オリックス吉田正、西武ニール… セイバー目線で選出する9月の月間MVP【パ編】

西武のザック・ニール(左)とオリックス・吉田正尚【写真:荒川祐史】

西武がリーグ連覇、ソフトバンクは2位、楽天は3位に滑り込む

 西武がリーグ連覇を果たしたパ・リーグ。9月1日終了時点で、1位から6位までのゲーム差が9.5差という近年稀に見る混戦状態でした。そんなパ・リーグの9月順位表はこちらです。

西武 14勝7敗
打率.255 OPS.717 本塁打18 援護率4.24
先発防御率3.05 QS率61.9% 救援防御率3.88

ソフトバンク 12勝9敗
打率.245 OPS.697 本塁打24 援護率3.33
先発防御率3.34 QS率50.0% 救援防御率3.77

ロッテ 10勝9敗
打率.250 OPS.712 本塁打16 援護率4.96
先発防御率3.44 QS率70.0% 救援防御率3.96

楽天 11勝10敗
打率.236 OPS.688 本塁打19 援護率3.29
先発防御率3.48 QS率28.6% 救援防御率1.56

日本ハム 9勝11敗
打率.240 OPS.624 本塁打8 援護率3.69
先発防御率3.10 QS率35.0% 救援防御率2.97

オリックス 6勝16敗
打率.225 OPS.611 本塁打18 援護率3.32
先発防御率4.69 QS率37.5% 救援防御率3.87

 8月31日の時点でゲーム差なしだった西武とソフトバンクですが、9月11日、ついに西武が今季初の首位に立ちます。また楽天とロッテによる3位争いも終盤までデッドヒートを繰り広げていました。西武が優勝マジック2で迎えた9月24日、パ・リーグでは、西武-ロッテ、ソフトバンク-楽天、オリックス-日本ハムの試合が行われましたが、日本ハム、楽天が勝利し、その後西武が勝利.

優勝西武
2位ソフトバンク
3位楽天
4位ロッテ
5位日本ハム
6位オリックス

 と同日に順位が一気に確定するという稀な現象が起きました。9月の西武は打力もさることながら、先発投手陣の奮起が目立ちました。先発防御率3.05、QS率61.9%はともにリーグ1位です。

 そんなパ・リーグの月間MVPが10月15日に発表される予定です。

オリックスの吉田正は0PSで楽天の浅村に劣るがセイバー指標では上回る

 月間MVPの選出基準は原則NPB公式記録が用いられます。ただ打点や勝利数といった公式記録はセイバーメトリクスでは、個人の能力を如実に反映する指標と扱わないので、個人の選手がどれだけチームに貢献したかを示す指標による評価は、公式のMVPとは異なることもあることでしょう。

 そこで、セイバーメトリクスの指標による9月の月間MVP選出を試みます。

9月月間 MVPパ・リーグ打者部門
吉田正尚 (オリックス)
OPS.941 wOBA0.406 RC27 7.71

 1年を通じて孤軍奮闘だった吉田正尚ですが、9月も打率.307、本塁打7、打点14の好成績を残しました。月間MVPの対抗馬としては打率は.250だったものの、リーグ1位の2塁打7本と長打率.583、そしてチームをクライマックスシリーズに導く活躍を見せた楽天の浅村栄斗があげられるでしょう。

 ではこの2人をセイバーメトリクスの指標で比較してみましょう。

吉田正尚
OPS.941 出塁率.384 長打率.557 wOBA.406 wRAA8.30 RC27 7.71

浅村栄斗
OPS0.955 出塁率.372 長打率.583 wOBA.404 wRAA7.10 RC27 7.08

 出塁率と長打率を足して評価するOPSでは浅村が上位となりましたが、各プレーの特典価値を累積して算出するwOBA、選手の得点創出能力を測るRC27といったセイバーメトリクスの指標では吉田が上回りました。また平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAでは1点以上の開きになりました。よって吉田正尚を9月の月間MVPに推挙します。

投手では西武のニールが圧倒的な成績を残し断トツの候補に

9月月間MVP パ・リーグ投手部門

ザック・ニール(西武)
登板4 4勝0敗
防御率0.66 FIP2.68 WHIP0.91 RSAA3.78
QS率100%与四球0

 9月好調の先発投手陣のけん引役となったのは、6月20日に1軍復帰してから先発ローテションを守り、11連勝という外国人投手の連勝記録に並ぶ貢献を見せたザック・ニールです。6月20日以降の奪三振率は4.69とそれほど高いわけではないのですが、四球数はわずかに10と少なく、K/BBは4.2とかなり高い水準と言えるでしょう。そして打たせたゴロはフライの2倍という典型的なゴロピッチャーで「源田のところに打たせれば大丈夫」とバックを信頼したピッチングを繰り広げました。

 ニールの9月のセイバーメトリクスによる指標ですが、被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価するFIP、6回以上登板で自責点3以内に抑えた割合を示すQS率においてリーグ1位となりました。また9月は四球が0と抜群のコントロールも光りました。さらにRSAA(RunsSavedAboveAverage)という、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標

(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9

 による評価においてもニールはリーグ1位の成績を残しています。優勝を決めた24日の試合でも6回自責点1と先発としての役割を果たし、2年連続優勝に貢献したザック・ニールをパ・リーグの月間MVPに推挙いたします。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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