「線は引けない」 京大初、24時間介助の女子大生が願うこと 公的介助と教育 

この日は公的介助のヘルパーとキャンパスで過ごす油田さん(京都市左京区・京都大)

 重度の身体障害があり、常時介護が必要だが家族介護に頼らず、1人暮らししながら学ぶ学生が京都大にいる。4年の油田優衣さん(22)=京都市左京区=は脊髄性筋萎縮症(SMA)で、子どもの頃から車いすで過ごしてきた。進行性難病のため筆記具を握るのも、キーボード入力もつらい。京大の障害学生支援ルームによると、自立生活する24時間介護が必要な学生は京大初という。

 重度障害がある参院議員の登場で就労時と公的介助の線引きが議論になっている「重度訪問介護」のヘルパーなどの介助を、油田さんは24時間使って暮らす。大学で講義を受けている時も、有償の学生サポーターが付き添う。試験はタブレット端末に指で触れる「フリック入力」で解答することが認められている。

 福岡県で育ち、夜間は6歳から人工呼吸器を使う。特別支援学校中学部に在学していた時に、油田さんは障害者の当事者運動団体・自立生活センター「ぶるーむ」に出合った。普通高校に行きたい。幼い頃から放課後に友達と遊ぶ弟の姿がうらやましかった。弟は障害がなく普通学校に通っていた。油田さんがどこを受験しようかと高校を回ると、「前例がない」と、何度も心ないことを言われた。

 教育と公的介助の「壁」

 高校に入学すると、ヘルパーが常時必要なのに、県教育委員会は「学校内では公的介助は使えない」の一点張りだった。「友達は親が付き添ったりしない。なぜ、わたしにはみんなと同じように高校生活を送る権利がないのだろう」。制度や行政は高い壁に見えた。

トイレ介助もない高校生活。油田さんは自費でヘルパーを雇ったが、週3回、2時間目と5時間目などと時間を定めた短時間の「スポット介助」。自治体に手紙を出し県教委とも粘り強く交渉し、介助のための事務員が配置されることになった。障害福祉の公的ヘルパーも、校内で使えるようになった。

 「声は届く。声を出し足を運べば、制度はこんなに変わるんだなって」。高校1年の油田さんの心に、この出来事は深く刻まれた。

 高校生の時、重度障害があるが1人暮らしに挑む大学生と出会った。1人暮らしと大学生活への夢は広がった。京大の入学試験の論述問題では、キーボード使用が認められた。

 きれいな線は引けない 私生活と介助の間で

 「休講の時には行政のヘルパーが急に必要になるが、使えないとキャンパスの外にも出られない。大学生活は私生活と学業の間に、きれいな線は引けません。京大の障害学生支援は先進的。他の学生たちが当たり前にしていることができるよう、サポートしてくれる」

 京都大の障害学生支援ルームは、障害学生の受講をはじめとする大学生活を支える「学生サポーター」制度を2008年に設けた。ボランティアではなく、時給1200円で、登録者は約80人。学生サポーターの有償化はまだ、全国の大学に広がっていない。

 京大の支援ルームは、テストや実験、フィールドワークなどをどうするかといった教員側の戸惑いと、ノートテイクなど障害のある学生の個別ニーズとの調整役にもなる。行政とのコーディネートも担う。同支援ルームは「大学は自由がいいところで、高校のような担任もいない。行政がヘルパーを派遣して支える地域生活と一緒にサポートしていきたい」と話す。

 油田優衣さんは学生サポーターから本をめくってもらったり、参考書籍の電子化をしてもらったりするなどの支援を受ける。キーボード入力が病の進行でつらくなり、定期テストではタブレット端末を使う。

 移動支援や重度訪問介護といった京都市からの公的介護を大学生活でも使っており「大学がカバーできない部分と連携が取れているのはありがたい。他大学や就労などさまざまな場面で、制度を柔軟に運用してほしい」と油田さんは訴える。

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