【高校野球】ドラフトを待つ無名校の152キロ右腕 1日50分の練習で躍進「センスある人に負けたくない」

武田高校・谷岡楓太【写真:橋本健吾】

中学時代は2番手投手、1日50分の練習で最速152キロ右腕に成長した武田・谷岡楓太

 中学時代は控え投手、高校では「ピッチャーは無理だろうなと、打者で頑張ろうと思っていた」。わずか2年半、1日50分の練習で最速152キロ右腕に成長したのは広島・武田高校の谷岡楓太だ。

「プロにはいきたいですが、ドラフトを前に緊張するとかはないですね。今は155キロを投げられるように、変化球をもっと磨くことに集中しています」

 身長176センチ体重82キロと小柄な部類に入るが、投げるボールは一級品だ。入学当初は最速125キロだった直球は1年秋で138キロ、2年春には148キロ、そして現在は最速152キロをマークするまで成長した。岡崎監督も「回りの状況に左右されない。一番は取り組む姿勢。素直なところが成長した要因」と、谷岡の全てに対する吸収力を評価している。

 専属トレーナーらの指導と自身の考え、向上心が一致。入学当初は投げることは許されず、股割りなど体作りが中心だった。それでも腐ることなく1日50分と限られた時間の中で全力を注いだ。「武田に入る前は『50分の練習で楽そう。ラッキー』ぐらいの勢いでしたが入ったら全然違っていた(笑)。でも、やらされる練習じゃなくしっかり考えて理にかなったことばかりだった。モチベーションが落ちることは一切なかったです」と“50分練習”を振り返る。

 岡崎監督はドラフト候補にまでのし上がった谷岡の成長に目を細めながらもこう語る。

「『わずか50分、たった50分』が独り歩きしてるのですが、武田は夜間も授業があるので全ての部活動が練習時間が50分と限られた時間しかない。その中で何ができるか、無駄を取り除いてやる練習方法を常に探しています。谷岡が“突然変異”で150キロが投げられるようになったわけじゃないと思っています。実際に入った当初は足も遅いし、投げるのも苦手、普通の高校生でしたから。谷岡がスタートでそれに続く選手を毎年のように作っていければと思っています」

「武田高校のトレーニングを理解してやれば150キロは誰でも出ると思う」と話す谷岡楓太【写真:橋本健吾】

武田高校のトレーニング、練習を理解すれば「150キロは誰でも出ると思う」

 谷岡自身も「自分はセンスがないので、センスのある人に負けたくない」と語る。入学当初の50メートル走は7秒3、筋力数値も下から数えた方が早かった。それでも「武田のトレーニングを理解してやれば、150キロは誰でも出ると思う。これまで出てない人はやってないだけ、自分はただやっただけ」と淡々と口にする。

 限られた時間の中でブルペンでの投げ込みはほとんど行わない。“ブルペンエース”と言われる選手が多いことも理解している。「無駄とは思わないがやっぱり“対人”で投げないと意味がない。変化球だって実戦で試した方が早い」。練習のための練習ではなく、実戦で通用する“最短ルート”を求めた。武田高校だからこそ得られたと言ってもいい。

 ここまで5球団から調査書が届きドラフト当日を待つ谷岡。指名がない場合は大学進学が決まっている。将来的な目標は世界最高峰の舞台・メジャーリーグで強打者たちと対戦することだ。今後の成長過程、自身のピークを逆算していくと大学4年間は貴重な時間になる。

「トレーニング次第で自分が目標とする160キロは出ているかもしれない。年齢的なことを考えたらそのままアメリカにいくのもありかなと思っています」

 決してビッグマウスではない。2年半で裏打ちされた経験と成長、そしてまだまだ伸びしろのある“未完成”の右腕が今後、どのような野球人生を過ごしていくのか。まずは運命の「10・17」に注目したい。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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