先行するカローラスポーツがデビュー1年で乗り味に手を加えた理由
12代目となるカローラの「セダン」と「カローラツーリング(ワゴン)」、そして今回小変更を受けた「カローラスポーツ」に試乗することができた。
昨年5ドアハッチである「カローラスポーツ」をプロトタイプから試乗し、「トヨタのハンドリングに小さな革命が起きている!」と感じた筆者だったが、なんと今回はそのカローラスポーツが、一年も経たないうちに足回りの変更を受けたという。
そしてこの変更をベースに、セダンとツーリングのフットワークが形成されたというので、順序立ててこれを説明して行くこととしよう。
一部改良で洗練度を増したカローラスポーツに試乗
小変更を受けたカローラスポーツを試乗してまず感じたのは、「これは去年真っ先に購入したユーザーが悔しがるだろうなぁ…」ということだった。
試乗したのはハイブリッドモデルで、グレードは「G “Z”」。
従来モデルとの違いは、ずばり乗り心地の洗練だと思う。そして開発陣は変更の狙いを、操作性の向上だと述べた。従来のようにピッチングやロールを抑制してスタビリティを高めるのではなく、「人が予測しやすくサスペンションを動かす」ことで、目線の動きを減らす。これによって快適な運転感覚を目指したのだという。そこで今回ダンパーの構造とEPS(電動パワーステアリング)の制御を見直したわけだが、結果的には乗り心地までもが良くなっていた。
具体的にはオイルの選定から見直し、ピストン外壁に敢えてシリンダーとの摺動(しゅうどう:滑らせて動作させる)抵抗を僅かに掛けることで、動き出しから減衰力を素早く立ち上げるのだという。またリアのスタビライザーは、板厚を増す方向で適正化したという。
目線の動きが少なくなり、乗り心地も上質に
実際にこれを試したところ、サスペンションの縮み出しがとてもスムーズ。そしてまったりと路面の入力を受け止めて、これを減衰していることが印象的だった。
目線の動きの少なさは、意識すると確かにピッチングの少なさとして感じ取れたが、これを意識しながら乗るよりも、自然に運転している方が断然気持ち良い(まさにここが開発陣の狙いなのだが)。
乗り比べてしまうと板の上に乗っているような旧モデルに対して、新型はそこに厚手の絨毯を敷いたような乗り心地の良さを感じる。遮音性は同じくらいだが、路面からの細かいバイブレーションと、コツコツとした突き上げが巧みにダンピングされていた。それでいてダンパーは初期からきちっと減衰力を立ち上げているから、しっかり感も損なわれていないのだ。
とはいえ接地荷重が高まって行けば、旧型も生き生きとしてくる。コーナリングの素直さや操舵応答性の良さはまったく損なわれておらず、むしろこのちょっと荒い初期ダンピングからのシャープな応答性に、若いユーザーならスポーティさを感じるかもしれない。
逆に新型はサスペンションの初期作動領域が洗練されたことで、EPSのフィールにメリハリ感がもう少し欲しくなった。今回はここも改良したとのことだったが、モードを「スポーツ」に変更しても、まだ操舵方向に若干オーバーシュートしてしまう。これをドライバーが無意識に近い状態で引き戻す感覚が少しだけある。
ひとつ改善すれば次の課題が見つかる。それが進化というものなのだろう。
ちなみに今回の新旧比較は、オプションのAVS(可変ダンパー)ではない。コンベンショナルダンパーでこれだけの進化を果たしたのは本当に驚きだが、まさにこの技術をカローラセダンとカローラツーリングにも応用するため、この短期間でカローラスポーツにも改良が加えられたのだという。
日本向けにボディサイズをギュッと凝縮させたカローラ/カローラツーリング
新型カローラ(セダン)とカローラツーリング(ワゴン)において最も注目すべきポイントは、そのボディサイズがグローバルモデルとは違い「日本専用サイズ」となったことだろう。
ちなみにツーリングのボディサイズは4495×1745×1460mmで、ホイールベースは2640mm。これは先代モデルに対してひとまわり大きいサイズになっているものの、欧州モデルに対しては全長が155mm短く、全幅は45mm狭く、ホイールベースは60mmも短くなっている。
これはひとえに取り回しの良さを考えてのコンパクト化だが、リアの居住空間がグローバルモデルに比べて狭いことをユーザーがどのように捉えるかは興味深い。実際は先代比ならホイールベースも40mm延長されており、決して広くは感じないが、身長170cmの筆者が座ってもさほど窮屈な感じはしなかったことを付け加えておく。
ちなみに最小回転半径は、セダン/ワゴン共に5mを実現している。
セダンとツーリング、乗り味の違いがほとんどないことに感心
そんなセダンとツーリングだが、感心したのはその乗り味だった。当然ワゴン形状のボディならばセダンよりも剛性は落ちるはずだが、結論から言えば街中でその差はほとんど感じられなかった。
両者の重量差は最大でも20kgほどしかなく(ガソリン車のGーXモデルのみ40kg)、ツーリングだからといって特別なボディ補強をしているわけではなさそう。つまりそれだけツーリングのTNGAプラットフォームがしっかりしており、なおかつサスペンションが路面からの入力を上手にいなしているということなのだろう。フロアに低級振動が伝わるようなこともなく、乗り心地は至って快適だった。
新型カローラの1.8Lガソリンとハイブリッドを徹底比較
筆者のオススメは1.8Lガソリン
というわけで走りについては、ガソリンモデルとハイブリッドの違いを中心に説明しよう。
一般的なユーザーに売れ筋モデルとなるのはハイブリッドだと思われるが、筆者的はガソリンモデルのバランスの良さに、好印象を抱いた。試乗したのはセダンのグレード「S」で、205/50R16インチのタイヤを履く標準的なモデルだ。
まず1.8リッターの自然吸気ユニットは、その軽やかな吹け上がりが若々しい。出力はたったの98PSしかないが、CVTとの連携が非常にこなれていて、街中でもハイブリッドに見劣りしない実用トルクが確保できている。7段の有段フィールを持つシーケンシャルモードもあるが、そのまま走っていても常に適正なトルクバンドが維持されており、アクセルを踏み込んだときの反応もいい。だから沢山踏み込まずとも、スムーズに加速することができた。
そしてシャシーも、このエンジンフィールに相応しいスッキリ感を持っていた。サスペンション剛性はスポーツに比べてかなりソフトな印象だが、タイヤとのマッチングが良いため剛性不足は感じない。路面からの入力を上手に吸収しつつ、ロールが少なめなのもいい。ハンドルを切ったときの応答性はリニアに過ぎず、良く曲がってくれる印象。そして肝心な直進安定性も、そつなく保たれていた。このスッキリ感こそが、新世代カローラのテイストなのだと思えた。
ハイブリッドとの価格差は、同じ「S」グレードで43万4500円。燃費は確かに14.6km/Lとハイブリッドの29km/Lに対して大きく見劣りするが、その価格差を燃費で埋めるよりはイニシャルコストの安さと、走りの良さを購入動機にしたい。ベーシックモデルで税込み200万円を切るガソリンモデルの安さは、その出来映えを考えればバリューである。
ハイブリッドも盤石の安定感が魅力
対してハイブリッドは、盤石の安定感だった。モータートルクがアシストする走りは適度に力強く、ガソリンエンジンよりも上級ユニットであることがうっすらと感じられる。
ただし若干の重さが影響しているようで、もう少しだけダンパーの初期減衰力が欲しいと感じた。操舵初期におけるロールスピードが僅かに早いため切れ込み感が強く、個人的には曲がり過ぎてしまう印象を持った。
試乗したのはツーリングのハイブリッド W×B。ハイブリッドな上にセダンよりも若干重たいボディと、17インチタイヤのシッカリ感に対して、ダンパーがほんの少しだけ負けている。またEPSの軽さや制御の緩さも、そこに拍車を掛けてしまう。ちなみにガソリンモデルとハイブリッドでは、EPS(電動パワーステアリング)の制御が少し違うとのことだ。
そのままコンバートするのは無理だとわかっているが、感覚的にはカローラスポーツの足回りを付けてしまえばいいのにと思えた。
これを開発陣に話すと、彼らとしては「カローラとして守らなければならない味」があると語った。わかりやすく言うと垂直方向の突き上げ感のなさ。若干ふわりとした乗り心地には、18代続いたカローラの伝統があるという。
確かにカローラには歴代、そうした乗り味の印象がある。そう考えるとこのソフトな足回りで操舵応答性を引き出したことは見事だ。ただ操舵応答性が良くなると同時に直進安定性はトレードオフされるから、長距離移動ではどうなのか? だからこそ歴代カローラは、敢えて少しだけステアリングセンター付近の応答性を鈍らせていたのではないのだろうか?
ちなみにこのあと試乗したセダン ハイブリッド(グレードは同様にW×B)では、こうした切れ込み過ぎも少し抑えられていたから、ここにこそボディの差が少し現れたのかもしれない。
過去の呪縛に決別を告げながらも、いっぽうで頑固に守り続ける味がある
カローラは、かつて“国民車”と言ってよいほど街に溢れるクルマだった。本当に、我々庶民にとってカローラは誰もが買えるクルマであり、だからこそコンサバなデザインや乗り味が必要だった。だからこそ、スポーティカーとして「カローラレビン」や「スプリンタートレノ」、そして「カローラFX」といった数々の派性モデルが生み出された。
しかしいまやその存在は、同じトヨタが生み出したプリウスと、軽自動車に取って変わられた。そんないまキーンルックのセダンを見ていると、カローラは新しい転換を迫られたのだなと感じる。良い意味でこんな奇抜なセダン、昔のトヨタだったら絶対に許されなかったはずだ。
ジャパンサイズにこだわりながらも、スタイリッシュなリアビューを持つカローラツーリングにも、従来型カローラフィールダーの、敢えて少し控えめにしていたデザインからの完全脱却を感じる。
その一方で、彼らには伝統の味を守らねばならないという使命感もあった。その両輪があるからこそカローラなのだと、今回の試乗で深く学んだ気がした。
[筆者:山田 弘樹/撮影:和田 清志]