「副菜多めなのは、シロさんの優しさ」…実写版「きのう何食べた?」フードスタイリストの山﨑慎也さんインタビュー

「副菜多めなのは、シロさんの優しさ」…実写版「きのう何食べた?」フードスタイリストの山﨑慎也さんインタビュー

“シロさん”こと、几帳面な弁護士・筧史朗と、“ケンジ”こと、人当たりのよい美容師の矢吹賢二。男性カップルのゆったりとした日常を描いた大ヒット漫画「きのう何食べた?」。2人の心の機微を描いたストーリーとともに、料理上手な史朗が作るおいしそうな料理も人気の要因だ。史朗を西島秀俊さん、賢二を内野聖陽さんが演じ、大きな話題を呼んだ実写ドラマが、チャンネルNECOで10月26日午後7:00から一挙オンエアされる。そこで、作品で重要な位置を占める料理を担当したフードスタイリストの山﨑慎也さんに話を聞いた。「思わず食べたくなる」と話題をさらった数々の料理の秘密に迫る!

──このお仕事が決まった時のお気持ちをお教えください。

「『きのう何食べた?』はもともと大好きな作品。コミックスはすべて持っていましたし、もしレシピ本が出版されるなら、何らかの形で関われたらいいなと、ぼんやり思っていました。そこへ突然、CMの撮影でご一緒している監督経由でドラマ版のフードコーディネートの依頼とともに、(ドラマのオフィシャルブックとしての)レシピ本を作りませんかとお話をいただきました。もちろんうれしかったのですが、ファンが大勢いる作品の実写化ということで、プレッシャーは強く感じました」

──「きのう何食べた?」に登場する料理は、原作コミックでも「おいしそう」「作ってみたくなる」と人気です。登場するレシピの魅力はどんなところでしょうか? また、その魅力を再現するため、気を付けられた点は?

「登場する料理は、どれも珍しい食材や難しい調理法とは無縁。『誰もが自宅ですぐに試せる』点が魅力でしょうか。普段、私が担当するCMなどの料理撮影では、より華やかに、彩りよく、見たことのない演出で!…となるのですが、『きのう何食べた?』の料理は、それとは正反対です。食材は近所のスーパーで用意し、調理道具も原作の絵を参考に、普通の家庭用のものを使っています。レシピに関しては、じっくり原作を読み込み、素直に再現するよう心掛けました」

──料理以外の部分で、「シロさんとケンジらしい食卓」にするために、気を付けたことはどんな点でしょうか?

「シロさんの調理は手際よく、スマート。そのなかでも、相手を思う気持ちが表現できたらいいなと思いました。盛り付ける時は丁寧にとか、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく食べてもらおうとか。また、シロさんはどちらかというと質実剛健で、食器もそこまでこだわりはなさそうですが、一緒に住んでいるケンジの趣味をじんわりと感じるような食器も選んだつもりです」

──ドラマが地上波で放送された際は、レシピを再現する人が続出。実際作った人からは、「濃いめの味付けで、男飯ぽい!?」「量が少なく、“腹八分目”と健康に気を付けているシロさんの節制ぶりが分かる」といったコメントも。そのような意図はあったのでしょうか?

「特に意識したつもりはなかったのですが、めんつゆの入れ方などは、普段の自分の好みが出ていたかもしれませんね。シロさん役の西島秀俊さんにも『結構入れるんですね!』と言われたこともありました(笑)。登場人物と近い世代ではあるので、母親の味が大好きな中年の男が作るとこうなるというのが、自然に出たのかもしれませんね(笑)。腹八分目の分量感は、体形管理に対するシロさんの意識の高さからくるものだと思います。ただ、ケンジに物足りなさを感じさせないよう、副菜は多め。そこがシロさんの優しさですよね」

──山﨑さんがドラマのフードコーディネートをするのは初めてとお聞きしました。「誰かの食卓を想像し、再現する」お仕事の面白さはどんなところでしょうか?

「白黒の原作から実写の料理が生まれてくるのは、作っている自分たちも興奮する体験でした。また、神キャスティングと言われた、そうそうたる出演者の方々が参加する現場に料理チームとして参加できたのは、原作ファンということもあり、本当に幸せでしたね」

──ドラマでは、熱々の料理を出すために工夫されたとか。

「なるべく本物の湯気で撮影したい、温かい料理を温かいうちに食べてほしいと思っていました。撮影は、まだ寒い時季。湯気を見えやすくするために出演者、スタッフに協力してもらい、本番前に窓を全開にして部屋の温度を下げたこともありました。寒いなか、熱々の料理を何度も食べてもらったことも。また、本編中、何回か出てくる特別メニューのラザニア(第4話ほか)は、湯気もチーズの伸びもあり、準備は大変だけれど絶品という、いわばキラーメニュー。スタッフを増やし、態勢を整えて撮影に臨みました」

──料理上手なシロさんを演じた西島さんはもちろん、内野さんが料理をするシーンも多かった本作。料理シーンで、お二人のプロ意識を感じた点をお教えください。

「西島さんは別の作品で調理シーンの経験があり、しかも、撮影前には原作の料理を何品か試作してみたとのこと。そのため、初日からスムーズに撮影は進みました。オンエアされる映像は編集が入るため、一工程ずつ撮影しているように見えるかもしれませんが、実際は流れで何工程か続けて撮影しています。切ったり混ぜたりといった調理そのものよりも、材料を混ぜて冷蔵庫でいったん寝かせて、その間に別の食材を取り出して、切って…など、一連の流れを頭に入れるのが大変なんです。西島さんのすごいところは、その工程を一度テストしただけで、何度も再現できるところ。スムーズすぎて、こちらの準備が間に合わないこともありました。内野さんはキャラクター設定的に、工程を声に出してしゃべりながら調理するので、西島さんとは違った難しさがあったかと思います。ケンジ役のままセリフと調理を同時進行し、大胆なアドリブも交えるんです。スタッフは笑いをこらえるのに必死でした」

──西島さん、内野さんが一番喜んだ料理は?

「西島さんは、撮影終盤に作ったクレープ(第10話)でしょうか。『ぜひ家族と一緒に食べたい』と、生地の作り方を確認していました。ただ、撮影自体はしょっぱいおかずクレープから甘いデザート系まで、短い時間で食べ続けるというなかなか過酷なもの。5、6種類完食した後は、『ボーっとしてきた』とうつろな目をされていました(笑)。内野さんのお気に入りは、カットの声がかかっても食べ続けていた『明太子ディップのバゲット』(第4話ほか)。ドラマのなかでは一番簡単なレシピなのですが、『特別な隠し味や、高級な明太子を使っているのでは?』と聞かれました。もちろんそんなことはなく、スーパーで買える材料ですよと説明して。その後、自宅でも作ったそうです。同じ料理が再び出てくる第11話の撮影では、ジルベール(井上航)役の磯村勇斗さんに作り方を力説していました」

──今、あらためて思うドラマ版「きのう何食べた?」の魅力はどんなところでしょうか。

「原作から飛び出してきたかのようなキャスト、生活感あふれるリアルな美術セット、おいしそうに再現された料理と、注目すべき点はたくさんあります。何より、原作を大好きな人たちが集まって、丁寧に作り上げた現場の幸せな雰囲気がにじみ出ているのがこのドラマの魅力かなと思います」

──今回のチャンネルNECOの放送で、初めて作品に触れる方もいらっしゃいます。こんなふうに楽しんでほしいというメッセージをお願いします!

「いちごジャムトースト(第2話)を頬張るケンジのそしゃく音! シロさんがケンジに取り分けるラザニアのほわほわの湯気! 熱々の餅(第5話)をびよーんと食べるケンジ! シロさんの揚げたてのとんかつ(第11話)! オンエアではおなかをすかせて楽しんでもらい、次の日は、そのメニューをぜひ再現して2人の食卓を味わっていただけたらと思います」

【プロフィール】


山﨑慎也 Shinya Yamazaki
1975年岩手県生まれ。99年に料理と写真を専門に扱う「石森スタジオ」にカメラアシスタントとして入社後、フードスタイリストに。味の素、ミツカンなど、数々の企業CMのフードスタイリングを手掛ける。ドラマ「きのう何食べた?」では、ドラマとともに「公式ガイド&レシピ -シロさんの簡単レシピ-」のフードスタイリングも手掛ける。

【番組情報】


「きのう何食べた?」全12話一挙放送
チャンネルNECO
10月26日 午後7:00~深夜1:40

よしながふみ原作の同名漫画をドラマ化。男性カップルのほろ苦くも温かい毎日と日々の食卓を描いた大人気作が、CS初登場。“シロさん”こと弁護士の筧史朗(西島秀俊)と“ケンジ”こと美容師の矢吹賢二(内野聖陽)は、恋人同士。月の食費を2万5000円に抑えることを目標に、史朗は日々料理を作っている。2人で囲む食卓は、その日の出来事や思いを語り合う大切な時間だ。ある日、街を歩いていた2人は、賢二の美容室の常連客に呼び止められて…。2人のゆったりとした日常とともに、思わず作ってみたくなる料理の数々が作品を彩る。

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