ラグビーワールドカップで異変が起きている街 新宿ゴールデン街に異例の通達書 新しい店と老舗の店の対立も

こんな貼り紙も。オリンピックではどうなるのか(筆者撮影)

日本開催のラグビーW杯が始まって約1カ月。日本代表が優勝候補・アイルランドを破るジャイアントキリングもあり、改めて注目度が高まっている。

そんな中、W杯の影響で引き起こされるトラブルに困惑している地域もある。

新宿ゴールデン街。

新宿・歌舞伎町に隣接し、約100メートル四方に二百数十軒もの狭いバー、スナックなどが密集する飲み屋街だ。終戦後の駅前闇市や露店が移転した飲食街で、その一部が非合法売春街(青線)として悪名を馳せた時代もある。映画・演劇関係者や作家・ジャーナリストのたまり場として知られていたが、近年はSNSの口コミを通じて外国人観光客に人気となり、日本人よりも外国人の姿を多く見るようになった。

そしてラグビーW杯の開幕とともに外国人ラグビーファンがなぜかゴールデン街に集合、騒音やマナー違反などの迷惑行為をしたとして、店舗経営者の間で問題視されている。

「9月20日の開幕試合(日本vsロシア戦 調布・味の素スタジアム)のあと、外国人のラグビーファンが集まって数ヶ所で大騒ぎし、朝方まで大合唱が続いて非常にうるさかった」

「カバーチャージに不慣れな外国人の一見客が支払い拒否をして警察沙汰になったり、狭い店に入りきれないので入店を断ると怒りだしたり、とにかくトラブルが多くなった」(いずれもゴールデン街のバー店主)

椅子に座れず立ち飲みしていた客が店外で通路に座って飲み、グラスをそのまま路上に放置して帰ったり、2階店舗用の階段で酒盛りしたり、さながら無法地帯だったという。W杯のために来日した外国人は巨大で屈強なラグビー選手経験者も多く、恐れをなして注意をためらう女性店主もいたようだ。

こうした状況に対して地元商業組合は通達書を作成、加盟店に対して「椅子の数以上の客を店に入れない」「外飲みをさせない」などの提案を行なった。また英語表記と記号による禁止事項の貼紙も配られ、マナー遵守を呼びかけている。

そうした対策の成果か、あるいは試合会場が地方に移ったせいか、10月以降は少しずつトラブルは減っているようだが、10月5日、6日のプールマッチ、10月19日からスタートする決勝トーナメントは東京会場で行われるため、ゴールデン街にどのような事態が発生するか関係者は戦々恐々の状態だ。

しかし問題の根源は別にあると分析する店主もいる。

「リーマンショックのあった2008年以降、ゴールデン街は極端に不況になりました。それまで毎日のように飲みに来ていたジャーナリストや雑誌関係者の常連も出版不況で来なくなった。ゴールデン街はマスコミ関係の常連で持ってましたから経営の危機です。そうした時期に外国人観光客が増えたので、それまでの会員制・チャージ制から外国人が入りやすいノーチャージのショットバーに切り替えた店も多いんです。

しかし昔ながらの常連相手の商売を変えられない古株の店も多くて、彼らは外国人客で賑わうショットバーを苦々しく思ってるんですよ。一部にはゴールデン街を外国人立入禁止にしようという過激な意見を持っている古株店主もいます。まったく時代遅れの考え方ですが、そうした人々が今回のトラブルを過大に批判している部分もあります」

実はラグビーW杯は思ったほど盛り上がっておらず、外国人ラグビーファンの暴走で困惑する声はゴールデン街以外の繁華街・飲食街からはほとんど聞こえてこない。日本がアイルランドに勝利した日も、都内の多くの盛り場はほぼ平静だった。そんな中、ゴールデン街だけに海外のラグビーファンが集まり盛り上がるのは珍しい現象といっていい。

「ゴールデン街のショットバーはイギリスのパブに近い空気がある。だからイングランドやアイルランド、スコットランドのファンが楽しくて集まってくるんだと思います。多文化的で良い傾向と思いますけどね」(前出店主)

2020年には東京オリンピックが控えている。施設の一部が新宿区内にかかる新国立競技場がメイン会場になるだけに、今回のW杯以上にゴールデン街に外国人観光客が押し寄せる可能性も充分ある。その受け入れ態勢をどうするか、関係者は早くも頭を悩ませている。(文◎藤木TDC)

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