西川CEO辞任でどうなる!? 日産自動車の内田氏新体制を占う

日産自動車グローバル本社[神奈川県横浜市]

リーダー的な存在感

日産は2019年10月8日の午後8時から横浜市内の本社で緊急記者会見を開き、空席だった最高経営責任者(CEO)に専務執行役員の内田誠氏を昇格させると発表した。

内田氏は今回の人事が決まるまで、日産の中国事業を進める東風自動車の総経理(社長に相当)を務めていた人物。

筆者(桃田 健史)は中国のモーターショーで日産が実施した、少人数での記者懇談会で内田氏と何度か直接言葉を交わした。その際、ずっしりとした佇まいで落ちついている、という印象を持った。また、質問で分からないことは「分からない」とはっきり答えたうえで、実務担当者に質問を振り分けた。

あくまでも筆者の個人的な感想だが、内田氏はリーダー的な存在感がある人物だと思う。

今後は、内田氏による新体制のもと、(経営陣による)集団型の経営スタイルへと変革させるという。

社員の経営への無関心体質から脱却を

日産自動車 内田 誠(うちだ まこと) 専務執行役員

内田氏がいう集団型の経営体制とは、もちろんゴーン体制に対する反省である。

ただし、執行役の職務にある人たちの間での意思疎通がうまくいけば良い、という訳ではないはずだ。

近年の日産社内を見ていると、「経営に対してモノを言っても無駄」という風潮があったと思う。「何事も(ゴーン一派の)フランス人幹部らがいきなり言ってくる。だから、日本人社員がボトムアップの議論をしても、結局は無駄アシ」という感じだった。

そもそも日産には古くから、経営層と社員層、またはオフィスワーカー(ホワイトカラー)と工場ワーカー(ブルーカラー)という社内の二極化体質があったと思う。そうした状況の一部は、ゴーン体制によって改善されたともいえる。その代わり、フランス人主導型、さらにはゴーン一極化が加速した。少々強めの言葉を使えば、ゴーン体制による社内での恐怖政治のような雰囲気になり、社員の間では「事なかれ主義」が定常化した印象がある。

「モノづくりへの回帰」と「流通再編における新規サービス事業の創出」

日産 追浜工場(電気自動車生産風景)[イメージ]
日産 キューブ 2012年10月マイナーチェンジモデル

では、内田新体制で、日産はどう変わるべきか?

筆者は「モノづくりへの原点回帰」と「流通再編における新規サービス事業の創出」の2点を挙げたい。

まず「モノづくり」だが、日本市場におけるラインアップが減少、または主力モデルのフルモデルチェンジまでが長期化した「日本市場軽視」ともいえる現状に代表されるように、近年の日産は「顧客目線での時代のニーズにそくした商品をタイムリーに提供する」姿勢が大きく欠けている。

ゴーン体制では「パワー88」などの中期経営計画を打ち出してきたが、これらはモノづくりが基盤ではなく、経理措置におけるきれいなバランスシートを形成することを優先するような印象が色濃い。そのため、新車導入が大幅に遅れ、顧客の日産離れを食い止めるため、販売店向けの販売奨励金(インセンティブ)によって販売台数を維持することになった。これは日本市場だけではなく、販売台数が多いアメリカ市場でも定常化していた。

日産 フェアレディZ 50th Anniversary

また、2010年に他社を差し置いて積極的に市場導入したEV事業も、大きな転換期を迎えている。世界EV市場は、国として販売台数義務化を進める中国が主導し、日米欧での販売は頭打ち状態。また、テスラ、ジャガーなどによる高付加価値高価格なプレミアムEV市場にインフィニティティとしての参入計画が伸び伸び(凍結?)の状態だ。

自動運転やADAS(高度な運転支援)についても、競合他社の性能も向上しており、日産として他社との差別化が難しくなってきた。

さらにシェアリングエコノミーへの対応など「新規サービス事業」についても、トヨタのように国内ディーラー再編を伴う流通に対する大手術が必要だろう。

内田体制では、自動車産業変革期において、日産社員による全員野球型の経営を期待したい。

[筆者:桃田 健史]

元・日産自動車 カルロス・ゴーン氏
日産自動車 西川 廣人(さいかわ ひろと) 取締役
日産 キックス(中国仕様)

© 株式会社MOTA