【大学野球】けがからの飛躍でドラフト候補に 日体大・吉田を救った元中日投手の一言

ドラフト上位候補の150キロ右腕・日体大の吉田大喜【写真:編集部】

「けが明けに成長するのがいい選手」元プロ・辻孟彦コーチと歩んだ4年間

 日体大のドラフト候補、吉田大喜投手が10月17日のドラフト会議を静かに待つ。魅力はゆったりとしたフォームから繰り出される150キロ超えのストレート。加えてカーブ、スライダー、スプリットの精度も高い。打者からはボールの見えにくいフォームで、すぐに捕手のミットに収まるようなイメージ。侍ジャパン大学日本代表にも選ばれるなど、即戦力投手として評価が高い。そんな吉田の力強い直球はどのように生まれたのか。

 大阪の公立高・大冠高校のエースだった吉田は、140キロ台の直球を投げてはいたが、まだ線が細く、プロで戦えるような体ではなかった。高校の監督が「力量を分かるために出してみたら?」と促され、プロ志望届を提出するも、指名はなし。それでもスカウトの目に留まるような存在であったことは間違いなかった。

 大学進学後、まずは体作り。古城隆利監督から投手指導を一任されている元中日で同校OB・辻孟彦コーチから助言をもらった。走り込みやウエートで鍛えた筋力をどのようにボールに伝えるかを学んだ。吉田は「上半身に力を入れているイメージはないです。思い切り投げるのではなく、下半身の回転の速さ、爆発力でスピードは出せると思う。いかにロスなく、捕手に体重を向けられるか、突きつめてやりました」。投球の際、ゆっくりと軸足に体重を乗せて、一気に右足で回転する。そこからうなりを上げるようなストレートがはじき出される。

 球速は1年生の時に146キロを記録。2年生の時にカットボールを覚えた反面、スピードが落ちてしまった。何とか取り戻そうとしたが、右肘を痛めた。投げることを控え、走り込みを増やすと、今度は左足のハムストリングを痛め、秋のリーグ戦では登板することができなかった。

「その時に辻コーチが『けが明けに成長するのがいい選手だ』ということを仰っていました。けがして、すぐ自分に言っていただけたので、気持ちを切り替えることができました。レベルアップするためのトレーニングに取り組んだら、いい方向に進んで行きました」

けがした期間に自分を見つめられたことが、成長につながった

 リハビリは患部を元に戻すことが目的ではない。けがをする前の状態以上にしないと意味がない。これまで大きなけがを経験してこなかった吉田は、離脱した当初は結構、落ち込んでいたが、その言葉で前を向くことができた。トレーナーとすぐにメニューを話し合い、以前の自分を超えるためのトレーニングを始めた。

 そこで、高校の時にはあまり取り組んでこなかったウエートトレーニングを積極的に行った。「あまり、得意な方ではなかったんですが、この機会にトレーニング面を向上しようかなと思いました。(ウエートトレが)好きにはなれていないですけど、やればやった分、成長が見られるので、言い訳ができないというか、今は“やらなくてはいけない”みたいな感じになっていますね」。先輩やコーチ、トレーナーらに話を聞いた。日体大には筋トレに紐づく授業もあったため、一生懸命、耳を傾けた。

「完治してからはよくなりました。どうにかしてスピードを上げたいなと思っていたので、3年の2月のキャンプでスピードを求めて、練習をしました。その時、球速が大きく上がりました」。投げられる喜びと進化した体を手に入れた吉田のストレートは磨きがかかった。けがした期間に自分を見つめられたことが、成長に大きくつながった。

 吉田ともう一人のドラフト候補の最速154キロ右腕・北山比呂投手(横浜高)も4年生で自信を手に入れた。辻コーチのプランニング通り、4年春でプロに行ける体が仕上がり、成績や球質が高いレベルに達した。ともに歩んだ4年間は遠回りではなかった。感謝の思いを抱き、プロの門を叩く。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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