佐々木朗希、奥川恭伸を託せるチームはどこだ? 12球団の育成事情を比較する

今年もいよいよ、プロ野球を目指す全ての選手にとって“運命”の決まる、ドラフト会議が開催される。今回最も注目を浴びている、佐々木朗希(大船渡)と奥川恭伸(星稜)。この2人をより生かすことができるのは、いったいどこの球団なのだろうか? 過去の育成事情を比較して、考えてみたい。

(文=西尾典文、写真=Getty Images)

佐々木朗希と奥川恭伸を生かすことができる球団の条件は?

10月17日に行われるプロ野球ドラフト会議。今年の注目は何といっても高校球界を代表する2人の投手、佐々木朗希(大船渡)と奥川恭伸(星稜)だ。多くの球団の1位入札が予想されているが、2人をより生かすことができる球団はどこになるのか。あらゆる視点から分析してみたいと思う。

2人とも大器であることは間違いないが、これまでの経験や実績から現時点での状況は少し異なってくる。簡単に言うと、よりスケールが大きいのは佐々木だが、体力やピッチングの完成度などは奥川に分があると言えるだろう。佐々木は2年目か3年目から本格化し、奥川は1年目からローテーション入りも狙えるというくらいの時間軸の差はある。そのためまず球団を選ぶ条件として2人に共通して必要な要素と、それぞれの特長をより生かしやすい点を挙げてみた。

【2人共通】
・高校生投手を1位で多く指名している
・高校卒の投手が1軍、ローテーションで多く活躍している

【佐々木に必要な要素】
・大型投手を一流にした実績
・無理して1軍に上げず、2軍で鍛えられるだけの投手陣の層

【奥川に必要な要素】
・高校卒の投手を早く抜擢している実績
・先発の奥川を援護できる打線、もしくは強力なリリーフ陣

過去のドラフトで高校生投手を数多く獲得した球団は?

まず2人に共通するポイントから見ていく。過去10年のドラフトで、1位指名で獲得した高校生投手の数を多い順に並べると以下のようになった。
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ソフトバンク:4人(武田翔太、松本裕樹、高橋純平、吉住晴斗)
楽天 :4人(森雄大、松井裕樹、安楽智大、藤平尚真)
日本ハム :4人(中村勝、大谷翔平、堀瑞輝、吉田輝星)
西武 :3人(菊池雄星、高橋光成、今井達也)
中日 :3人(岡田俊哉、鈴木翔太、小笠原慎之介)
巨人 :1人(松本竜也)
DeNA :1人(北方悠誠)
阪神 :1人(藤浪晋太郎)
広島 :1人(今村猛)
ヤクルト :1人(寺島成輝)
ロッテ :0人
オリックス :0人
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最も多いのはソフトバンク、楽天、日本ハムの4人で、西武と中日の3人が続くという結果になった。一方でロッテ、オリックスの2球団は過去10年で高校生投手の1位指名はゼロ。こうして見ると意外なほど差がついたという印象だ。

次に1位指名だけでなく、トータルで過去10年間に獲得してきた高校生投手の数を並べてみた(育成枠は除く)。
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ソフトバンク:15人
広島 :14人
中日 :14人
巨人 :13人
日本ハム :12人
DeNA :11人
阪神 :11人
楽天 :11人
ヤクルト :10人
西武 :9人
ロッテ :8人
オリックス :8人
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こちらはソフトバンクが単独1位で15人。続いて14人で広島、中日が続いている。これを見ると西武は1位指名での獲得は多いものの、トータルでは少なく、ロッテとオリックスの2球団はそもそも高校卒の投手が少ないという傾向がよく分かる結果となった。

高校卒の投手が1軍で最も戦力になっている球団は意外にも……

次に高校卒の投手がどれだけ1軍の戦力になっているかを見てみたい。今シーズン、各球団の高校卒の投手の成績をまとめてみると下記のようになった。
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巨人:1軍登板人数7人
115試合 19先発 7勝7敗18ホールド1セーブ 205回2/3 防御率4.20

DeNA:1軍登板人数7人
103試合 16先発 6勝12敗11ホールド0セーブ 158回 防御率5.58

阪神:1軍登板人数7人
162試合 20先発 17勝7敗34ホールド17セーブ 245回 防御率3.23

広島:1軍登板人数9人
150試合 22先発 11勝14敗15ホールド11セーブ 259回1/3 防御率4.75

中日:1軍登板人数7人
124試合 22先発 12勝12敗21ホールド13セーブ 215回2/3 防御率3.55

ヤクルト:1軍登板人数6人
160試合 23先発 13勝13敗36ホールド4セーブ 243回2/3 防御率4.99

西武:1軍登板人数5人
82試合 47先発 20勝18敗7ホールド1セーブ 307回 防御率4.63

ソフトバンク:1軍登板人数9人
149試合 53先発 23勝18敗27ホールド1セーブ 427回 防御率3.41

楽天:1軍登板人数7人
129試合 30先発 13勝18敗14ホールド38セーブ 277回1/3 防御率4.28

ロッテ:1軍登板人数6人
150試合 63先発 27勝21敗24ホールド2セーブ 453回1/3 防御率3.75

日本ハム:1軍登板人数8人
140試合 32先発 14勝18敗26ホールド6セーブ 229回 防御率4.79

オリックス:1軍登板人数5人
78試合 35先発 11勝10敗5ホールド0セーブ 271回2/3 防御率2.55
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意外なことに高校卒の投手の勝利数が最も多かったのは過去10年で最も獲得数の少ないロッテという結果になった。1軍で登板した人数は6人と少ないものの、種市篤暉、二木康太、岩下大輝の3人がローテーション投手に成長したことが非常に大きい。イニング数でもソフトバンクを上回っているのは見事である。ソフトバンクも多くの高校卒投手を獲得しているだけに勝利数、投球回ともにロッテに次ぐ2位となった。また西武も1軍登板人数こそ少ないものの、1位で獲得した高橋光成と今井達也がローテーション入りを果たしたことで勝利数を大きく稼ぐ結果となった。また西武は菊池雄星、日本ハムは大谷翔平がメジャーに移籍したことを考えると、この数字以上の価値があるといえる。勝利数、イニング数ともに最も少なかったのはDeNA。大学卒の即戦力投手を中心に投手陣を構成していることがよく分かる結果である。

結論:佐々木と奥川を託すなら……

以上のデータから考えると、佐々木と奥川に共通する要素を備えた球団としてはソフトバンク、西武、日本ハム、ロッテが有力であるといえるだろう。

そこからそれぞれの特性を考えてとなると、先発投手陣をゆっくり育成できる余裕があるのはソフトバンク、日本ハム、ロッテの3球団となる。ソフトバンクは豊富な戦力、日本ハムは有原航平、上沢直之の強力な二枚看板、ロッテは先述した若手の先発に加えて石川歩なども控えており、無理に佐々木を早く1軍に上げる必要は感じられない。

一方の奥川はやはり西武がマッチしそうだ。リリーフ陣の弱さは気になるものの、強力打線の援護があるのが何よりも強み。先発投手陣も十分に揃っているとは言えず、早くから抜擢の機会があるという点も奥川にとってプラスに働くことになるだろう。

こう見てみると、高校生の投手はパ・リーグの方が多く獲得してうまく戦力にしているということがよく分かる結果となった。田中将大、大谷、菊池雄星などスケールの大きい投手が輩出され、アメリカに渡っているのもこのような傾向から出てきたものである。佐々木、奥川もその流れに乗るのか、またはセ・リーグの球団が新しい時代に向けて大きく舵を切るのか。今年はその流れが見られるドラフトになるともいえるだろう。

<了>

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