F1 Topic:山本尚貴の走りをトロロッソのエンジニアが分析。「彼の走りとフィードバックはダニールとまったく同じだった」

 トロロッソでチーフレースエンジニアを務めるジョナンサン・エドルズに、山本尚貴のフリー走行1回目の走りを分析してもらった。

「最初の計測ラップから、非常に印象的な走りを披露していた。われわれエンジニアは山本のドライビングをテレメトリーでチェックしていたが、ブレーキングのグラフもステアリングのグラフも、ダニールとほとんど同じプロファイルをしていた。F1のカーボンブーキというのは、温度管理が非常にデリケートで難しく、F1ドライバーでもブレーキをロックさせることが珍しくない。それを彼は1周目から正しく操縦していたんだから、われわれは良い意味で驚いたよ」

 エドルズはドライビングそのものだけでなく、フィードバック能力も評価していた。

「F1マシンを正しく操縦していただけでなく、フィードバックが正確だったことも驚いた。彼が無線で『低速コーナーでアンダーステアがひどい』と言っていたと思うけど、それはダニールも訴えていた症状だった。だから、われわれは1セット目のタイヤを返却する最初の40分間の走行の後、空力のバランスを変更した。そして、その変更は午後のフリー走行2回目にピエール(・ガスリー)にも助けとなった。彼の英語でのコミュニケーション能力にまったく問題なかったことは言うまでもない」

 またエドルズは山本尚貴の適応力も評価していた。

「1セット目のタイヤを返却し、セットアップを変更した後、われわれは山本にソフトタイヤを装着させて、コースに送り出した。すると山本は1周目の計測ラップで1分32秒018という自己ベストを叩き出した。1セット目のミディアムでのベストタイムが1分33秒843だから、コンマ8秒速い。これはソフトコンパウンドのグリップ力をしっかりと使い切っていたことを意味する。タイヤのグリップ力を1周目から出し切れるというのは、良いドライバーの証だ」

 今後、山本尚貴がF1のレギュラードライバーになるために課題があるとしたら何か。

「われわれは金曜日の午前中、ふたりでタイヤのプログラムを分けた。山本はミディアム→ソフトで、ダニールはソフト→ミディアムだった。山本はベストをソフトで叩き出したが、ダニールはミディアムで記録していた。つまり、ふたりの間にはコンマ1秒以上の差があったと考えていいだろう」

 そして、最後にこう語った。

「もうひとつ、彼の走りで気になったのは、低速コーナーでのドライビングだ。現在のF1マシンは低速コーナーでブレーキを強く踏みながらターンインしようとすると簡単にフロントがロックアップする。山本が最初の数周で苦しんでいたのは、空力のバランスだけでなく、彼のドライビングにも理由があった。そこで、ピットインの際に、データを彼に見せ、修正するように指示したら、すぐに対応していったよ。もし、フリー走行1回目だけでなく、週末を通して走らせたら、レースを走るころには、完璧に乗りこなしていたと思う。最初のF1走行としては、いい仕事をしたことは間違いない」

 なお、チームは山本尚貴のために専用のシートを用意していたのはもちろんだが、ステアリングとブレーキペダル(ガスリーのものよりもやや大きい)も専用のモノを準備していた。その3点セットが再び使用する日が来ることを期待したい。

チーフレースエンジニアを務めるジョナンサン・エドルズ(写真は2018年の日本GP)

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