実話落語「おっさんずラグビー」 スコッツと日本が街角スクラム

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とっさに撮った街角スクラム。(左下から時計回りに)白Yシャツさん、スコAさん、スコBさん、同僚=10月9日、東京・新橋

▼スタジアムに行けずとも、ラグビー・ワールドカップ(W杯)は満喫可能。10月9日夜、ウェールズ対フィジーに好ゲームの予感。だが生中継は有料J SPORTSのみ。ならばパブに繰り出すしかあるまいと、ラグビー経験者の同僚と連れ立ち、東京は汐留の職場からてくてく新橋へ。はやる気持ちで足早に、第一京浜を渡ると、向こうからガタイのいいスポーツマン風情の白人男性、うつむきがちにスマホで話し、渡ってくる。

「あ!マイケル・フーパーだ、 ハーイ!」と同僚。

「ハーイ」。応えて手を挙げ、去って行く。

いきなりオーストラリア代表(愛称ワラビーズ)キャプテンとすれ違うとは、何て夜だ。

▼パブに着いたはいいけれど、幾つもテレビがある店内は、外国人がいっぱいのお運び。ごった返して、さながらプチ・ロンドンだ。細い裏道に面した壁はガラス張り。外に並んだ高椅子に腰掛け、ギネス片手にガラス越しのテレビ観戦とあいなった。

▼「ヘーイ、君らもラグビー好きか?」。50がらみの外国人男性、いい具合にビールが回って英語で話し掛けてきた。聞けば「アイム・スコティッシュ」(以後、呼称スコA)。スコットランドはついさっき、ロシアに61-0で大勝したばかり。気分よかろう。来る10月13日には、決勝トーナメント進出をかけた、日本vsスコットランドの大一番だ。

▼同僚:「おー、スコットランドですか。日曜の試合、お手柔らかにお願いします」

・スコA:「でもタイフーンが来てるんだろ?」

・同僚:「いや、試合前に台風は通過するよ」

・スコA:「そうか。俺はジャパンが勝ち進めばいいと思ってるよ」

・筆者:「は? うそおっしゃいよ」

・スコA:「マジで。だってジャパンはアイルランドを打ち負かしたんだ、すっごいわマジで。ジャパンは素晴らしいチームだ。だからジャパンが勝てばいいんだよ。くたばれラグビーーー!」

・筆者:「やけくそか(笑)」

▼「あれ? 今のは何の反則だった?」。逆サイドから米国人男性がナチュラルに会話参戦。

・筆者:「多分ノット・ロールアウェイだね(タックル後に倒れた選手がその場を離れず妨害する反則)」

さらに、世界的なあの証券会社で働いているという若い日本人女性も加わり、

証券さん「ラグビー分からないけど連れてこられました。楽しい。あたしはオーストラリアに留学経験があってアメリカは苦手なんだけど(笑)、どっちの応援?」

米国さん:「んー、ジャパン(笑)」

証券さん:「あたしはオールブラックス(ニュージーランド代表)が好き」

筆者:「ワラビーズじゃないんかい」

米国さん:「ニュージーランドに旦那でもいるの?」

証券さん:「独身よ」

米国さん:「ニュージーランドに元彼でもいるんだな」

証券さん:「私の元彼はミャンマー人(笑)」

▼どっちへ転がるや分からぬ会話が連続、人が入り乱れる。外国人たちは「俺はスコットランド、君もか?」「いやイングランドだ」と、お国を確認し合ってから、だべりだす。ウェールズvsフィジーは接戦、好ゲームになってきた。じっくり見たい。だが、またあのおっさんが話し掛けてくる。

▼スコA:「俺は日本に来る前にいろいろ本を読んできたんだ、ブシドウ、サムライスピリット、ラグビーと近いぞブ・シ・ド・ウ!」

・同僚:「よく知ってるねー」

・スコB:「そうだ、ラグビーとブシドウは近い」。アロハシャツのおっさんB登場。

・スコB:「ジャパンは、あの彼、フクシマはいい選手だな」

・同僚:「フクシマ? ああ、フクオカね、福岡堅樹」

・スコB:「ノー、ナンバー14」

・筆者:「ああ、マツシマね、松島幸太朗」

・スコB:「イエス! 彼はファンタスティックだ、いいウィナーだ」

▼スコA「こいつ(スコB)は俺の友達。そして私が、スコットランドから来た変なオジサンです」

筆者:「知ってるよ(笑)」

スコA:「おいなんだ、お前既に知ってるのか(笑)。このダチはフッカーなんだ」

同僚:「確かにフッカーっぽい体型だ」

スコB:「こいつ(スコA)は」

スコA:「指を差すな」

スコB:「こいつはナンバー8」

筆者:「おお。ジャパンのナンバー8、ヒメノ(姫野和樹)も素晴らしいよ」

スコA:「ああ知ってるぞ」

同僚:「僕は左プロップだったんだ」

スコA:「おお!いいね」

▼そこへ、白いYシャツの日本人サラリーマンが通りかかり、ガラス越し、店内のラグビー中継を見やった。

・同僚:「あ、フッカーっぽい体型っすね」

・白Y:「あ、私ほんとにフッカーです」

・全員:「ええっ!マジ?」「フッカーが2人になった」

・スコA:「よし、やろう!」

変なおじさん、やにわに腕を上げ、Yシャツフッカーを促す、肩を組む。つられて同僚とスコBも肩を組む。果たして<スコッツ×日本人>コンビが2組成立。2対2、向き合った。

「クラウチ・・・・バインド・・・」。互いのシャツの肩口をつかむ。

「セット」「ウーッ!」

夜の新橋、路地の裏、おっさん4人がストリートスクラム。ボールはない。酔ってスクラム組むとはバカだねまったく、胃から全部戻ってきやしないのか。取り巻く人々、皆ビール片手に、大笑いしている。

▼<同僚×スコBチーム>が押し切り勝利。しかしどうせやるなら国別で分かれないもんかね、大一番前の占いにもなりゃしない。おっさん3人が満足そうだが、変なおじさんスコAは「マイ・ネック・・・」と首を押さえてしかめ面。「ご自愛あれ(笑)」。

▼そうこうするうち、フィジーは終盤の大チャンスをミスで逃し、ウェールズに勝ち越された。ノーサイド。

筆者:「さてと、行くとしますか、でないと笛がなる」

同僚:「何の笛?」

筆者:「ノット・ロールアウェイでしょ」

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第128回=共同通信記者)

※ちなみに同僚記者は大会前、ラグビー経験者サンドウィッチマンのお二人やTBS系ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演の笹本玲奈さんらに取材。中でも女優・山崎絋菜さんは国内外の選手から何からに詳しすぎる筋金入り。同僚は「ラグビーになじみのない人向けの記事には盛り込めないマニアックな話だらけでした」と笑う。山崎絋菜さんは日本テレビ系のみならず、W杯期間中、NHK・BS1で放送の「ラグビーW杯2019ウイークリーハイライト」でも、おびただしい量のラグビー愛が漏れ出てしまっている。見ていて楽しい。

※別件ですが、今年8月に当欄で紹介した、カルロス・ベルムト監督が女優合アレンを、ほぼ「貞子」にして東京で撮影したラ・ビエン・クエリダ (LA BIEN QUERIDA)のミュージックビデオ『Me envenenas』が完成しました。YouTubeでご覧になれます。