も知られている選手などいれば教えてください。

サッカーが好きな人はJリーグも知っています。日本人選手で有名なのは、本田圭佑選手と香川真司選手ですね。

ただ先ほども言いましたが海外サッカーの人気が高いので、中島翔哉選手や柴崎岳選手など欧州でプレーしている選手は知られています。

モンゴル人のポテンシャルは

ーーそうした視聴環境の効果か、近年モンゴル代表およびモンゴルサッカーは急成長した印象があります。

私は2015年にモンゴルに来て、その後ニュージーランド、タイを経て昨年戻ってきたんですが、4年前と比べても急成長したのがはっきりと分かりますね。

ーーそんなに…モンゴルでは今年から3部リーグが創設されたそうですが、協会の取り組みの成果でしょうか?

協会の取り組みもあります。

ただそれ以上に日本人選手をはじめ、多くの外国人選手及び、外国人監督が近年増えたこと。また、育成に力を入れるようなクラブが出てきたこと。あとは、モンゴルサッカーに関わる現地の人たちの努力の証ではないでしょうか。

ーー外国人の枠や待遇・給与などはどうなんでしょうか?

今年の外国人枠は3人+アジア枠1。待遇は選手の実力や実績によって大きく変わります。給料0で契約している選手もいれば、金満クラブで月2000~3000ドルでプレーした選手もいます。

ーーえ、プロリーグなのに給料ゼロですか?

はい。別の仕事をしながらプレーしています。学生さん…高校生の選手なんかもいますよ。数年前、夏はサッカー選手、冬はバスケットボールをやっているという選手なんかもいました。

ーーリーグのレベルはどうですか?

日本と比べたら落ちますが、“助っ人”としてプレーしていて感じるのは、例えばJリーグでバリバリ活躍してる選手だからといって簡単に成功できるかどうかは分からないのではないかと。

ここでは個人能力や全体をまとめていく資質が求められますし、かといってただ上から怒鳴りながらだと付いてきてくれない。どこの国でもそうですが現地の文化をしっかり理解しつつ、適応する必要があると思います。

ーーモンゴル人の特徴はどうですか?

骨格、筋肉の付き方がもうナチュラルに違いますね。遊牧民とかそうした生活環境の影響もあるのかと思います。

一方、やるぞってなった時に目の前のことには力を発揮できるんですが、サッカーはチームスポーツですからね。彼ら自身も団体競技が苦手だと言ってましたが、周りと協力するといった部分でこれまでなかなか上手くいかなった。そういう国民性はあるのかなと。

それが現在のミヒャエル・ヴァイス監督に代わって組織的に戦えるようになり、現在の成績に繋がっているという印象です。

ーーモンゴルサッカーの将来に可能性を感じますか?

まだまだ発展していく可能性は十分あると思います。そのためには、サッカーを取り巻く環境の改善がもっと必要だと思いますが。

「モンゴルのルカク」を警戒せよ

ーー日本代表との試合について聞いていきたいのですが、モンゴルで一番有名なサッカー選手、あるいは日本が警戒しなければならない選手はいますか?

有名な選手かは分かりませんが、個人的に現モンゴル代表で一番良い選手だと思うのは10番のMFツンデ(ツェンドアユシュ・フレルバートル)選手ですね。

ポジション的に私と同じボランチで、足元の技術があってボールをさばける。ゲームメイクしながら守備もできる。対戦する際はマッチアップする機会が多いのですが、相手にしていて嫌な選手です。

ーー青森山田での後輩である柴崎岳選手みたいな感じですかね?

代表では4-3-3の中盤底に入る選手なので、柴崎選手よりはもっと守備的でガツガツしてますね。

あと11番のFWナランボルド・ニャムオソル。彼は長身でフィジカルが強く、スピードも備えたストライカーで、外国人に混ざって毎年リーグ得点王を争っているような選手です。

分かりやすくいうと、ベルギー代表のロメル・ルカク選手のような感じですね。

チームメイトであるモンゴル代表の12番バルジンニャム・バトボルド(左)と大津選手(右)

ーールカク…こうして聞いているとなかなか手強いなって感じるのですが、今のモンゴル代表は日本代表に勝つことができると思いますか?

モンゴル代表に限らず、W杯予選・同グループの全ての国が日本代表に勝つ可能性はあると思います。サッカーに絶対は無いので。

ただ、日本と戦うとなれば現実的にはボールを支配される。守備的に戦うことになると思いますが、このチームにはトゥルバト・ダギナーというDFを統率できる選手がいて、彼を中心に守ってカウンターからナランボルド選手で一発を狙う感じになるのではないかと。

心情的にはもちろん日本代表には勝ってほしいんですが、モンゴル代表には一緒にプレーしている仲間がたくさんいます。

彼らとは街中で普通に会ったりもするので、頑張ってほしいですね。特に点取ってほしいって気持ちがあって、取るならナランボルドではないかと思ってます。

ーー最後に大津選手のこともおうかがいしたいのですが、今後もモンゴルでプレーし続ける予定ですか?

私は選手として「国際大会出場」を目標にしています。

そのなかで、出場するまでの過程を「蹴球サロン」というオンラインサロン内で共有しており、ブログ等でも海外サッカーについて発信しています。なので、目標を達成できる可能性があればすぐにでも他に移るつもりです。

ただ、モンゴルでいろいろお世話になっている方がいてサッカーイベントをしたりもしているのですが、そうしたなかで見えてきたことがあります。

それはサッカーではなく環境の問題なんですが、サッカーを通じて国を良くできればいいなと思うようになりました。現役中でもできることはやっていきたいですね。

また、私は日本でプロになれなかったのですが、諦めきれずに世界へと飛び出しました。メディアではほとんど取り上げられず、環境も良いとは決していえないのですが、こうしてサッカーができる環境はあるし、好きなサッカーで生きています。

ですから日本の皆さんには、いろんな道がある、いろんな生き方があるってことを伝えたい。そういう選手が世界にいることを知るのは、日本のサッカー界にとっても大きいと思うんです。

そして今回は、モンゴルにもプロのサッカーリーグがあり、その国の人たちの想いを背負って戦う代表選手たちの頑張りを、結果に関係なくしっかりと見てあげて欲しいと思います。

大津 一貴

青森山田高校、関東学院大学でプレーした後、ケガの影響で一度はサッカー選手を引退してサラリーマンに。しかし22歳で癌を発症。一命は取り留めたものの、後悔したくないとの想いでサッカー選手に復帰する。

そして社会人でのプレーを経て海外へ飛び出し、2015年、モンゴルで念願のプロサッカー選手になった。その後ニュージーランド、タイと渡り、昨年から再びモンゴル1部リーグのFCウランバートルでプレーしている。

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