②信託の仕組み

今月のテーマ:老後の備え

今号は、日本人にはいまいちなじみの薄い制度である「信託」について解説する。やや複雑だが、米国での相続手続きでは多くのメリットがあるので、覚えておいて損はない。

Q. 米国ならではの、相続手続きの問題点はありますか?


A.

裁判所を通した相続手続きのことを、プロベート(Probate)と呼びます。プロベートは費用も時間も掛かるので、エステートプランでは、いかにプロベートを避けるかが重要になってきます。前号で遺言の重要性を解説しましたが、遺言はあくまで「相続の道筋」を示すもので、これだけではプロベートは避けられません。

またプロベートは公的文書なので、裁判の過程や個人情報は全て公開されます。故人が不動産物件を所有していた場合、プロベートでは物件の金額や所有者情報がすべて開示されてしまい、相続者のプライバシーが侵害される恐れがあるのです。そこで注目されるのが、信託(Trust)です。

Q. 信託とはどんなものですか?


A.

所有する不動産物件や財産、証券取引口座など(ここでは「アセット」と呼びます)をまとめて入れている、金庫のような存在です。アセットの元々の持ち主を委託者(grantor)、そして金庫の中のアセットを受託者(beneficiaries)のために守って管理する義務を持っている人が、信託管理者(trustee)です。この両方の私的契約が、信託です。

例えば、Aさんが自分の財産であるアセットをまとめた信託(金庫)を作るとします。その時点で、各アセットの所有権はAさん(委託者)ではなく、「A信託」に移り、個人の所有物ではなくなります。すると相続手続きでは、裁判所が本来追及するべきAさんの遺産が存在せず、プロベートが発生しません。米国で信託が多く使われるのは、ここに理由があります。やや複雑ですが合法な手段です。

Q. 信託内の財産はどう相続するのですか?


A.

Aさんが、信託管理者を指名します。信託管理者は委任(power of attorney=前週参照)に近い権限を持ち、A信託のアセットを自由に扱う権限を持ちます。委任は一定期間が経過すると効力を失い、定期的に更新する必要がありますが、信託管理者は基本、永久的に同じです。 Aさんが生前に作ったものは生前信託(living trust)と呼ばれます。このケースでは、Aさんは委託者と受託者を兼ねており、信託内のアセットを自由に出し入れできます。Aさんが無能力または無意識になった際の、代わりの信託管理者となる人物を、信託文書内で定めておくことができます。またAさんの死亡時も、配偶者と子供がアセットの受託者だとあらかじめ決めておけば、彼らはプロベートなしでAさんの財産を相続できるのです。

ただし、信託がある状態でも遺言書の作成は必須です。信託に加え損ねたアセットが残っている恐れがあるからです。ここで作成する遺言では、プロベート対象となるアセットがあった場合に、そのアセットの相続先が信託であることを明記しておきます。

Q. 相続以外でのメリットはありますか?


A.

効率的な節税計画、財産の保護、慈善活動なども信託のメリットとして挙げられますが、もっと一般的なのは、メディケイド(医療給付金制度)取得のための信託設立です。経済的な受給条件があるので、これをクリアするために信託を作るケースもよくあります。メディケイドについては、次週詳しく解説します。

ジア・キム弁護士

ニューヨーク州、ニュージャージ州弁護士。 ハンプシャー大学を経て、フォーダム法科ロースクール卒業。 米国および国際エステートプランや、メディケイド財産保護計画などを専門に担当。 英語、韓国語、日本語、スペイン語で相談可能。 「Pierro, Connor & Strauss, LLC」で業務を担当。

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