脱プラスチック、日本の取り組みと私たちの日々の暮らしのなかでできること

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10月8日、JR東日本の発表が注目を集めました。それはプラスチックの削減に向けた取り組み。2020年3月末までにプラスチックストローを紙あるいは生分解性素材へ、2020年9月末までにプラスチックレジ袋をバイオマス素材への置き換える、というもの。この発表に先んじて、8月1日、日本ネスレはキットカットの外装をプラスチック製から紙製に切り替えると発表。これら国内企業の動きの背後にあるのは、使い捨てプラスチックによる海洋汚染の問題です。いま、世界的に脱プラスチックへの動きが加速しているのです。日本でも本格的に始まった、脱プラスチックの動きについて専門家の意見とともに、私たちが日々の暮らしのなかでできることについて考えてみました。

日本政府が考える「プラスチック資源循環戦略」とは?

いま、ヨーロッパでは使い捨てプラスチック製品の流通禁止に向けた法制化が進んでいるといいます。日本でも、2019年5月31日、環境省や経済産業省など関係省庁の連名「プラスチック資源循環戦略」が策定されました。

具体的には、リデュースは2030年までに累積25%の排出抑制、リユース・リサイクルは2030年までに容器包装の6割を目標に、さらに2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用するとしています。

海洋プラスチックごみ汚染ゼロを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」

さらに、2019年6月に開催されたG20大阪サミットにおいて、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す、「大阪プルー・オーシャン・ビジョン」が共有されました。このような日本の働きかけについて、ニッセイ基礎研究所レポート「日本が直面する、脱プラスチック問題」(基礎研REPORT 5月号)の執筆者である、ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員の中村洋介さんは次のように話します。

「脱プラスチックに向けた国際議論に関しては、欧州が先行していて、日本はやや出遅れ感があります。ただ、各国の脱プラスチックに対するスタンスが異なる難しい状況の中で、自国開催のG20でリーダーシップを発揮して、海洋プラごみ削減に向けた合意を得たことは一定程度、評価できます。一方、『2050年まで』という目標設定では遅い、拘束力がない等、踏み込み不足も一部で指摘されています。また、プラスチック製品やマイクロプラスチックによる海洋汚染の実態や生態系・人体への影響等については未解明な部分が多いこと、必ずしも積極的ではない一部の国も巻き込んだ形で合意を目指したこと等が背景にあって、2050年に設定したのではないかと推測されます。今後、G20議長国として合意を主導した日本が旗振り役となって、日本の技術を活用した新興国・途上国の対策支援、国内対策の推進等を通じて、より実効性のある取り組みにつなげていくことに期待したいですね」

プラスチック製品による恩恵と、使い捨て文化の蔓延

プラスチック製品の登場により、我々の生活がより快適で豊かになったことは、誰もが実感していることだと思います。缶入りや瓶入りで重い・かさばる・運びにくい、といった液体容器の難点を一気に解決してくれたのは、ペットボトルやプラスチック容器のおかげです。食品ラップやビニール袋のおかげで、手軽に、衛生的に食品を保存・輸送できるようにもなりました。クリアファイルやマーカーペン、マジックなどの文房具、家電や家具など、さまざまな形状に加工しやすいプラスチックは幅広く使われています。

洗剤やボディソープ、コスメなど我々の日常にはプラスチック容器が溢れています

「プラスチック製容器・包装は、食品の安全や衛生、鮮度や栄養価の保持、かさばる食品の効率的な輸送等に役立っています。また、総菜の容器やレトルト包装等によって、家庭における調理の負荷軽減にもつながっています。食の安全、フードロス削減、共働き世帯や高齢者世帯の増加等、社会課題の解決やライフスタイルの変化などへの対応に、プラスチック製品が大いに貢献してきたことは間違いありません」(中村さん)

一方で、安くて手軽に使えるプラスチック製品が増えたせいで、モノを使い捨てにすることが当たり前になってしまいました。その結果、汚れたものを洗って再利用するという習慣は薄れつつあります。個包装された商品をまとめてさらにラッピングする、といった過剰包装も20年以上前から指摘されてきましたが、一向に改まる気配はありません。このような使い捨て文化の蔓延や過剰包装が、プラスチックごみ増加の大きな要因となっているのです。

「賢い」プラスチックの使い方でプラごみは減らせる

このように、プラスチック製品の恩恵と弊害を考えると、私たちは、これまでの生活スタイルを見直す必要がありそうです。例えば、使い捨て容器や包装の利用を減らす、できるだけ長くプラスチック製品を使う、あるいは長く使える製品を選ぶようにする。さらに、過剰包装された商品を買わない、過剰包装は断る。このように、便利さや快適さを優先するのではなく、無駄なプラスチック利用を避け、賢くプラスチックを活用することで日々のプラごみを減らしていくことが求められているのです。

日本はこれまで年間約150万トンの廃プラスチックを資源として輸出していました

国際的なルール作りに積極的に参加して不利な規制を回避すべし

また、脱プラスチック問題は、環境問題とは別の「国際競争」という側面があることを認識しておく必要もあります。環境問題に限らず日本は世界的な潮流において後手に回ることが多く、これまでもCO2削減や捕鯨問題など不利な立場に甘んじることが多々ありました。今後、国際競争に負けないためには、どうすればよいのでしょうか。

国際会議では協調も必要ですが自国の利益を主張することも大切

「いま、脱プラスチック問題に限らず、個人情報等データの取り扱いに関する問題や、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの総称)等デジタル・プラットフォーマーへの規制問題等、新たな課題に対するルールや規制を巡る『国際的な競争と駆け引き』が過熱しています。特にヨーロッパ諸国には、国際社会での議論をリードし、ルールや規制を通して競争力を高めたいという意図があるように見えます。脱プラスチック問題についても、地球環境の保護という課題を解決するという理念、目標は多くの賛同を得るところですが、その解決に向けたルールや規制内容によっては、競争環境が大きく変化し、日本や日本企業にとって過度に不利になってしまう可能性もあります。だからこそ、日本は海外で先行する議論や規制・ルールを後追いするのではなく、国際的な議論に積極的に関与していく必要があるのです」(中村さん)

世界から、日本はプラスチックを無駄遣いしていると非難されないようプラごみ削減に積極的に取り組むこと。そして、国際的な議論にも積極的に参加してルールを作る側に回ること。国際競争に打ち勝つには、日本もしたたかな戦略を持つ必要がありそうです。

(取材協力)
中村洋介さん
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員・経済研究部 兼任
2003年日本生命保険相互会社入社。株式投資、ベンチャー・キャピタリスト業務等に従事。2017年からニッセイ基礎研究所で、日本経済やベンチャーについて研究を重ねている。