頭脳警察「無冠の帝王が踏破した万物流転の半世紀」

再結成の引鉄だったソロ楽曲「R★E★D」

──今回の結成50周年記念盤はお世辞抜きで新曲がどれも出色の出来なので、セルフカバーを入れずに新曲だけで押し通しても良かったのではないかと思ったのですが。

PANTA:新曲はまだいっぱいあるんだけど、スタッフからセルフカバーを入れてほしいというリクエストがあってね。テイチクからは「2枚組にすれば良かった」と言われているけど(笑)。

──「さようなら世界夫人よ」や「コミック雑誌なんか要らない」の再録はファン・サービスの意味合いもあったと思いますが、PANTAさんのソロ楽曲である「R★E★D」まで入っているのが意外でした。

PANTA:頭脳警察が再結成するきっかけの曲だからね。『R★E★D』は“Revolution”(革命)、“Evolution”(進化)、“Devolution”(退化)を繰り返すアジアをテーマにしたアルバムで、未完の長編小説である『闇からのプロパガンダ』を原作とする架空の映画のサウンドトラックという体だった。その後に『プラハからの手紙』という『クリスタルナハト』の予告編と言うべき12インチ・シングルを出して、「ちょっとヘヴィな作品が続いたからワンクッション置かない?」と当時のディレクターから言われたんだけど、「いや、この勢いのまま行かないと『クリスタルナハト』は二度とできない」と突っぱねたんだ。それで10年来構想を温めてきた『クリスタルナハト』をやっと完成させたものの、その頃のライブのメニューに『SALVAGE(浚渫)』や『16人格』の曲が全然ハマらない。何が一番しっくりくるかと言えば、頭脳警察の曲だった。

──『プラハからの手紙』で「赤軍兵士の詩」(頭脳警察の発禁ソング)をやるのは必然だったわけですね。

PANTA:うん。ああ、これはもうそういう時期が来たのかな? と思った。1975年に頭脳警察を解散させた時は再結成なんて一切考えなかったけど、そろそろ出動しろよってことなのかな? って。それでTOSHIに電話したら「1年待ってくれ」と言われて、その間に俺は不買運動を起こされた『KISS』に引っかけて『P.I.S.S.』というアルバムを作って、1990年の再結成に臨むわけだ。その年に生まれたのが澤竜次であり宮田岳なんだけど(笑)。そんなわけで「R★E★D」は自分にとってとても重要な曲で、頭脳警察の50周年に相応しいかなと思ってね。歌詞も今の時代に即したところがあるしさ。

──そうなんですよね。「香港からSOS」という一節があってもいいと思いましたけど。

PANTA:そうだ、香港は入れたかったね。でも香港は東京に集約されているとも言える。結局、ペルシャ湾でも東京でも「Newsは消されていく」んだから。セルフカバーというのはだいたいオリジナルには敵わないものだけど、「R★E★D」に関しては頭脳警察としてやることに意義があると思った。竜次の弾くギターがまたいいんだよ。

──TOSHIさんは「R★E★D」をやってみて如何でした?

TOSHI:「R★E★D」は1990年の再結成の頃から何度もライブでやってきたし、レコーディングでも違和感は全くなかった。歌詞も全然古くさくなってないしね。

──すでにライブでも披露されている「麗しのジェット・ダンサー」〜「メカニカル・ドールの悲劇」〜「プリマドンナ」〜「やけっぱちのルンバ」のセルフカバー・メドレーは頭脳警察のサニーサイドに焦点を当てたと言うか、軽快なロックンロール・バンドとしての一面がよく出ていますね。

PANTA:スタッフからのリクエストもあったし、あの時期の曲をまとめてメドレーでやってみようということになって。

──4曲とも『誕生』と『仮面劇のヒーローを告訴しろ』の収録曲、TOSHIさんがバンドを一時離脱していた時期の曲ですが、何か意図するものがあったんですか。

PANTA:言われてみればそうだね(笑)。

TOSHI:何も考えてなかった。オリジナルもほとんど聴いたことがないし、今回は新曲みたいな感じで叩けたよ(笑)。

澤:あのメドレーは渋谷のBYGで初めてやったんですけど、レコーディング前にBYGで定期的にライブをやれたのが良かったです。そこでレコーディングを想定したアレンジを試行錯誤できたので。

──「コミック雑誌なんか要らない」は、3月に亡くなった内田裕也さんに捧げる意味も込めて再録したんですか。

PANTA:捧げるって感じでもないな。ただ裕也さんが唄い続けたことで頭脳警察の代表曲としてスタンダードになったのは確かだし、このメンバーで新たな「コミック雑誌なんか要らない」を残しておきたくてね。

どういうわけか時代とシンクロしてしまう

──同じくスタンダードの「さようなら世界夫人よ」は今回、吉田美奈子さんのパワフルなコーラスが入ったことでとてもエモーショナルな仕上がりになりましたね。

PANTA:ゴスペルみたいな荘厳な雰囲気もあっていいよね。『頭脳警察セカンド』をレコーディングしている時、スタジオにいつも宮沢賢治の本を抱えた少女がいてさ。せっかくだからフルートとピアノで参加してもらったんだよ。それがまだ音楽の世界に入る前の吉田美奈子だった。一昨年、中津川の『THE SOLAR BUDOKAN』で45年ぶりに彼女と再会して当時のことを話したら、「宮沢賢治の本なんて持ってなかった」って言うわけ。持っていたのはジョージ・オーウェルの本だったと。おそらく『1984』かな。昔、スティングと対談した時、「『1984』には“Thought Police”(思想警察)という秘密警察が出てくるけど、ザッパはそれに影響を受けて『Who Are the Brain Police?』を書いたんじゃないかな」と話していたね。

──“Brain Police”、頭脳警察のネーミングの由来ですね。なんだかいろんなことがリンクしてきますが。

PANTA:そんな本を1972年の時点で読んでいた吉田美奈子が、頭脳警察のレコーディングに参加したわけだしね。だけどなんで宮沢賢治の本だと勘違いしたんだろう? 確か当時、彼女は自分のことを“僕”と言っていたからかな? まぁそれはさておき、中津川で吉田美奈子と再会した時に話したんだよ。「再来年は頭脳警察が50周年だから、またフルートを吹けよ」って。「だけどもう全然吹いてないし…」って言うから「練習しろよ」って言って(笑)。結局、今回はコーラスとして参加してもらって、事前に三声のコーラスを考えてきたらしいんだよ。それがあのゴスペル調の仕上がりにつながった。圧巻の歌声だったね。

──「さようなら世界夫人よ」はもともとドイツに生まれ育ったヘルマン・ヘッセが敗戦間近のドイツを憂い、古き良きドイツに向けた惜別の詩でした。PANTAさんが翻訳した歌詞を読むと、今の日本に警鐘を打ち鳴らしているように感じるところが個人的にはあって、ここでもやはり頭脳警察の歌が現代とシンクロしているように思えるんです。

PANTA:どういうわけか時代とシンクロしてしまうんだよ、不思議なことに。ちなみに去年、ロシアへ行った時に現地の人たちと「さようなら世界夫人よ」の話をしたら、みんなあの詩のことを知っていたんだよね。向こうでは「地球にさよなら」というタイトルらしいんだけど、ロシア人の間でドイツ人であるヘッセの詩が知れ渡っていたのはびっくりした。

──そうした代表曲のセルフカバーももちろんいいのですが、新編成によって生まれた新曲の数々がどれもフレッシュかつパワフルでとても素晴らしくて、澤さんを始めとする若い世代のミュージシャンで50周年のメンバーを固めたことが功を奏しましたね。

PANTA:若い布陣で固めるのはずっと考えてた。最初は冗談で「イケメンを集めてみた」とか言ってたんだけど、イケメンなんて誰も喜ばないからさ(笑)。黒猫チェルシーのことはもちろん知ってたけど、改めてちゃんと聴いて、あんなにディストーションがかった歪んだ音だとは思わなかった(笑)。

──1990年生まれの澤さんは、頭脳警察の作品を一通り聴いていたんですか。

澤:高校時代、黒猫チェルシーを組むちょっと前くらいに日本のロックをよく聴いていた時期があって、再発された頭脳警察のファーストを夜な夜なヘッドフォンで聴いてました。一体どんな状況でこういうライブが行なわれていたんだろう? と考えながら、爆音で聴いて。日本のロックの歴史を遡って聴いて、その系譜として今の自分がいるんだというのをヒリヒリと感じていて、当時はまさか自分が頭脳警察でギターを弾くなんて思いもしませんでした。PANTAさんとTOSHIさんに直接お会いすることすら想像もしてなかったですし。

PANTA:竜次はヒップホップとか今の音楽だけじゃなく昔の音楽も詳しいし、彼とは70年代の音楽について話をすることが多いんだよね。その時代の音楽を好きなお父さんやご兄弟の影響が大きいんだろうね。それと驚くことに、彼は岡林信康の親戚なんだよ。

澤:そう、遠い親戚なんです。

──あの慶応三田祭事件で頭脳警察と反目し合っていたはっぴいえんどがバックを務めたこともある岡林信康ですね(笑)。TOSHIさんは澤さんら若いバンドマンと組んでみて如何ですか。

TOSHI:自分までフレッシュな気分になれて楽しいよ。今回、レコーディングして出来上がったのを聴いて、音って正直だなと思った。みんなの音がフレッシュで活き活きとしていて、ピチピチしてる。「あら、恥ずかしい…」みたいな(笑)。

まさかの尺八をフィーチャーした“忍びの歌”

──澤さんは、PANTAさんとTOSHIさんを前に物怖じするようなことはありませんでしたか。

澤:スタジオに入る前は物怖じもしましたけど、頭脳警察でギターを弾ける喜びもあって、浮き足立ったところも若干あったんです。いざスタジオに入ると、お二人が僕ら若手メンバーに対して「まずは自由に、好きなようにやってほしい」と言ってくださって。「君たち3人なりの解釈でやってくれていいから」と。その言葉のおかげで自分たちらしさを出していきやすい空気にはなりましたけど、あまり浮き足立たないように、地に足をつけるように意識しましたね。

──往年の名曲を演奏するプレッシャーもあったのでは?

澤:自分の弾き方でオリジナルとどう変えるかとか、逆に変えないかとか、いろいろと考えましたね。弾きすぎた部分、要らない部分はみんなとの音合わせの中で判断していった感じです。

PANTA:後から加入すると難しいよね。曲のフレーズはすでに決まっているし、そのフレーズのイメージがどうしても強いから。

澤:今回、「コミック雑誌なんか要らない」のイントロを変えることになって、PANTAさんに新しいフレーズを考えてくれと言われたんです。テイチクのスタッフに「竜次の好きなリッチー・ブラックモアが弾きそうな感じでどう?」とか言われて(笑)。あんな日本のロックの代表曲を自分が塗り替えるなんておこがましいと思いましたけど、頭脳警察の懐の深さを感じましたね。代表曲のフレーズは決まったものをやりがちだと思うんですけど、若手の発想に委ねてくれるなんて度量が広いですよね。

PANTA:「ダダリオを探せ」も竜次にアレンジを全部任せたんだよ。アレンジは若手に振り分けてお願いした。

──ああ、だから「ダダリオを探せ」はあんなに性急でパンキッシュなアレンジになったんですね。

PANTA:いいアレンジだよね。ちょっと歌が固い気もするけど。真面目に唄いすぎたと言うか、もっと崩して唄っても良かったかな。

──“ダダリオ”というのは、PANTAさんが映画で共演した女優の名前だそうですね。

PANTA:『I Am Not A Bird』という映画(日本未公開)で共演したアレクサンドラ・ダダリオと、ギターの弦やチューナーで有名なD'Addarioを引っかけてみた。いつもチューナーをなくしちゃうからさ(笑)。『I Am Not A Bird』で主演のダダリオは、昼は英会話の講師、夜は酒とセックスとドラッグに溺れる女性を演じていて、俺は最初、みんながたむろするゴールデン街のマスターを演じる予定だったんだけど、5日間の拘束時間が取れなくてね。1日だけならスケジュールが合ったので役を変えてもらって、ダダリオが車に飛び込むところを助ける役になった。東京のラブホテル街を徘徊する女性の物語だから「ダダリオを探せ」というタイトルにしたわけ。

──なるほど。それにしても、1曲目の「乱破者」は凄まじいインパクトですね。いきなり唸りまくる尺八の音が聴こえてきて、何事かと思いましたけど(笑)。

PANTA:違うCDを聴いてるんじゃないかと思ったでしょ? 不買運動が起きないことを祈るばかりだよ(笑)。

──ロックと純邦楽を融合させたような異色作で、文句なしに格好いいのですが、“乱破”とは“乱暴者”、“無頼漢”の他に“間者”(スパイ)、“忍びの者”という意味もありますね。通りで忍者を彷彿とさせる曲調や歌詞だなと思って。PANTAさんも尺八にのせて“臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前”と呪文のようにつぶやいていますし。

PANTA:あれは九字護身法だね。九字の呪文と九種類の印によって除災戦勝を祈る作法。小学生の頃、親父が「これだけは覚えておけよ」と教えてくれてさ。家紋も甲賀望月の九曜星だったし、もしかしたら俺の祖先は忍びの者だったのかもしれない。いつかそういうテーマの曲を書こうと以前から考えていて、狭山湖の底に沈む勝楽寺村が忍者の隠れ里だったら…と想像を膨らませて書いてみた。“乱破”や“素破”というのは忍びの別名なんだよ。最初は“乱破”を“乱波”にしていたんだけど、“破”にしたほうが頭脳警察らしいんじゃないかとスタッフに言われてね。

──山口義高監督の映画『下忍 赤い影』で忍者の長老を演じたことも関係があるのでしょうか。

PANTA:あの映画は全くの偶然なんだよ。「乱破者」を書き進めていた一方、映画で伊賀忍者の頭をやらないかとオファーが来てね。ここまでリンクしてくるのなら、「乱破者」を映画の主題歌にしてほしかったけど(笑)。ちょっと種明かしをすると、あの尺八のイントロは実は「屋根の上の猫」なんだよ。最初、“乱破”をテーマにした曲を書こうとして、どんな曲調にしても忍びと合わないことに気がついた。たとえばディープ・パープルみたいなハード・ロックでもダメ。忍者が動き回る場面を想像して、一番合うと思ったのが「屋根の上の猫」だった。だから隠しテーマとして「屋根の上の忍者」というのがあってさ。市川雷蔵が主演の『忍びの者』という素晴らしい映画があって、そのヒットを受けて『梟の城』がこれまで何度か映像化されているけど、『梟の城』でも忍者の居場所は城の屋根の上が似合うじゃない? それで「屋根の上の忍者」、「屋根の上の猫」となるわけ。そんな経緯をメンバーに話したら、竜次とおおくぼ君に「イントロの尺八は『屋根の上の猫』のフレーズで行っちゃいましょう!」と言われて、それも面白いかなと思ってね。

水族館劇場の劇中歌で大陸へ踏み込めた

──「戦士のバラード」は去年の9月にLOFT9で開催した『暴走対談LOFT編』で初披露された時から屈指の名バラッドだなと思っていましたが、「疲れたら 休めばいい/倒れたら 夢をみればいい」という囁くような優しい歌詞はPANTAさんにしては珍しいですね。

PANTA:自分の中で2周、3周したのかもね。昔だったら気恥ずかしい、絶対に書かないような歌詞だと思う。そういうことを素直に唄えて、聴く人が素直に聴ける歌でもいいのかなと思うようになった。

──「愛してなんていないけど/君を抱きたい」(「夜明けまで離さない」)なんて唄っていた人が、どういう風の吹き回しでしょう?(笑)

PANTA:ホントだね。まぁ、「戦士のバラード」で「倒れたら 夢をみればいい」と唄っておきながら、「搖れる大地 II」では「いつまで夢をみてるつもりじゃ!」なんて言ってるんだから、何なんだよお前は! って感じだけど(笑)。

──「搖れる大地 I」と「搖れる大地 II」は、水族館劇場の桃山邑さんの作詞ありきだったんですか。

PANTA:そう。水族館劇場が花園神社の境内で『Nachleben 搖れる大地』というテント芝居をやるので主題歌を提供することになってね。「落葉のささやき」も劇団不連続線の芝居(『いえろうあんちごね 特別攻撃隊スターダスト』)の劇中歌で、作詞が菅孝行さんだったけど、芝居から音楽が生まれることが頭脳警察は昔から多かった。

──三文役者の「回転木馬」も作詞が花之木哲さんで、同じく芝居を系譜とする曲でした。

PANTA:そうそう。「ガラスの都会」や「あやつり人形」も芝居に関係した曲だしね。

──「搖れる大地 I」は「此の世の涯に銃をとれ」という歌詞にニヤリとしますね。

PANTA:桃山君が俺にそう唄わせたかったんだろうね。「どんな曲調がいいの?」って彼に訊いたら「『Blood Blood Blood』みたいなやつがいい」ってことだったので、「搖れる大地 I」は激しい感じにしてみた。

──「搖れる大地 II」は「I」と一転、おおくぼさんが奏でるメロトロンの郷愁を誘う音色がとても印象的ですね。

PANTA:曲を書いて、ビートルズの「Strawberry Fields Forever」が頭の中にあったのかな。俺なりのオマージュだね。『クリスタルナハト』を作った時は南京や大連といった大陸まで辿り着けなくて、「メール・ド・グラス」で「ヤバーナ(日本人)のニュースは聞いたかい/シノワ(中国)で途絶えたままでいるが」という歌詞を書いただけだった。だから水族館劇場が大陸をテーマにした舞台をやると聞いて、よし! と思ってさ。それで「アカシアの港を馬車がでる」という歌詞で大陸に踏み込めたわけ。満州のヤマトホテルが現代に蘇るのが物語の筋だったからね。

──結成50周年のファースト・ライブは水族館劇場の舞台セットをそのまま借りて行なわれましたが、初の野外テント劇場でのライブは如何でしたか。

PANTA:(澤に)どうだった?

澤:特殊な舞台セットの中でやらせてもらったので、めちゃくちゃ楽しかったですよ。お客さんもすし詰め状態で、前にあるプールに今にも倒れ込みそうな緊迫感があったし、開演前には酔っ払ったお客さん同士の小競り合いがあったりして、なんか新宿っぽいなぁ…と思ったし(笑)。すごくいい経験をさせてもらいました。

PANTA:設計ミスで、本来は閉まるはずのプールのフタが閉まらなかったんだよね。それに定員以上のお客さんを入れちゃったものだから、仮設の桟敷席が崩れるんじゃないかと冷や冷やしたよ。もし崩れたら大惨事だからさ。

──しかも、過去に花園神社でライブをやった上々颱風の数倍の音量だったそうですね。

PANTA:上々颱風なんて問題にならないくらいデカかったみたいだね。花園神社には「歌に素晴らしく力があるから大丈夫」と太鼓判を押されたそうだけど(笑)。

TOSHI:テント小屋でライブをやるなんて初めてだったから純粋に楽しかったよね。

PANTA:花園神社でライブをやることになって、桃山君も音量の面でだいぶナーバスになっていたみたいだね。いろんな所に根回しをしなきゃいけないし、ステージの後ろは吉本興業の東京本部だし。

──「R★E★D」の背後に“BLACK”がいたと(笑)。

PANTA:言うねぇ(笑)。吉本に話をしたら、「その日は日曜日で撮影もないので思いきり暴れてください」と言ってくれたみたいだけど。

──この「搖れる大地 I」と「搖れる大地 II」もそうですが、本作には随所にPANTAさんによる語りが挿入されていますね。

PANTA:誰も間奏を入れてくれないからさ(笑)。「搖れる大地」は特に、空いちゃった部分をセリフで穴埋めしなきゃいけなかったので。今後のライブでは、その部分は面白いことを考えられると思うけどね。

「紫のプリズムにのって」は符牒のような問題作

──憂いを帯びた曲調の「紫のプリズムにのって」もまた名曲ですが、これは深読みしようとすればどこまでも深読みできそうな、暗号解読のしがいのある曲と言えますね。

PANTA:ダブル・ミーニング、トリプル・ミーニングを詰め込んだ曲だからね。現代社会を動かしているのは武器なき情報戦、つまり諜報戦でしょう。エドワード・スノーデンや日本軍の暗号を調べたらいろんな言葉が出てくる。その辺を楽しんでもらえたらいいんだけど。

──なるほど。忍びもまた室町時代から江戸時代にかけての諜報員だし、そこは「乱破者」とリンクしてきますね。

PANTA:うん。そういうのも『R★E★D』の「クラブハウスで待つよ(Nuclear Club)」とつながってくるわけ。

──ああ、「ハープーンがシドラを舞う」という隠語のような歌詞がありましたからね。

PANTA:諜報員と言っても、歌詞に出てくる「007」はジェームズ・ボンドのことではないから。その辺はまぁ、推して知るべしということで。

TOSHI:宿題がいっぱい出たね(笑)。

──たとえば歌詞の中にある「テヘランの死神」は、V・E・フランクルの『夜と霧』に出てくる昔話ですよね。PANTAさんのソロの代表作である『クリスタルナハト』を語る上で『夜と霧』は決して欠くことのできない著作だし、「R★E★D」や「屋根の上の猫」同様、ここでもPANTAさんのソロ作とリンクしてくるのが面白いなと思って。

PANTA:「テヘランの死神」が意味するのは生と死の確率なんだけど、死ぬも生きるもちょっとしたタイミングで変わってくるよね。従軍看護婦だった俺の母親が乗り込んでいた氷川丸が帰国の途中でもし攻撃されていたら、俺はこの世にいなかったわけだしさ。そんなふうに誰もがみな何らかの幸運のもとに生を受けているわけで。まぁ、随所に施した掛け詞を楽しんでほしいよ。そういう隠語の意図は作者が提示するものではなく、聴いた人が感じたことが正解だからね。

──「紫のプリズム」という言葉自体がそもそも暗示的だし、PANTAさんが「サイロ」を家畜の飼料の貯蔵庫という文字通りの意味で使うわけもないでしょうしね。

PANTA:直接的な表現をすると、不買運動される前にテイチクから発売できなくなるからね(笑)。

澤:あと「紫のプリズムにのって」は、PANTAさんがイントロに12弦ギターを使いたいということで、たまたまスタッフが持っていた40年前の12弦ギターを急遽使わせてもらうことになったんですよ。

PANTA:12弦ギターを弾くのは相当難しいはずなんだけど、竜次はサラッと弾いてすごいと思ったな。

──「だからオレは笑ってる」は『頭脳警察セカンド』に収録予定だった未発表曲で、実に47年ぶりに陽の目を見たことになりますね。

PANTA:ソロ1作目の『PANTAX'S WORLD』に入れようと思ってレコーディングまでしたんだよ。だけど「マーラーズ・パーラー」が長すぎたせいで入れられなかった。『頭脳警察セカンド』に入れるのを見送ったのは、「暗闇の人生」と曲調が被っていたから。

──「アウトロ〜OUTRO」は切々と唄われるラブソングで、「恋と革命」というフレーズが詩的でとてもいいですね。

PANTA:それも昔だったら恥ずかしくて絶対に使わなかっただろうね。まぁ、今や人生のアウトロだからさ(笑)。言いたいことをそのまま言ってもいいんじゃないかと思って。とは言え、この「アウトロ〜OUTRO」が一番歌詞が変わったかな。『暴走対談LOFT編』で唄っていた時は、ダイレクトに「倉橋由美子」とか「大島弓子」とか唄っていたしね。

──ああ、歌詞にある「聖少女」は倉橋由美子の代表作ですよね。

PANTA:うん。たとえば処女作の『パルタイ』は日本共産党の暗喩でしょ? 当時、倉橋由美子の本を女の子が抱えているのが格好良かったんだよ。『聖少女』は、交通事故で記憶を失った女性が事故前に綴っていたノートに「パパ」と呼ばれる男性との肉体関係が綴られていたという物語だよね。歌詞の中に「聖少女」と一言出すだけで、身内からの性的虐待や配偶者暴力、パルタイに至るまでいろんな世界が表出してくるんだよ。あと、「そっとプレベを弾いてみた」という歌詞は、俺の中では「銃をとれ」のイントロなわけ。それで岳がわざわざプレべで弾いてくれたんだけど、竜次がそこを被せるように同じフレーズを弾いちゃって大笑いしたよ(笑)。

──今回、レコーディングで一番手間と時間がかかったのはどの曲だったんですか。

澤:やっぱり「紫のプリズムにのって」じゃないですかね。

PANTA:そうだね。ホントは歌に入る前に壮大なイントロをおおくぼ君に付けてほしかったんだよ。だから今後のライブではその形でやろうと思ってる。

絶え間ない好奇心、探求心、向上心

──おおくぼさんはアーバンギャルドはもとより戸川純さんとのユニットでもその才能を如才なく発揮していますが、頭脳警察でも大活躍だったんですね。

PANTA:プリプロも最初に全部おおくぼ君がやってくれたしね。

澤:ベーシックなデモが緻密に作られていたので、最初から世界観がきっちりとありましたね。事前に音の被せのやり取りもできてたし、スタジオに入ってからの作業はスムーズにやれました。

──そんなおおくぼさんが準メンバーというのも不思議ですけど。

PANTA:まぁ、彼の所属はあくまでもアーバンギャルドだからね。

──ローリング・ストーンズとイアン・スチュワートの関係みたいなものですか。

PANTA:言ってみれば派遣かな(笑)。もしくは出向(笑)。

──CD帯の裏写真で、派遣メンバーであるおおくぼさんだけ一人分身しているのがおかしいんですよね(笑)。

PANTA:いいんじゃないの? スパイダースの『フリフリ』のジャケットに作詞・作曲をしたムッシュ(かまやつひろし)が写ってない例もあるしさ(笑)。

──若手ミュージシャンを迎え入れたことで新陳代謝が図られて、頭脳警察というバンドのイメージがだいぶしなやかになった感がありますね。プライドとパッションは保ちつつも良い意味で軽やかになったのを『乱破』からも感じますし。

PANTA:TOSHIは頭脳警察に対するイメージが最初にやり始めた頃とはだいぶ変わったんじゃないの?

TOSHI:だんだん身軽にはなってるかな。俺個人としてはね。身軽と言うか気軽と言うか、そんな感覚が強いね。

PANTA:確かに、重しをどんどん吐き出している感じはあるね。だから軽快なロックンロールのメドレーも自然にやれるんだと思う。頭脳警察はロックンロール・バンドだったんだなという感覚を俺たちも忘れてた。吉祥寺のGBでライブをやった時、「昔はロックンロールで名を馳せた頭脳警察です!」と冗談で言ったら全然ウケなかったけど(笑)。

TOSHI:PANTAと二人でやってた頃はとにかく尖ってたからね。そういう時代だったんだろうし、若さもあったんだろうけど。

──澤さんら若手にある程度主導権を任せることでヘンな気負いがなくなったことも大きいんでしょうね。

PANTA:全部お任せだよ(笑)。この間もアーバンギャルドの『鬱フェス』で唄い出しを間違えちゃったんだけど、みんながうまいこと合わせてくれてね。これからもっとライブをやれば絡みが面白くなってくると思う。この顔ぶれはとにかくライブがいいので、この先もずっと続けていくつもりだよ。

TOSHI:みんな性格もいいしね。1990年の再結成の時はまだどこか尖っていたけど、今は和やかな雰囲気でやれてるのがいい。

PANTA:最初の再結成は絶対に恥ずかしいことはできないと思ったし、進化した頭脳警察でなくちゃいけないとすごく肩肘を張ってたんだよ。今はそういう気負いがないし、楽しくやれてるね。

──結成50周年を迎えられるバンドなんてそうはいないし、今後ますます前例のない境地へと足を踏み入れることになりますね。

PANTA:昔から前例のないことしかやってこなかったからね。そもそも既成のものをぶっ壊すつもりでバンドを始めたから、最初からお手本がいなかった。いつだって手探り状態で、50年経った今もそれが続いてるだけでさ。前の走者がいないから先頭を走るしかない。

──それでもこの50周年は、頭脳警察にとって“RELAY POINT”(中継地点)でしかないわけですよね。

PANTA:もちろん。やりたいことがまだいっぱいあるからね。この間、有頂天のKERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が「あるドラマが『伏線回収できてない』とか『伏線回収が雑すぎる』とか言われてるけど、伏線なんか回収してもしなくてもいいのだ」とツイートして、それに対する賛否がいろいろあったけど、俺はいま人生の伏線回収をしている感覚があるんだよ。『乱破』の中でもかなり伏線回収してるしね。TOSHIがバンドをやめてた時期の曲を強制的にやらせたりして(笑)。

──「ロックとは偉大なるアマチュアリズムだ」というPANTAさんの持論を体現すべく、頭脳警察は今日まで走り続けてきたと言えますね。

PANTA:そうだね。コマーシャルに走ったり、ヘンにプロ意識があったらここまでやってこれなかったと思う。音楽に対する好奇心から始まって、そこからいろんな知識を得たいという探求心が芽生えて、昨日より少しは上手く演奏したいという向上心が生まれる。そうやって少しずつ自分なりに向上してきて今がある。

TOSHI:好奇心、探求心、向上心は今もいっぱいあるよ。いろんなことをちょっとずつ積み重ねていくのが楽しいし、やりがいもあるしね。今の頭脳警察は腕も性格もいい顔ぶれだから、これからは俺が派遣メンバーにならないように頑張るよ(笑)。

モノクロ写真:寺坂ジョニー/本文カラー写真:シギー吉田

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