『わたしを支えるもの すーちゃんの人生』益田ミリ著 わたしにしか聞こえない応援団

 益田ミリのマンガ、「すーちゃん」シリーズを手に取ると、友達から届いた手紙を読んでいるような気分になってくる。年が近いし、登場人物の置かれている環境に親近感があるからかもしれない。書評を書いているはずなのに、気づけば「お手紙ありがとう」とか書き出す始末。正直、若干、自分が怖い。

 すーちゃん、ちょっと会わないうちに40歳になったんだね。ま、私もその分歳とってるけど。大丈夫だよ、すーちゃんかわいいし、ボーダーも似合うし、全然、まだまだ。……って書きながら、手が止まる。「全然、まだまだ」なんなんだろ。全然まだまだ「30代に見えるよ」?全然まだまだ……ああ、「女の賞味期限、切れていないよ」だ。変なの。私(と、たぶんすーちゃんも)、恋愛も結婚も、優先順位の下の下の下に追いやって、仕事と遊びに一生懸命だったはずなのに、女として「アリ」であることに、心のどこかでこだわっているみたい。すーちゃんと話していると、そんな自分の中の割り切れなさや揺らぎに、嫌でも気付いてしまうのだ。

 今も保育園の給食を作っているんだね。もう3年目なんだね。結婚も出産もしていないのは私も一緒。断捨離したり、自分にバースデーケーキ買ったり、園児にこっそり好きな男の子の名前を教えてもらったり、近所に住むお友達のさわ子さんとご飯を食べに行ったり。クリスマスマーケットにお見舞い、お父さんと食べた天ぷらそば、そしてかつて好きだった人のこと。

 頭では、進めてはいけない恋だとわかっているのに、流されたり浮かれたり。そんな甘くて苦しい葛藤の中で、ひとり立ち尽くす夜。すーちゃんの電話が、鳴った。その報せを受け、すーちゃんは目を覚ます。どうにもならない現実が、大音量で彼女を起こしたのだ。

 読み終えて浮かんだのは、ずーっと昔の思い出。おとうさんがいて、おかあさんがいて、おにいちゃんがいて、よく晴れた日で、部屋の窓は少しあいてて、そこから入る風がレースのカーテンを揺らしてて、それがまどろむ顔をふわっと撫でて、くすぐったくて、眩しくて、そんな午後のこと。ずっと昔の、忘れかけてたその景色を、ふと思い出した。そうだ、私を支えているのはこれまでの日々であり、両親や、出会った人たち、そしてわたしをここまで連れてきてくれた、ここにいるわたし自身だ。そしてお父さんとお母さんの向こうにはおじいちゃんとおばあちゃんが、そのむこうにはひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが、そのむこうには、そのむこうには……。だから大丈夫。だってわたしはいつだって最強のわたしなんだから。フレーフレーと、自分にしか聞こえない、応援団の声が鳴り響くような一冊だ。

(幻冬舎 1300円+税)=アリー・マントワネット

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