最終S打率.143と徹底的に封じられた森友哉 鷹・甲斐が初戦第1打席で仕掛けた“罠”

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】

「和田さんの第1打席が大きかった」4球連続で内角を攻め、森の頭に意識付け

 13日に行われたクライマックスシリーズ ファイナルステージ第4戦で勝利し、4連勝で3年連続日本シリーズ進出を決めたソフトバンク。4試合連続で2桁安打、2試合連続毎回安打、4試合で計55安打で32得点を奪い、パ・リーグ王者の西武を投打で圧倒した。

 パ・リーグ史上初となる第1戦からの“下克上”を果たしたソフトバンク。西武を圧倒する攻撃力を発揮して攻め勝った印象が強いが、ディフェンス面で西武の反撃を要所で凌いだところが大きかった。4試合でリードを許したのは、第1戦の3回から7回までのみ。失点はあったものの、西武打線に要所、要所で痛打を許さなかった。

 ソフトバンクのバッテリーにとってポイントとなっていたのが、西武の3番を打つパ・リーグ首位打者となった森友哉の存在だった。試合後、正捕手の甲斐拓也捕手は「森をポイントとして考えていました」と明かした。

 森はこのクライマックスシリーズファイナルステージで18打席に立ち、14打数2安打5四球1犠飛で打率.143。シーズンで105打点をマークし、西武のポイントゲッターの1人だったが、この4試合では犠飛での1打点だけしか挙げられなかった。

 西武の“森対策”は9日の第1戦の1打席目に始まっていた。甲斐は言う。「和田さんの1打席目が大きかった。最後までできたのは和田さんのおかげかなと思います。ヒットは別にいいと割り切った」。結果的に中前安打を許すこととなったこの打席に、その後、森を封じ込める布石があったという。

「詳しくは言えないですけどね」。戦略面もあることから甲斐は詳細を伏せたが、それは森の頭にインコースをどれだけ染み込ませるか、だったのではないか。

初戦の第1打席、甲斐は和田に対して4球連続でインコースを要求した

 初球は140キロの真っ直ぐ。外角に外れたものの、甲斐の構えはインコースだった。1ボールとなって投じた2球目も構えは再びインコース。森の顔付近を通過する厳しい真っ直ぐが外れてボールとなった。3球目もインコース。やや真ん中低めにきて、これはファウルに。そして、4球目。再び内角への真っ直ぐを要求し、森は腕を畳みながら、中前へと弾き返した。

「和田さんの投球で意識付けできた」。この第1打席、和田と甲斐のバッテリーは4球連続で森の内角を攻めた。パ・リーグ首位打者で卓越したバットコントロールを誇る森の脳裏に、インコースを徹底的に染み込ませるように仕向けた。続く第2打席。1死一、二塁で迎えると、1ボール1ストライクからバッテリーは外角へのスライダーを選択。森は体が開き気味になりながら、当てるだけのバッティングになり二ゴロに倒れた。またインコースに来るのでは、との意識が窺える打ち取られ方だった。

 5回の第3打席では、変則左腕の嘉弥真がマウンドに上がっていた。嘉弥真は大きなスライダーを武器とするが、ここでも甲斐は初球、2球目とインコースにストレートを要求した。1ボール2ストライクからの4球目、外角のスライダーを森は手だけで懸命にファウルにした。スイングは明らかに崩されていた。5球目も外角のスライダー。これはスイングが止まりボールとなったが、2ボール2ストライクからの6球目、再びアウトコースのスライダーに森のバットはあえなく空を斬った。

 レギュラーシーズンで打率.329をマークした森。この日の第1打席での安打以降、4試合で森が放った安打は第2戦の7回の中前安打だけ。一発はもちろん、長打を許さなかった。第3戦の千賀は森のインコースに次々にカットボールを投げ込み、まともにスイングさせなかった。本来の思い切りのいいスイングをする森の姿は、この4試合、ほとんど見ることはできなかった。

 甲斐は「森はバットコントロールがいいですし、シーズン中にやられていたので」と言う。その技術で外角のボールでも安打にしてしまう森。そんな好打者に対して、いかにしっかりとしたスイングをさせないか。スイングを崩せさえすれば…。そう甲斐は踏んでいたのではないか。

「こっちから仕掛けていかないといけない。CS前にも和田さんと話して僕の気持ちを伝えて。和田さんからも『そう思う』言っていただいた」。甲斐はこう振り返る。第1戦の初回にあった“和田の4球”。これがクライマックスシリーズ ファイナルステージの勝敗を分ける1つのキッカケだった。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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