「パワプロ」「プロスピ」制作秘話 「サクセスモード」は「ときメモ」から誕生!?

KONAMIプロデューサーの森博信さん(左)と山口剛さん【写真:編集部】

開発担当プロデューサーにインタビュー、なぜ2頭身キャラクター?

 国民的野球ゲームといえば、株式会社コナミデジタルエンタテインメントが発売している“パワプロ”こと「実況パワフルプロ野球」シリーズ、そして“プロスピ”こと「プロ野球スピリッツ」シリーズが思い浮かぶ人が多いだろう。「パワプロ」は今年で25周年、そして「プロスピ」は15周年を迎えた。

 最新作となる「実況パワフルプロ野球2019」は、シリーズで初めてNintendo Switchをプラットフォームとして6月27日に発売されて人気を博している。また、プレイステーション4をプラットフォームとする「プロ野球スピリッツ2019」は4年ぶりに最新作が登場。7月18日に発売されると、こちらも人気となっている。

 ゲームファン、野球ファンだけでなく、プロ野球選手にも愛用者の多い「パワプロ」「プロスピ」の両シリーズ。このほどFull-Countでは、コナミデジタルエンタテインメント社で開発を担当する森博信プロデューサー、山口剛プロデューサーの2人に独占インタビュー。パワプロ誕生の秘話や開発の舞台裏、プロ野球選手も気にする能力設定の裏側などを存分に語ってもらった。

 その第1回は「パワプロ」「プロスピ」の誕生の背景や、“パワプロくん”がなぜあの愛くるしい2頭身キャラクターになったのか、など、開発者たちの狙いと思いを聞いた。

――まず最初に、パワプロが誕生した経緯を教えていただけますか?

山口剛プロデューサー(以下、山)「我々は最初から作っていたメンバーではないのですが、イチから作っていたメンバーによると、1994年にスーパーファミコンで『実況パワフルプロ野球』ができました。ただ、その前にパソコンで『生中継ロクハチ』という、リアル頭身に近い野球ゲームが発売されていました。それを作っていたメンバーが、パワプロを制作することになったんです。

 もともとは2頭身ではなくて、リアル頭身でいこうという話になったのですが、当時はPCと言っても、高精細な表現ができるハードではありませんでした。リアル頭身で動きを表現しようとすると、コマ送りの絵みたいな感じになってしまって、自然に選手の動きを表現できなかったんです。それで、パワプロくんのような2頭身のキャラクターが出てきたんです」

森博信プロデューサー(以下、森)「2頭身であれば、見ている側も(動きのイメージを)補完しやすいんです。当時は『生中継68』と一緒に『激突ペナントレース』といいうリアル系ではない野球ゲームもありまして、それらを融合させてスーパーファミコン向けに作ったのが『パワプロ』でした」

KONAMIプロデューサーの森博信さん【写真:編集部】

「パワプロ」があったのに「プロスピ」が誕生したのはなぜ?

――パワプロくんのフォルムは動きの滑らかさを求めた結果なのですね。ハードが進化しても、パワプロくんは変わらなかった。

山「パワプロくんはああいう見た目ではありますが、格好いい野球シーン(の再現)とかを目指していたので、特にリアル系じゃないとダメだという考えはなかったですね」

森「野球ゲームの中で選手を出すと小さく表現されてしまうんですけど、パワプロくんは頭が大きく、手も丸いので、動きが割と大袈裟に、どう動いているか分かりやすいのです。野球のリアルな動きを伝えやすいところの一部だったかな、と。想像しやすいというか」

――開発する上で大変なことはなんでしょう?

山「大変なことしかないですね(苦笑い)」

森「パワプロは毎年のように出ているので、前作からどれだけバージョンアップ、アップグレードされているのかが大事になります。新作に対する期待感もあるので、各モードの遊びの中でどう表現するかというのは悩ましいところですね。今作で言えば、Switch版で初のパワプロということで、遊びやすく分かりやすくしたり、複数人で遊べたり、気軽に遊べるような要素と、これまでの遊びを上手く融合させるところに頭を使いましたね」

――2004年にプロスピの第一弾が発売されました。パワプロはヒットする中で、同じ野球ゲームを敢えて作ったのはなぜでしょう?

山「僕らとしても元々、リアルなプロ野球ゲームというものは目指していたところではあります。ハードの進化とともにリアルな表現ができるようなレベルにまで来たということで、改めてチャレンジしようということになりました。2001年に『プロ野球JAPAN2001』というゲームがプレイステーション2で出まして、それがリアル野球ゲームの復活、今の『プロスピ』シリーズの前身になります。そこから2004年にプロスピシリーズが始まり、今年でちょうど15周年になりました」

――リアルな野球ゲームで大変になるのはどんなところでしょう?

森「実は、パワプロの2頭身の補完とは全くの逆のことが起こるんです」

山「パワプロくんの場合は、『可愛いね、パワプロくん』となるんですけど、プロスピの場合は『なんでリアルな人間がこんな動きをするんだよ』という方向に行きがちになります。より選手の動き、球場の見た目などは再現度の高さを求められます。同じ野球ゲームですが、求めている方向性はまるで違います」

KONAMIプロデューサーの山口剛さん【写真:編集部】

「イチローさんのモーションを、ニッチローさんにやっていただいたりしても面白いかも」

――両ゲームに共通することですが、選手のフォームが特徴を捉えています。どう制作しているのでしょうか。

山「選手のフォームを再現するモーションアクターさんがいらっしゃいます。その方がモノマネをし、それをモーションキャプチャーで取り込みます」

――選手の実際の映像を元にするのではないのですね。

山「そういった技術も最近出てきているみたいですが、昔は当然そういった技術はなかったので、アクターさんに再現していただいています」

森「アクターさんをモーションキャプチャーで撮影することによって、『パワプロ』に反映できますし、『プロスピ』用にもカスタマイズさせて反映させることができたりするんですね」

――モノマネ芸人さんがいたりするんですか?

山「タレントさんは今のところ入っていないです。でも、今後、アリかもしれないですね。イチローさんのモーションを、ニッチローさんにやっていただいたりしても面白いかもしれないですね」

山「見て作ると膨大な時間がかかってしまうんです。イチから作るよりも、モーションキャプチャーという技術をしてから調整した方が工程としては早いんで。本当は全選手のフォーム完全再現まで行きたいんですが、なかなか膨大な時間がかかってしまうので、ある程度優先付けしてやらせていただいています。大物選手だったり、人気選手だったりですね。ソフトバンクの中村晃選手の“脇パカパカ”なんかは凄く言われましたね。レアードの寿司ポーズも再現されています」

――制作の過程で最も時間を要する工程はどこになるのでしょう。

山「プロスピでいうと、選手の顔、球場の再現に1番時間かかっていますね」

森「球場も、パワプロもプロスピもベース部分は同じ形で作った上で、リアルっぽい観客表現とかを作り分けていきます」

山「選手の顔に関しては、3Dスキャンで実際に選手を撮影させていただいてます。2015年のプロスピの時に初めて導入したんですが、実際にキャンプ地に我々が赴いて、1人1人撮影させてもらって。カメラ20台くらいで360度からバッと撮ります。カメラ20台で同時に撮影しないとズレが生まれてしまうので、同時に撮影できるシステムも我々で作っています」

――他のゲームからインスピレーションを得たりすることもありますか?

山「『サクセスモード』は、実は他のゲームを参考にして生まれたんです。弊社の一大コンテンツの『ときめきメモリアル』なんです。あれを好きな人がそういうシステムを導入したんです。物語性のあるもので、ですから彼女とかもいますし、3年で成果を達成する形になっています」

ー『ときメモ』ですか!?

山「単純に開発担当の中に『ときめきメモリアル』が好きな方がいたっていう……」

森「開発中に隣でプレイしている人がいました。『それ、面白いの?』みたいな感じになり『これだ!これだ!』となりまして…」

山「それが今や20年以上続く人気モードになっているんです」(Full-Count編集部)

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