メルセデス・ベンツ EQC 試乗レポート|電気自動車であってもしっかりメルセデス・ベンツの味

「やっぱりメルセデス!」と思わず膝を叩きたくなる走りが、しっかりとそこに実現されていた。ついに日本上陸を果たし、公道で試す機会を得たメルセデス・ベンツ初の電気自動車であるEQCは、まさにそう表現できる1台だった。

そう、電気自動車になってもやっぱりそこには、メルセデス・ベンツの味が具現化されていた、というわけだ。

筆者は既に今年の5月にノルウェーのオスロで開催された国際試乗会でこのEQCを走らせており、その走りをして「Sクラスに匹敵する」とも評している。なぜならばEQCは、車両重量が2495kgとほぼ2.5tのヘビー級なので、重さを活かした高級車と同じような極めて優れた乗り心地を実現している。加えて最高出力408ps、最大トルクは765Nmという特に目を見張るトルクがあるスペックによって、ボディの重さを感じさせない、静かで滑らかで力強い印象を存分に伝えてくる。それだけに、その乗り味走り味はまさに、Sクラスに近いものがある、といえるわけだ。

そしてこの印象は今回日本で試乗しても不変だったし、日本の道路で走らせたらその仕上がりの良さが以前よりもさらに極まっており、その完成度の高さをしてもまさに、常に抜かりのない「メルセデスらしさ」を感じたのだ。だから冒頭のように、「やっぱりメルセデス!」と思えたのだった。

メルセデス・ベンツ 新型EQC 試乗レポート メルセデス・ベンツ EQC 400 4MOTION

GLCと同じ工場で生産されるEQC

EQCは、先日フェリスリフト版が発表されたばかりの同社のミドルクラスSUVであるGLCとプラットフォームを共用しており、同じブレーメン工場で混流生産される。とはいえ実際の構造はかなり変わっており、床板には80kWhの容量を持つバッテリーが敷き詰められている。ただし面白いのはGLCと共用する部分が多いからか、GLCでトランスミッションが入る部分にはスペースフレーム的な構造体を置くなどしているし、搭載バッテリーも後席あたりでは2段積みとしてできる限りプラットフォームとしてのディメンジョンは同じにしているようだ。

ボディはどの部分が共通…というような話はないが、おそらく主要な骨格は元々のGLCをなぞる形で置かれるだろうし、ボディパネルもドアなどは同じように思える。ただしルーフラインは後ろに行くに従って下がっており、これは空力的な措置だろうルーフ後端もGLCより少し長いようだ。このためリアのクオーターウインドウあたりの造形はGLCとはわずかに異なるものとなっている。ただしリアのラゲッジはGLCと同じで、床板を上げたところに荷室を用意する点もGLC同等の作りとなっている

メルセデス・ベンツ 新型EQC 試乗レポート メルセデス・ベンツ EQC 400 4MOTION

一方でインテリアはほぼGLCと同じだが、ダッシュボードはそっくり置き換えられており、最近のメルセデスの他のモデルと同じように、大きな液晶パネルが2枚並ぶメーター周りとなっている。そしてその周りのエアコン吹き出し口辺りのデザインはこれまでにない新たな造形とされ、ところどころにローズゴールドのアクセントが散りばめられている。それはエアコンの吹き出し口のフィンや、ステッチ、ドアトリムやダッシュボードのステッチなどに適用されている。その他シートなどはGLCと同じで、このあたりは一定の割り切りを感じる。

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Sクラスに匹敵する乗り心地の良さ

ただ同時に感じるのは、この内外装を見ているとEQCが、これまでの内燃機関モデルから乗り換えても全く意識することなく使えるクルマになっていること。電気自動車としては新鮮味に欠けるとも思えるが、乗り換え等を考えた際にはなるべく違いを出さないような工夫ともいえるわけだ。もっとも個人的な意見としては、成り立ちもオリジナルでデザインもさらにブッ飛んでいた方が良いとは思ったが。

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そしてこの内燃機関から乗り換えても意識することなく…という感覚は走りにもそのまま反映されている。操作系もほぼGLCのままで、違いといえばハンドルに備わるパドルを操作すると、ブレーキ回生量が変わることくらい。Dレンジで左パドルを引くとD-と表示され、ブレーキ回生量がやや強くなる。さらにもう一度左パドルを引くと、D--という表示になり、ブレーキ回生量はさらに強くなる。この強さは日産 リーフにおけるe-Pedalと同じくらいの減速度なので、アクセルからブレーキを離すだけでほぼ停止まで行けるレベルだ。が、日産 リーフのように完全停止はせず、完全停止するにはドライバーがブレーキを踏む必要がある。このロジックはメルセデス・ベンツとしての見解だという。筆者は日産 リーフのようにそのまま完全停止した方が便利だと思うのだが。

それはさておき右のパドルを引くと今度はD+と表示され、アクセルから足を離すと通常のDよりも抵抗感なく進む。つまりこれはコースティングモードで、高速等で無駄な電気を使わずに惰性で走れるモードといえる。

そうした違いがあるほかは、通常のクルマとほぼ同じ感覚なのだが、EQCは0-100km/h加速タイムが5秒と圧倒的な加速力を持っているため、ひと度アクセルを踏み込むと実に爽快な加速が生まれる。もちろんこの辺りもその走りがSクラスに近い感覚を持つ理由の一つで、ヘビー級のクルマなのに軽々と動く余裕が似ていると思えるわけだ。

そして乗り心地の良さを先に記したが、驚きなのはSクラスに匹敵する乗り心地の良さを実現しているのに、サスペンションはフロントはメカサス、リアがエアサスという組み合わせだということ。乗った感覚で言えば、間違いなくエアサスと判断できるだけの乗り心地の良さを持つわけだが、実はフロントはメカニカルなサスでこの味を出しているのだから恐れ入る。

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EVを意識せずに使える完成度の高さ

電気自動車といえば気になるのが航続距離だが、EQCはWLTPモードで約400kmと公表している。通常は表示の七掛けくらいが実際に安心して走れる距離だから、300kmを切るくらいは走るだろう。80kWhという容量からすると航続距離は少なめな感は否めないが、それを引き換えに優れた動力性能と乗り心地の良さなど、メルセデスらしい味わいをしっかりと表現できたのだともいえる。また充電に関しては、急速充電はChaDemoに対応し、当然家庭用の200Vにも対応するが、テスラのような専用のスーパーチャージャー等は用意されない。そうしたことや先の航続距離から考えると、使い方としても近場を中心に足として使う、いわゆるこれまでのメルセデス・ユーザーにおける2台目や3台目としての使い方を想定したものとも考えられる。そしてそう考えるとますます、見た目や操作性や使い勝手含めて、これまでのクルマから変わっても意識せずに使えるクルマであることに納得する。

メルセデス・ベンツ EQC

そしてメルセデスではこのEQCを購入するユーザーに対して、電気自動車を購入することに関する不安を取り除くようなプランを用意している辺りはさすがだ。バッテリーは8年もしくは16万キロという十分な保証をしているし、リセール価格を保証したクローズドエンド型リースを用意するなどして、販売に関してもメルセデスらしい安心感の高さをウリにした形だ。もっともその分、車両価格は1080万円と決して安いものではないし、今年販売される分の1886エディションはさらに高額なモデルとなるわけだが。

成り立ちのオリジナリティではテスラ モデルXやジャガー I-PACEに譲るが、快適性や品質感を含めた完成度の高さはライバルを大きく凌ぐものがある。だから決して冒険はしていない、ある意味保守的な電気自動車ともいえるが、その分商品に対する信頼感はかなり高い1台といえるだろう。

そして筆者が個人的に感じていることは、このEQCはあくまで現状のEVマーケットの様子見や、EVを意識せずに使えることに重きを置いた一つの答えであり、この先にはもっと冒険した革新的な存在が控えているのではないかと思えるのだ。また同時に、既にこの段階でこの内容なのだから、次のEQSなどは相当に眼を見張るものなのだろうと容易に予測できるのである。

[筆者:河口 まなぶ 撮影:佐藤 正巳]

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