鷹と西武、差はどこに? 平成唯一の3冠王・松中氏が「勝負を分けた」と指摘した“隙”

西武・辻発彦監督(左)とソフトバンク・工藤公康監督【写真:荒川祐史】

「西武は全体的に“らしくない“凡ミスや細かなミスが多く隙を見せた」

 13日までメットライフドームで行われていた「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージ。パ・リーグ2位のソフトバンクがリーグ王者の西武に対して、怒涛の4連勝と投打で圧倒した。下位チームによる第1戦からの4連勝はパ・リーグ史上初。圧巻の戦いぶりで、3年連続での日本シリーズ進出を決めた。西武は2年連続でクライマックスシリーズで敗退となった。

 ソフトバンクはファーストステージ第2戦から6連勝。ファイナルステージは4試合全てで先制し、2桁安打をマークした。第3戦と第4戦は2試合連続で毎回安打。4試合で55安打を打ち、計32得点を奪った。投手陣も強打の西武打線に要所での一打を許さず、4試合を通じて、ほとんど主導権を渡すことはなかった。

 2年連続で“下克上”を果たしたソフトバンクと、2年続けて涙を飲むことになった西武。両者の勝敗を分けた差はどこにあったのか。平成唯一の3冠王で、四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズのGM兼総監督に就任した野球解説者の松中信彦氏が両チームの差を分析した。

「短期決戦では隙を見せないことが大事です。西武は全体的に“らしくない”ミスが多く隙があった。一方でホークスにはそういった隙がなかった。それが勝負を分けたと思います」

 松中氏が指摘したのは失策などのミスによる試合中の“隙”の差。西武は初戦で決勝点を与えた森のパスボールなどミスが散見された。一方のソフトバンクにミスは少なく、そして今宮や柳田、福田、周東、牧原らの好守も度々生まれた。

 今季、レギュラーシーズンでソフトバンクは68失策。一方の西武はリーグワーストの92失策を喫している。松中氏は「シーズン中だと、ミスをしたとしても長丁場だから取り返せるんです。シーズン中はミスが流れを大きく変えることは少ないないけど、短期決戦では見えないミス、小さなミスがそのまま負けに直結してしまうんです」。短期決戦はミスが命取り。それが現れた4試合だったという。

四国アイランドリーグplus香川のGM兼総監督に就任した松中信彦氏【写真:福谷佑介】

次々に的中した工藤監督の采配「期待に応えた選手たちも凄い」

 ソフトバンクの選手たちは、なぜこういった短期決戦で力を発揮でき、隙を与えない戦いができるのか。松中氏は、ポイントに「危機感」を挙げる。

 このクライマックスシリーズ、工藤公康監督はベテランの松田宣や中村晃といった主力をスタメンから外し、福田らを起用してそれがハマった。一方、西武はシーズンを通じてほぼ固定メンバー。選手層の厚みもあるが、重要なのは選手層の厚さによって、選手たちの心の中に生まれる「危機感」なのだという。

「ホークスの選手たちにはミスをしたら代えられる、調子を落とせば代えられる、という危機感がある。当たり前のことを当たり前にやるという伝統が昔からあって、選手たちに染みついている。近年はポストシーズンに何度も進んでいる経験もあって、この当たり前のことを当たり前にできるから、ホークスは短期決戦に強いんです」

 明石や福田、川島、周東といったスタメンで起用されてもおかしくない面々がベンチにはいる。そして、その面々が出番に備えて万全の準備を怠らない。それがまた主力の危機感を煽り、チームを引き締めることになるのだという。

 このクライマックスシリーズ、工藤監督の采配も次々に的中した。指揮官の勝負勘についても松中氏は「工藤監督の采配も凄かった。ビックリしました。勝たないといけないと監督が判断すれば、選手は従わないといけない。ただ、その期待に応えた選手たちも凄いと思います」と語る。

 こうした抜擢、起用に、選手たちが応えられるところにも、この“危機感”が大きく関係する。「松田(宣浩)も『いい選手がたくさんいる、いつでも取って代わられる』と言っていたけど、そういう危機感が選手の中にあることが大きいと思います」と松中氏。チーム全員が危機感を共有していることが、ソフトバンクの勝負強さに繋がっているのだ。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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