喜怒哀楽を共に

 1文字で表すならば「哀」しか思い浮かばない。東日本を縦断した台風19号で命を失った方、行方不明の方の数は刻々と、その報道に触れるたびに増えていく▲茶色い水が町を覆うさまに胸を刺される。7県で、実に50を超える河川の堤防が決壊し、土砂が崩れた。奪われた暮らしが、たやすく元に戻るはずもない。長らく続く「哀」だろう▲言うまでもなく、14日の小紙は豪雨被害を1面トップで報じたが、横には「日本 初の8強」の大見出しが並んだ。ラグビーのワールドカップで日本が躍進した大一番は「喜」の1文字に尽きる▲列島を覆う「哀」と「喜」と、異なる事柄が一つの紙面で隣り合い、どちらも数ページにわたって関連の記事が続く。新聞を作る側の一人ではあるが、何とも言えない複雑な思いで紙面を繰った▲「哀」と「喜」をつなぐ記事もある。ラグビーの日本選手はこれから「国民の皆さま全員と頑張る」と試合後に誓った。「全員と」。被災した人々とともに、と思いを致す言葉だろう▲新聞週間が始まった。これにちなんで記者たちが「悩む・学ぶ・書く」と題する連載で思いを書いている。読む方々が求める情報を届けられているか。「喜怒哀楽」を共にしているか。作る側の私たちが立ち止まり、悩み、あらためて胸に問う頃でもある。(徹)

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