「厳しい状況で鈴鹿を迎えたが、一歩でも二歩でも前進できる戦いを披露したい」/ホンダF1山本MD&浅木センター長

 いよいよ迎えたホンダF1にとってのホームレース、F1第17戦日本GP。台風の影響で土曜日の走行がすべてキャンセルとなり、変則的なスケジュールとなっている2019年の鈴鹿だが、金曜日のフリー走行1回目ではトロロッソ・ホンダから山本尚貴が出走するなど、昨年以上に注目の集まるホームレースとなっている。

 今年は日本GPまでに優勝が2回、ポールポジションが1回と、大きな前進を見せたホンダF1。山本雅史マネージングディレクターとパワーユニット(PU)開発責任者である浅木泰昭HRD Sakuraセンター長が、ここまでの2019年シーズンを振り返った。

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──今シーズンのここまでの戦いを振り返ってください。
山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):今シーズンは昨年までの1チーム2台へのパワーユニット供給から2チーム4台体制で臨むシーズンとなりました。開幕戦では初日からいい流れで週末を戦い、表彰台を獲得することができました。これはレッドブル・ホンダというトップチームと組んだことも大きかったのですが、我々ホンダのPUも信頼性が大きく向上しただけでなく、パワーもアップしたことも大きく関係していました。

 そういうこともあり、第6戦モナコGPまでに勝つことを予想していたものの、それは実現できませんでした。そういうなかで、第9戦オーストリアGPでは(レッドブルのマシンが)大きく進化し、マックス(・フェルスタッペン)の素晴らしい走りで優勝することができました。

 その後、第11戦ドイツGPでも優勝し、第12戦ハンガリーGPでは、田辺(豊治/テクニカルディレクター)をはじめとしたエンジニアたちの素晴らしいサポートもあってポールポジションを獲得しました。2勝と1回のポールポジション獲得は個人的には想定していた以上の前半戦だったと思う。

 この調子で夏休み明けの後半戦に臨みたかったのですが、第13戦ベルギーGPと第14戦イタリアGPではエンジンペナルティがあったり、我々に相性がいいと思っていた第15戦シンガポールGPではフェラーリが大きくステップアップしてくるなど、我々にとっては厳しい戦いが続いたまま、ホームレースを迎えることとなりました。鈴鹿ではそこから一歩でも二歩でも、前進できる戦いを披露したいです。

──パワーユニットの開発についてはいかがでしたか。
浅木泰昭HRD Sakuraセンター長兼ホンダF1パワーユニット開発責任者(以下、浅木センター長):昨年の結果を元に、我々の今シーズンの目標は今シーズン中にメルセデスに追いつくことでした。高い信頼性を維持しつつ、バワー面でメルセデスに追いつくことができれば、あとはレッドブルがなんとかしてくれるという思いで臨みました。

 現在のF1の信頼性には、コース上でトラブルを起こさないというものと、年間3基というレギュレーションのなかで戦うという2種類ある。前者はロシアGPでトラブルを起こした以外は維持できているが、後者のほうはどうしてもアップデートするたびに新しいエンジンを投入しなければならないので、結果的にペナルティを受けているが、全般的には信頼性に関してはいいレベルで戦っていたと思います。

パワーユニット(PU)開発責任者である浅木泰昭HRD Sakuraセンター長(左)と山本雅史マネージングディレクター(右)

 またパワーに関しても、我々がシーズン前に立てた目標に、新しい燃料の成果もあって鈴鹿までに到達したと思います。ただし向上しているのは自分たちだけではなく、ライバルたちも向上しているので、その読みが難しいです。特にここ数戦はフェラーリがかなり伸びており、まだトップ2に追いついたと言える状況とはなっていません。

──この5年間でホンダのPUはどれくらい進化したのでしょうか。
浅木センター長:5年前、私はF1の部署にいなかったのでその質問には答えられませんが、少なくとも私がHRD Sakuraに来た2年前、ホンダとメルセデスの差はとてつもなく大きかったことは確かです。どうしたら、こんなに大きな差ができるのだろうかというくらい違っていました。だから、やっているスタッフたちも何をどうやったらいいのかわからない苦しい状況で戦っていたと思います。

■「山本尚貴は鈴鹿マイスターとしての実力を披露できた」

──金曜日のフリー走行で山本尚貴選手が日本人ドライバーとして日本GPを5年ぶりに走りました。
山本MD:セッション後、本人と話をしたら、『やばいっす、加速がすごい。コーナーから次のコーナーへ到達するスピードが尋常じゃない。久しぶりにシートに(背中が)めり込む加速を味わいました』と言っていました。今日のためにレッドブルのシミュレーターに乗るなどの準備は行ってきましたが、実際にF1マシンをサーキットで走らせるのは今回のフリー走行が初めてでした。

 そういう状況を考えれば、今日の走りは良かったと思うし、トロロッソのチーム代表を務めるフランツ(・トスト)も私と同じように評価していました。本人が言うように鈴鹿マイスターとしての実力は披露できたと思います。本人にとっても、ホンダにとってもいい経験となりました。この機会を与えてくれたトロロッソとレッドブルに感謝したいですし、尚貴は2週間後にここで(スーパーフォーミュラの)レースをするので、この経験を生かして頑張ってほしいですね。

2019年F1第17戦日本GP フリー走行1回目に出走した山本尚貴(トロロッソ・ホンダ)

──今回、日本GPには新しい燃料が投入され、それにもホンダの知見が採り入れられていますね。
浅木センター長:昨年からホンダはHRD SakuraだけでF1を戦うのではなく、本田技術研究所のすべてのなかから、必要な人材と知見を持ち寄って戦うことになりました。

 まず初めに航空エンジン研究開発部門でホンダジェットを開発するスタッフからMGU-Hやターボに関する知見をもらい、今回の新燃料に関しては、ホンダの先進研究所のスタッフからさまざまな提案をもらい、エクソンモービルとともに研究・開発をしてきました。

──新しい燃料によって何が改善されたのでしょうか。
浅木センター長:細かな部分は教えられませんが、現在のF1のPUというのは数十年前では考えられなかったようなシステムで燃焼させ、非常に高い圧力をシリンダー内で発生させている。そうなると、シリンダー内で発生した意図しない超高圧・超高温な燃焼が起きやすく、ノッキングが発生しやすくなります。ノッキングはエンジンにダメージを与えるので、そういう部分を改善させるために燃料を新しくしました。

パワーユニット(PU)開発責任者である浅木泰昭HRD Sakuraセンター長
山本雅史マネージングディレクター

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