恐るべき鷹・工藤監督の勝負勘 なぜ“CS男”の内川に代打・長谷川勇を送ったのか?

ソフトバンク・工藤監督【写真:荒川祐史】

内川はこの試合までCS通算打率.375、10本塁打と短期決戦にはめっぽう強かった

■ソフトバンク 8-4 西武(CS・9日・メットライフ)

 9日に始まった「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージ。メットライフドームでリーグ覇者の西武と、1stステージを勝ち上がってきたリーグ2位のソフトバンクが戦ったその第1ラウンドは、終盤に逆転したソフトバンクに軍配が上がった。

 勝負を分けたのは8回の攻防だった。1死から柳田の内野安打、デスパイネの中前安打で1死一、三塁のチャンスを作った。松田宣が空振り三振に倒れて2死となったところで、工藤監督が思い切った決断に出た。短期決戦にめっぽう強い“CS男”の内川に代えて、代打・長谷川勇を送ったのだ。

 この試合までのCS通算打率.375、10本塁打30打点はいずれも歴代最高。1stステージでもその勝負強さを遺憾無く発揮していた内川に対する、まさかの代打策。アッと驚く采配だったが、これが当たる。長谷川勇が4番手の平良から、左前にポトリと落ちる適時打を放ち、同点に追いついた。

 さらに、この一打でデスパイネの代走として起用されていた周東が一気に三塁へと進塁。つづくグラシアルへの初球のスライダーを捕手の森が弾いたのを見ると、周東が一気に本塁へと生還した。指揮官の選手起用が見事に的中し、試合をひっくり返した。

 しかし、この場面でなぜ、工藤監督は内川に代打・長谷川勇を送るという決断に至ったのか。CSでの勝負強さは1stステージ、さらには過去の戦いでも十分に知っていること。その決断を試合後、指揮官は「苦しい決断だったんですけど、後悔しないように思いきっていかせていただきました」と振り返った。

対平井用に準備させていた長谷川勇だったが、平良に代わってもそのまま起用

 まず、決断の一因に、内川と西武リリーフ陣の相性があった。森浩之ヘッドコーチは言う。「8の0だったので、長谷川勇を準備させて思い切って代えた。監督も8の0は引っかかったと思う」。この回、まずマウンドに上がったのは、西武のセットアッパーの平井。内川が今季8度対戦してノーヒットの相手だった。それで、ソフトバンクベンチは代打・長谷川勇を準備していた。

 ただ、柳田、デスパイネに連打を浴び、松田宣を迎えたところで西武ベンチは平井を諦め、4番手に平良をマウンドに送った。もともとは対平井用に準備していた長谷川勇だったが、内川はこの平良とも2打数0安打。さらに「今日はちょっとタイミングが合っていなかった感じがした」と工藤監督は見た。投手は代わったものの、そのまま長谷川勇の起用に踏み切り、逆転劇が生まれた。

 1stステージ第2戦では松田宣を今季初めてスタメンから外し、代わって起用された福田が決勝弾。第3戦では内川が同点打、決勝弾と1人で全得点を叩き出し、そしてファイナルステージ第1戦ではその内川への代打・長谷川勇が起死回生の同点打だ。2年前のCSでは城所のスタメン抜擢や故障明けの柳田の1番起用、昨季も松田宣のスタメン外しなど短期決戦での決断がことごとく当たってきた。

 このCSが始まってから、工藤監督が繰り返してきた言葉がある。それが「後悔のないように決断するところは決断する」ということだ。その選手の実績やキャリアにはこだわらない。その日の選手個々の調子、相手とのデータ、相性……。それらを勘案した上で、指揮官自身が最も最善だと思う一手を打つ。後悔なき決断が、この日もまた、勝負を分ける重要な策となった。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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