消費意欲低下は「ものづまり」が原因? 回避策は‟手放す前提”の買い方

生活者の新しい消費観・消費行動を解説する連載の第2回は、博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)のロングデータを取り上げます。生活総研は1993年から、「ものを買いたい・サービスを利用したい」という気持ちが最高に高まった状態を100点とした場合、あなたの来月の消費意欲は何点くらいですか」という聞き方で、生活者の来月の消費意欲を聴取しています。調査結果をみると、調査開始当時は60点以上あった消費意欲は、最新の2018年では40点台にまで低下しており、現在も低下傾向が続いています。

総務省「家計調査」をみても、世帯給与月収が伸び悩んでいます。「お金がないから買えない」という側面はもちろんあるでしょうが、生活者の消費意欲が低下している背景には、別の理由もみえてきました。


消費意欲指数 12カ月移動平均(毎年12月)

※各年12月の季節調整値(12か月移動平均値) / 2010年までのデータは調査設計が異なるため参考値/グラフが欠けている部分は調査非実施

生活総研が今年5月に実施した「消費1万人調査」において、平成に登場した商品・サービス・政策・流行などを生活者に提示し、「自身の買い物や消費、お金のやりくりに対する考え方・行動に大きな影響を与えたと思う」ものを回答してもらったところ、全体の第5位に「断捨離」が上がりました(結果の詳細は連載第1回を参照)。

しかし、生活者が実際にどんどんものを捨てているのかというと、そうではないようです。別の質問で「自宅内に『ものが多すぎる』『ものがあふれている』と感じる」と回答した人は全体の69.6%、「まだ使えるものを自分で捨てることに抵抗がある」という人も70.5%と多く、どちらも女性と中高齢層の割合が高くなっています。

「ものが多すぎるけれど捨てられない」、そんな「ものづまり」のストレスが多くの生活者の間で起こっているようです。

なお、自由回答では「ものが多すぎて、新しいものを買いたいという気にならない」という声も聞かれました。実際、「家にものが溢れていると、新たなものを買うのをためらうほうだ」という人も68.3%にのぼります。ものが増える一方で出ていかないものづまりが、消費の流れを滞らせている可能性がうかがえる結果です。

手放す前提でものを買う

こうした「ものづまり」の状況をうまく回避するために、買い物の仕方を工夫している人がいます。ここでは、実際に生活者の自宅を訪れてのデプスインタビューから得られた発見をご紹介します。

都内在住の30代女性は、クローゼットに入る分しかものを買わず、買う時にも「ひとつ手放してからひとつ買う」ことを徹底しているといいます。手放しながら購入するので「ものづまり」が発生せず、お宅のクローゼットはとてもすっきりしていました。

また、この方は倹約家で贅沢はしない一方、コートやバッグ、靴などの長く使えるものはあえてハイブランドを買い、中古ショップやフリマアプリで高く売るようにしています。使っている際も、より高く売れるように綺麗に使ったり、買った時の袋や箱、ギャランティカードまできちんと保管しているそうです。

「ものづまりが起きないよう、はじめからいつか手放す前提でものを買う」という新しい消費行動が生まれつつあるといえるでしょう。

ものを手放すと、新しいものを買いたくなる

また、ものづまりの解消によって消費意欲が高まる経験をしている人もいます。

洋服が大好きな都内在住の40代女性は、すぐにクローゼットがいっぱいになってしまうので、その度に着なくなったものをまとめてリサイクルショップに引き取ってもらっています。そうしてクローゼットが空いた時の気持ちを聞くと、「もったいない買い物をしたな」という気持ち以上に「これでまた新しいものが買える!」という喜びが強く、ついついまた買ってしまう…ということを繰り返しているそうです。

消費の出口が詰まっている現状、生活者の消費意欲を喚起するには、入り口から「買ってください」と訴えるだけではなく、買ったものが不要になった時に簡単に手放せるシステムを予めサービスに組み込んでおくことも必要なのかもしれません。

※図の出典:博報堂生活総合研究所「消費1万人調査」

【調査概要】
・消費意欲指数
調査地域:首都40km圏・名古屋40km圏・阪神30km圏
調査手法:インターネット調査
調査対象:20~69歳の男女1,500人(各地域ごとに、人口構成比にあわせて割付)
調査期間:1993年から毎月実施
・消費1万人調査
調査地域:全国
調査手法:インターネット調査
調査対象:15~69歳の男女10,000人(国勢調査に基づき性年代・エリアの人口構成比で割付)
調査期間:2019年5月28日~6月1日
・消費エクストリーマー調査
調査地域:首都圏
調査手法:家庭訪問および会議室でのデプスインタビュー
調査対象:20~40代の男女(フリマアプリ・サブスクリプションを積極的に利用している方、
スマホゲームや趣味に積極的にお金を使っている方、家計簿に力を入れている方など) 10人
※機縁法およびweb・SNSを通じてリクルーティング
調査期間:2019年4月8日~6月14日

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