『解放区』 内容の修正を断ってでも、監督が守り抜いた釜ケ崎の魂

(C) 2019「解放区」上映委員会

 友人の自殺を直視したドキュメンタリー『わたしたちに許された特別な時間の終わり』の太田信吾監督の最新作。製作年を見ると、「2014年」になっていて5年前に作られたことが分かります。どうして14年に作られた作品が、5年の時を経て公開されることになったのか? この作品は14年、大阪のの助成金の対象となって、大阪アジアン映画祭の上映を目的として製作された作品でした。

 どんな作品かというと、取材現場で先輩の手法に反抗したことで職場での居場所がなくなった男が、大阪・釜ケ崎で出会った少年たちのドキュメンタリーを撮るうちに異世界に堕ちていく姿を描いています。まるで本物のドキュメンタリーを観ているようなリアルな映像なのですが、完成後は大阪市から内容修正の指示を受けました。釜ケ崎の<ドヤ街>と呼ばれている場所の様子や、飛田新地、あいりんセンターなどに生きる人たちの姿をリアルに写していることが、再開発を進めていた当時の大阪市からNGが出た理由でした。

 その修正指示を監督は拒否。助成金を返金し、自主上映、映画祭への出品に止まりました。芸術と行政の関係性で考えると、最近あった芸術祭への支払い留保問題を彷彿とさせるお話ですが、5年の歳月を経てついに劇場公開となりました。監督が守り抜いた本物の西成の風景を、一人でも多くの人に観てもらいたいです。★★★★☆(森田真帆)

監督・脚本:太田信吾

出演:太田信吾、本山大、山口遙

10月18日(金)から全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社