【社説】アスベスト被害、上告断念 積極的救済、国の責任だ

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 遅きに失したと批判されても仕方あるまい。アスベスト(石綿)が原因の肺がん患者を巡る訴訟で、国はきのう、患者側が勝訴した福岡高裁の判決を重く受け止め、上告しない方針を明らかにした。

 アスベスト工場の元労働者やその遺族が訴えた訴訟で、最高裁判所は2014年、原因企業だけではなく、国の責任を認める判断を示した。それを踏まえれば、国は一刻も早く積極的な救済策を講じる必要がある。

 国の責任を問うアスベスト訴訟は二つに大別される。今回のように工場で働いていた人や近隣住民、その遺族らが提訴する「屋内型」と、アスベストを含む断熱材を使う建設現場などで働いていた人や、遺族らによる「屋外型」である。

 屋内型については、国は最高裁判決を受け、一定の要件を満たす患者が提訴すれば、和解に応じて賠償金を払っている。

 しかし賠償額の利息に当たる遅延損害金(年5%)の算定方法を巡って各地で訴訟が起きている。肺がん診断日から計算を始めるべきだとする患者側に対し、国は労災保険の支給決定日だと主張。これまでに地裁判決が5件出され、いずれも国が敗訴している。

 同様の訴訟で先月、福岡高裁が、高裁として初めて判決を出し、国が敗訴した。そこまでこないと、国は動かなかった。なぜだったのか。

 同様の訴訟は広島地裁と同福山支部でも審理され、いずれも先月、患者側が勝訴した。今回の国の判断で、その判決が確定する見通しとなった。これにより、ともに大阪府の工場で勤務中にアスベストを吸い込み、肺がんを発症した広島市の80代の男性と、福山市の70代女性の救済も進みそうだ。歓迎したい。

 2人とも1960年代にアスベストを扱う工場に勤務。男性は14年に肺がんと診断され、翌年に労災認定された。女性は04年に肺がんと診断され、5年後に労災認定された。遅延損害金の差額は男性が100万円余、女性は約300万円にも上る。

 アスベストは、毛髪の約5千分の1の極細の繊維からなる天然鉱物である。安くて耐久性や耐熱性に優れ、建材に広く使われたが、吸い込むと肺にたまり、がんや中皮腫を引き起こす。潜伏期間が数十年と長く、「静かな時限爆弾」とも呼ばれる。日本では、約1千万トンが輸入され、大量に使われていた。

 製造や輸入、使用が禁止されたのは、欧州諸国より遅く、06年になってからだった。兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場の周辺住民らに健康被害が発覚した前年の「クボタショック」が、きっかけになった。ただ一部は例外扱いされ、完全禁止は12年までずれ込んだ。国の対応が後手に回った印象は拭えない。

 今後、高度成長期に建築された多くのビル、家屋などが解体時期を迎えている。アスベスト使用の建材も多く、解体に携わる人の健康障害が懸念される。被害は昔話とは言えない。

 解せないのは、建築作業員らが各地で起こした「屋外型」訴訟で国がいまだに争う姿勢を崩していないことだ。亡くなる人も相次いでいるのに、である。

 被害者にとって残された時間は限られている。上告断念を機に国は全員救済に向けて、その仕組み作りを急ぐべきだ。