カナダのDV加害者更生 日本人セラピスト奮闘

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カナダのDV対策について話す高野氏=長崎市内

 日本から遠く離れたカナダの地で、DV(ドメスティックバイオレンス)の加害者の更生に奮闘している人がいる。セラピスト高野嘉之氏(52)。日本でDV対策は被害者を逃がすことに重点が置かれ、加害者を立ち直らせる公的な仕組みはない。高野氏は、加害者の更生がなければDV問題の「根本的な解決にはならない」と指摘する。

 東京出身。高校卒業後、カナダの大学に進学し、後にカウンセリング心理学で博士課程を取得。DV加害者臨床を学び、2003年ごろからセラピストの道へ。現在、アルバータ州グランドプレーリー市でDV加害者向けの更生プログラムを実践するNPO法人「ジョンハワードソサエティ(JHS)」に勤務している。
 カナダには、DVから一時避難した人を受け入れるシェルターなど手厚い被害者保護策だけでなく、加害者に対し更生プログラムの受講を義務付け再発防止を図るシステムがある。1989年、モントリオール理工科大で女性ばかりを狙った銃乱射事件が起きたのが契機になった。
 DV事案が起きると、DV専門警察官と児童相談所の専門スタッフが現場に出動。被害者と子どもを迅速に保護し、加害者の身柄を確保する。初動の段階から警察と児相が一緒に動きだすのが大きな特徴だ。事案発生から原則10日以内に専門裁判所(DVコート)で審理が始まる。
 高野氏によれば、DVコートは隔週1回開廷。1日15~20件の審理がある。裁判所からプログラム受講命令を受けた加害者は、JHSの事務所に通いながら、週1回、1日2時間半程度のプログラムを計16週間受講。グループ別に、暴力や虐待について考え直したり感情調整の仕方を練習したりする。無料で何度でも受講できる。
 DV問題と同様に、薬物関連事件についても専門裁判所(ドラッグコート)があり、薬物依存症者向けの専門プログラムが各地で行われている。一部の州では「あおり運転」(ロードレイジ)を繰り返す人を対象にしたプログラムもあり、さまざまな形態の「暴力」について、心理療法的アプローチで再発防止を図っている。
 こうした仕組みを支えているのが多機関の連携。高野氏は「DV加害者プログラムをはじめ、検察官、保護観察官、裁判所、児童相談所、被害者サポート団体などの関係者が定期的に集まり、課題や改善点などについて研究を深めている」と説明する。
 日本で、警察庁が把握した2018年のDV相談件数は過去最高の約7万7500件。被害者を保護する「民間シェルター」などの運営強化などの支援策が検討される一方、加害者更生の分野は一部の民間団体が細々と行っているのが実情だ。高野氏は「DVのような『加害性』は本来誰にでもある。パワハラのような行為も根っこは同じ。加害者が暴力に至る根本的な部分を解決しなければ、DV被害はなくならない」と話している。
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 高野氏は9月下旬、民間団体主催の講演のため来崎した。