国鉄急行形電車の余韻を求めて

2019年3月に登場した700形の第1編成

 【汐留鉄道倶楽部】先日、国鉄急行形電車が無性に懐かしくなった。きっかけは、JR西日本が2019年9月に発表した「石川県の七尾線に新型車両を導入する」というリリースだ。新車両の登場は既存車両の引退と表裏一体にあることが多く、その法則は七尾線にも当てはまっていた。

 計画によると、新型の521系は20年秋から順次投入され、21年春には現在活躍中の近郊形電車413系と415系を全て置き換える。いつか来ると思っていたが、ついにこの日がやって来た。

 413系と415系はどちらも国鉄サウンドを楽しめる貴重な存在だ。その上、七尾線の413系の編成には、全国で最後の国鉄急行形電車となったクハ455という“レアキャラ”が組み込まれている。それが早ければ1年後、遅くともあと1年半で第一線から消える。七尾線のクハ455には少しでも長く活躍してほしいと願っていただけに、今回のリリースを信じたくない気持ちがある。

 そんな残念なお知らせの半年前、国鉄急行形電車に絡む朗報があった。17年にJR東日本を引退した通勤形電車107系が永い眠りから覚めて、群馬県の上信電鉄で新型車両の700形として堂々のデビューを果たした。

 107系は、かつて「東海」や「佐渡」、「アルプス」などの急行をはじめ、関西の新快速や大垣夜行にも活躍した国鉄急行形電車165系の機器を再利用して製造された。つまり、国鉄急行形電車の生まれ変わりといえる。

(上)車体に沿線の特産品や名所がデザインされた第2編成、(下)沿線にある群馬サファリパークの広告が描かれて、2019年9月に運行を開始したばかりの第3編成

 地方私鉄が購入する中古車もステンレス車両が多くなってきたご時世に、107系の再デビューは奇跡に近い。上信電鉄ではワンマン運転のための運賃箱や整理券発券機、案内モニターを設置し、塗装をはがしてサビだらけの車体をきれいにした上で再塗装するなど、さまざまな工事を行った。長い準備期間に情熱を感じた。その様子は民放のバラエティー番組でも紹介されたので、ご覧になった方もいると思う。

 上信電鉄は高崎から世界遺産の富岡製糸場で知られる富岡を経由し、コンニャクやネギで有名な下仁田までを約1時間で結ぶ。107系改め700形の乗り心地と走行音をたっぷり楽しめるからうれしい。

 筆者が最後に165系に乗ったのは約20年前だが、700形が滑り出した瞬間、遠い記憶がよみがえり、国鉄サウンドに心が躍った。モーター音はもちろん、車輪がレールのつなぎ目を通る「ガタンゴトン」という音の響き方、車体がきしむ音。どれもこれも懐かしい。

 よくぞ事実上の動態保存を決断してくれたものだ。上信電鉄に感謝して記念グッズを買い、プライスレスな小旅行を終えた。

 ☆寺尾敦史(てらお・あつし)共同通信社映像音声部

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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