プチ整形に始まって。整形に魅せられた女性の半生

自分の顔や体のパーツが気になり、どうしても直したい、整形したいと思う人たちは少なくありません。ただ、一般的には経済的な理由や、メスを入れることへの恐怖感などが「整形したい」欲望にブレーキをかけるもの。それでも「もっときれいになりたい」欲求が、すべてを上回ることがあるようです。


最初はプチ整形で二重に

「高校のころから自分が一重まぶたなのがイヤで、いつもテープを貼ったりして二重に見せていました」

そう話してくれたのは、マユコさん(37歳)です。スレンダーな体型、皺ひとつない顔は、きれいですがどこか人工的な感じもします。それもそのはず、彼女はすでに十数回、整形手術を受けているのだそう。

「大学に入学して周りを見ると、みんなきれいなんですよね。このままだと就職活動にも影響するのではないかと思い、アルバイトでためたお金でプチ整形をしました。メスを入れずに二重まぶたにしたんです」

ここから彼女の整形人生が始まりました。とあるメーカーに就職して、営業職として仕事を始めると、さらに自分の顔や体に不満を抱くようになっていきます。

「もっと胸が大きければ、いい商談がまとまったのではないか。私が魅力的ではないから業績が上がらないのではないか。そんなふうに思うようになったんです。というのも、同業他社で女を武器にして仕事をしている人がいたんですよ。陰で、あんなふうになりたくないと悪口を言ってましたけど、実は私、羨ましかったんですよね。女として評価されているのが」

こう考える女性がいること、その気持ちもわかります。女として生まれてきたからには、それを武器にして何が悪いと思う人もいるのです。

仕事で知り合った男性に、そんなことを愚痴ってみたら、彼は自分がお金を出すから手術してみればとこともなげに言いました。

「びっくりしましたよ。結局、手術しました。その人にお金を出してもらって。かなり人生が変わりましたね。その人とは少しの間、つきあいました」

仕事のかたわら、スナックでのアルバイトを始めてみたら、かつてないほどモテまくりました。もう少し鼻を高くしたいと思っていたマユコさん、また別の男性にお金を出してもらって手術をします。

愛人生活を経て

28歳のとき、昼間の仕事を辞めて愛人生活へ。

「スナックのお客さんの紹介なんです。何をしている人かよくわからなかったけど、愛人になってもらえないかと言われて。私より10歳年上の優しい人でしたよ。彼が所有しているマンションの一室をあてがわれ、生活費ももらっていました。お尻をアップさせる手術も受けさせてくれました。ただ、どうやら奥さんにバレたようで、1年半ほどで別れることになりましたが」

そのころの彼女には、「恋愛感情」が抜け落ちていたといいます。お金をもっている男性に近づいて、きれいになるための資金を出してもらう。そのお礼に、きれいになった体を提供する。そんな感覚が強かったそう。

「どこか壊れていたと今になると思います。ただ、あのころはきれいになりたい病に取り憑かれていたんです。きれいでなければ、誰も私を必要としてくれないと思っていた」

自分に自信がなかったと彼女は言います。それというのも、彼女は親に愛された記憶がないから。酒を飲んでは暴力をふるう父、そんな父を憎みながらストレスをひとり娘の彼女にぶつけた母。「不細工な子」と母に罵られたことを思い出すと、今も落ち着かない気持ちになると彼女は言います。彼女が大学へ行けたのは、母方の祖父母が親身になってくれて学費を出してくれたからだそうです。

「30歳を目前にして、再び昼間の仕事に就きました。仕事は大変だったけど社内に好きな人もできて、社会に出てから初めて、落ち着いた恋愛をすることができたんです」

整形のことはなかなか同い年の彼に言えませんでした。2年ほどつきあったころ、彼はしきりに友人たちに彼女を紹介するようになりました。その後、彼に聞かれます。

「僕の女友だちが、マユコのこと整形だっていうんだけど本当?」

と。ウソはつけませんでした。言おうとしたけど言えなかった、あなたを失いたくなかったから。そう告げましたが、彼は去っていきました。

「私にとっては“たかが整形”だったけど、彼にとっては“されど整形”だった。結局、きれいになっても誰にも愛されなかったことで落ち込みました」

失恋後に目覚めたのは

夜の世界に戻った彼女は、今、とある地方のクラブで働いている。ようやく「接客業」に目覚め、客に合わせた会話ができるよう、新聞や本を読み、内面を充実させるよう努力しているといいます。

「あの失恋は、当時、大きな痛手でした。でもあれを経て、私も本気で人を愛することができると思えるようになりました。今はやっとプロのホステスとしての意識が芽生えたところですね。男性に媚びて整形をするのはやめましたけど、自分のお金でヒアルロン酸やボトックスを入れたりはしています。いつまでもきれいでいたい気持ちに変わりはありませんね。外見も内面もね」

そう言ったあと、彼女はしばらく考えてからぽつりと言いました。

「それでもやっぱり、まだ整形したい気持ちはあります。自分を変えていくこと自体に魅せられているのかもしれません」

常にフレッシュな自分でいたい。きれいでいないといけない。そんな強迫観念は簡単には払拭されないものなのかもしれません。

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