スポーツができる喜び

 「ここでスポーツをやれることがありがたいんです」。2011年夏の北東北インターハイ。ある競技の監督がつぶやいた言葉を思い出した▲同年3月11日、東北、関東地方は未曽有の大災害に見舞われた。三陸沖地震により引き起こされた大災害「東日本大震災」。影響はスポーツ界にも及び、各競技の全国高校選抜大会をはじめ、春のイベントはほとんど中止となった▲選手たちにとっては不完全燃焼の春。それでも「何でやれないんだ」という声は聞こえなかった。逆に「平和だからこそスポーツができる」という絶対条件を再確認。夏のインターハイは「やれる」という喜びにあふれていた▲台風19号が列島を通過した13日夜、横浜市でラグビーW杯の日本-スコットランド戦が行われた。開催の是非については賛否両論もあろう。ただ、台風の犠牲者へ黙とうをささげて試合に臨んだ選手たちはみな、ひた向きだった。「スポーツをやらせてもらっている」。そんな姿を見せてもらえた気がした▲結果、日本はスコットランドの猛攻に耐え抜き、28-21で競り勝った。一人一人の体を張ったプレーが、初の8強につながった▲スポーツをやれる、観戦できる喜びをあらためて実感した一夜。被災地への思いを忘れずに、日本の快挙を静かにたたえたい。(城)

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