【ラグビーW杯】 強い日本、なにが彼らを変えたのか?

©BBCグローバルニュースジャパン株式会社

ラグビー日本代表は世界の大舞台で張り合う実力をもったチームだと、日本の人々やメディアが気づき始めている――。日本のラグビーを取材してきたライターのオリヴァー・トレンチャード氏はそう指摘し、日本の強さは突然生まれたものではないと説明する。


オリヴァー・トレンチャード、ラグビー・ライター

「これはもう奇跡ではない」

ラグビーワールドカップ(W杯)での日本代表の活躍に、新聞各紙ではこんな見出しが躍っている。ブレイヴ・ブラッサムズ(日本代表)は13日、スコットランドを破り、初の決勝トーナメント進出を果たした。

自分たちの代表チームは世界最大の舞台で張り合える実力のチームになったのだと、日本人や日本のメディアが気づき始めている。

しかしこれは、一朝一夕で実現したことではない。

恐ろしいまでの加速力と俊敏性をもつウイングの松島幸太朗と福岡堅樹や、雄々しいリーダーシップでチームを引っ張る主将リーチ マイケルが称賛に値するのはその通りだ。

だが、このチームの底力は、目立つ選手たちに限られたものではない。

背番号1番から15番までの全員、それにベンチで控える選手たち全員の能力が高いのだ。

フォワード陣は、敵のバックス並みのボールさばきを見せる。そのことは、スコットランド戦でフッカーの堀江翔太が見せたオフロードパスでも明らかだ。

彼らは、自分たちのフィットネスが長所だと承知している。だからボールを素早くどんどん回してできるだけ相手チームとの接触から遠ざけ、1つのプレー時間を長引かせ、試合を有利に進める。

日本がこれほどまでに強くなった背景は何なのか。

サンウルブズ効果

まず大きいのは、スーパーラグビー(15チームで争う国際リーグ戦)に2015年から、日本のサンウルブズが参加するようになったことだ。

これによって日本の選手たちは、国内リーグでは体験できない、南半球のレベルの高いチームのプレーを体で学ぶことになった。日本がW杯で見せる突破力のある攻撃や器用なボールさばきが、スーパーラグビーで培われたものであることは間違いない。

サンウルブズは2021年以降、スーパーラグビーでプレーしないことになったが、今回のW杯では重要な役割を果たした。

ジェイミー・ジョセフ監督とトウニー・ブラウン・コーチが、サンウルブズと日本代表の両チームで同じ役割を務めてきたこともプラスにはたらいた。

サンウルブズの出場選手を選ぶとき、同時に日本代表のチームづくりを勘案することさえできた。そのため、代表選手に大きな負担をかけないようにしながら、厳しい合宿の特訓で鍛えることができた。長期合宿でセットプレーやバックスの動きは完成され、日本代表は今回のW杯で最もコンディションの良いチームのひとつになった(ジョセフ氏は今年から代表監督に専念)。

外国人指導者

サンウルブズ以外にも、外国人指導者の効果が見てとれる。

国内トップリーグのパナソニック・ワイルドナイツでは、スーパーラグビーで大活躍したロビー・ディーンズが2014年に監督に就任。福岡や堀江、プロップの稲垣啓太らの能力を伸ばしている。

トヨタ自動車ヴェルブリッツでは2017年から、W杯優勝監督の経歴をもつジェイク・ホワイトが監督となり、今大会注目のフォワード姫野和樹を成長させてきた。

大学を出てチームに加わった直後にキャプテンに選ばれた姫野は、「成長する大きなチャンスだ」と受け止めたものの、当初は主将の責任に苦しんだ。しかし、近所のカフェで夜遅くまでリーダーシップやチーム作りについて本を読み込み、トップリーグでのデビュー戦から2カ月もたたないうちに、日本代表に選ばれた。

それからというもの、姫野は勇猛なキャリーやしぶといブレークダウンでの貢献によって、彗星のように活躍を続け、ジョセフ・ジャパンの先発陣としての地位を不動のものにしている。

一流のスクラム

日本の攻撃力については、ジョセフ監督やブラウン・コーチがマスコミに大きくたたえられるだろうが、両氏の采配のもとで最も成長著しいのがスクラムの強さだ。

功績はスクラムコーチの長谷川慎にある。13日には迫力あるスーツ姿で日本ベンチの端にいた彼だ。

1999年のW杯で日本代表としてジョセフと共に戦った長谷川は、自分たちのスクラムが簡単に押し負けてしまうのを実感した。

指導者としてヤマハ発動機ジュビロを強豪チームに成長させた後、2016年にジョセフに呼ばれて日本代表コーチになると、長谷川はスクラムの改善に取り組んだ。

長谷川は体格に劣ることが多い日本のスクラムを、「重いパンチ」ではなく「速いパンチ」を放つことで相手に勝つスタイルへと変えていった。

その効果は、2017年6月のアイルランド戦2試合で表れた。1試合目では押し負けたが、2試合目ではフッカーの角度を微妙に変更。すると、互角に押し合うことができた。

日本のフォワード陣はこの時、長谷川コーチのおかげで自分たちのスクラムが変わったことに気づいたのだった。

南アにやり返せるか

日本と20日に準々決勝で対戦する南アフリカのファンにとって、「ブライトンの奇跡」と呼ばれる前大会の敗北はつらい思い出だ。それだけに、奇跡は繰り返されないのだと、日本に思い知らせたいはずだ。

だが日本は今大会、すでにアイルランドとスコットランドを破っている。さらにもうひとつの強豪国、南アフリカをも倒そうとしてくるはずだ。

ただ、今度の対決から数えて44日前にあった両チームの対戦は、南アフリカが41-7の大差で日本を下している。

点数だけみると一方的な試合だったのかと思えるが、両チームの試合データを比較すると実際には、日本は獲得したテリトリーとラックで南アフリカを2倍上回っていたこと。さらに、クリーンブレイクからオフロードに至るまで、ほぼすべての指標で日本が上だった。南アフリカが唯一上回ったのが得点だった。

1次リーグで自信をつけた日本は、敗戦をふまえて修正してくるのは間違いない。ライン攻撃のスピードは完成の域に達している。センターの中村亮土、ラファエレ ティモシーのボール扱いが、松島と福岡の攻撃のカギを握っている。

大注目のラグビー

日本ではこれまでにないレベルの関心がラグビーに向けられている。

意気盛んな新聞各社は、赤と白のジャージー姿の選手たちの写真をでかでかと掲載した。テレビは53.7%という今年最高の瞬間最高視聴率を記録している(13日のスコットランド戦)。

視聴率は試合ごとに上がっている。初戦のロシアとの試合と比べると、スコットランド戦は2倍以上にふくらんでいる。

ラグビーは間違いなく、日本の人たちの心をつかんだ。

大規模なスポーツ大会では「レガシー」という言葉がほめ言葉として乱用されがちだ。しかし、今の状況は日本ラグビーにとって未知の世界だ。

ラグビーを、4年おきに6週間だけ熱狂するスポーツではなく、息の長い人気スポーツにしていくこと。それが、日本ラグビー界の仕事だ。

(英語記事 How hosts Japan became a rugby force