トヨタ LQはAI・自動運転時代の“愛車”になる【東京モーターショー2019】

トヨタ LQ[東京モーターショー2019 出展車(参考出品)]

「新しい時代の愛車」を追求してきたトヨタ

クルマは機械でありながらも、家族やパートナーのようにオーナーに愛される工業製品という特徴がある。そして、それぞれの時代で「移動の自由・喜び」などかけがえのない感動を提供してきた。そしてクルマとは、行けないところに行ける、会えない人に会える、など経験・体験の拡張をもたらすものとして「愛車」と呼ばれ大切に使われた。

しかしクルマがあって当たり前の時代になり、愛車という言葉はあまり使われていなくなったように思う。そこでトヨタは、テクノロジーを用いて人々の体験を再び拡張できれば、「新しい時代の愛車」を作ることができると考えた。その答えのひとつが、2017年に登場したコンセプトカー「Concept-愛i」だった。

「LQ」の「L」は、LOVEのL

トヨタ LQ[東京モーターショー2019 出展車(参考出品)]

東京モーターショー2019・MEGA WEB会場で開催の「FUTURE EXPO」に出展される「LQ」は、そのConcept-愛iを現実的な存在に引き上げ、公道走行も可能としたコンセプトカーだ。トヨタはモビリティカンパニーとして、あらゆる人に移動の自由を提供することを目指している。移動には物理的な移動だけでなく、心の移動(感動)も含まれており、「移動そのものが感動をもたらすものであってほしい」「クルマは“愛”がつく工業製品であり続けてほしい」と考えているという。

そこでLQの開発では、“Learn,Grow,Love”をテーマに、ユーザーひとりひとりの嗜好や状態に合わせた「移動体験の提供」を通じ、時間とともに愛着を感じられるモビリティを目指した。

Concept-愛iに搭載されていた、Toyota Reserch Instituteが開発したAIエージェント「YUI」はLQにも引き継がれている。“彼女”は人を知り、共に育ち、時とともにパートナーのような存在になることで、ユーザーごとのニーズに合わせた“特別な移動体験”を提供する。

車名LQの「L」は、まさに「愛(Love)」のLを示す。トヨタにはすでに「iQ」「eQ(2012年発表のEV)」が存在するため、豊田章男社長は車名について「これからの時代に必要なのは“愛”。すなわちLQだ」と語ったという。

AIエージェント「YUI」が場の空気を読んでくれる!?

トヨタ LQ[東京モーターショー2019 出展車(参考出品)]

クルマを知り尽くしたトヨタだからこそできる機能を有している「YUI」は、乗員の状態を読み取り、会話の中から「何が好みか」を類推する。これが他社とのAIエージェントとの違いだ。

例えば、YUIがユーザーの眠くなる頃を予測すると、ユーザーが好む話題で話しかけて次のサービスエリアまで会話を続けてくれるとのこと。このほか覚醒・リラックス誘導機能付きシート、音楽、車内イルミネーション、空調、フレグランスなどの各種HMI(Human Machine Interface)を用いて働きかけ、安全・安心・快適な移動に貢献する。

「コンセプトカーと“現実的なクルマ”の間(はざま)を狙う

トヨタ LQ[東京モーターショー2019 出展車(参考出品)]

LQが画期的なのは、コンセプトカーでありながら、「量産車」として少量が生産され、公道走行を可能としていることである。そのため、ドアミラーも設けられ、灯火類も保安基準に準拠している。ディティールには未来のクルマを感じさせる要素がいくつもあるが、車内はしっかり4人乗車が可能で、実際に東京2020オリンピック・パラリンピックでは聖火リレーやマラソンの先導車にも使用されるため、実用性もしっかり備えている。スペック的にもボディサイズが全長4,530×全幅1,840×全高1,480mm、ホイールベースは2,700mm、車両重量1,680kgとなっており、幅が少し広い以外は、現行型プリウスに近い現実的な寸法だ。なお、少量生産車は得てして高額になってしまうが、少量生産に向いた製造方法にもチャレンジしているとのことだ。

ニッコリ微笑んでくれるクルマ!?

トヨタ LQ[東京モーターショー2019 出展車(参考出品)]

フロントには、左右のスリット状ディティールに配置されたヘッドライトの他に、笑ったりまばたきをしたり、目をつぶっているような表情を作ることができるイルミネーションを装備。このイルミネーションの動きを実際に見てみると、たしかにとてもかわいらしく見えて、まるでペットのような愛着が湧いた。日本人は機械を擬人化したり名前をつけて愛する傾向があるので、表情豊かなクルマは受け入れやすいと感じた。

コンセプトカーといえば「未来像を示すために出したけど、実際には走らないし、その形では出てこないよね」という印象があると思う。コンセプトカー(先行車)開発チームは限定された条件がクリアすればOKだが、量産車開発チームは100万台に1台の不具合でも許されない。この意識の差が、最新技術を製品化できなかった理由だとトヨタは考えた。そこで、「公道を走るけれど売らない」という中間的なクルマを開発することで、新しい技術をより早いタイミングで市場で見てもらえるだけでなく、得た反響や意見を市販車開発にフィードバックできるようにしたいという。

2020年には公道試乗でYUIと会える!?

トヨタ LQ[東京モーターショー2019 出展車(参考出品)]

無人バレーパーキングシステム、AR(Augmented Reality )表示が可能なHUD(Head Up Display)によってHUDの情報エリアを拡大した「AR-HUD」や、SAEレベル4相当の自動運転機能を搭載するLQは、前述の通り東京2020オリンピック・パラリンピックで活用されるほか、2020年6月から9月にかけてMEGAWEBや東京のお台場・豊洲周辺の公道で実施予定の「トヨタYUIプロジェクト2020」に使用される。事前に公開されるスマートフォンアプリから趣味や嗜好をYUIに教えておけば、試乗の際に、ひとりひとりに最適化された「YUI」が搭載されたLQに試乗できる。

トヨタが提唱する新しい愛車のカタチを確かめられるのが今から待ち遠しい。

[筆者:遠藤 イヅル/撮影:茂呂 幸正・トヨタ自動車]

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