【台風19号】川崎の町工場、被害深刻 高額な機器水没

精密機械の開発を行う会社で工場内のごみを運び出す作業員。工場フロアは約90センチの高さに設けられているものの浸水被害を免れなかった=川崎市高津区

 台風19号で広範囲が浸水した川崎市高津区と中原区では、多摩川沿いの準工業地域に集積する町工場も深刻な被害を受けた。高額な機器が水没して故障したケースも多く、「損害は何千万円単位かもしれない」と肩を落とす経営者も。大半が立場の弱い中小の下請け会社で、発注先から関係を切られないよう、外注先を懸命に探しつつ復旧作業を進める人もいた。

 「水かさがぐんぐん上がり、徐々に濁流になった。対策の取りようがなく、漏電の危険を防ぐためブレーカーを落とすぐらいしかできなかった」

 高津区下野毛の日公精機製作所3代目の高橋和久社長(45)は台風襲来当日、工場兼自宅から見た光景をこう振り返った。1階の90平方メートルの工場は1メートルほど浸水。シャッターを閉め、布を詰めて目張りもしたが、容赦なく水が流入してきたという。

 機械も壊れ営業再開のめどは立っていないといい、「こんなことは過去に一度もなかった。行政がどこまで支援してくれるのか」とため息をついた。

 被害地域は川崎市内のものづくり産業の拠点の一つで、約400社が点在する。工業組合や工業協会など3団体があり、各団体とも加盟社のうち少なくとも15~20社が被害に遭った。

 川崎中原工場協会(加盟社280社)の中川哲也事務局長によると、製作機器のモーター部分は低位置にある場合が多く、心臓部が水没しているケースがほとんど。50台の機器が駄目になった事例や、億単位の機械が使い物にならなくなった話も聞いているという。

 中原区宮内の自動車部品製作会社では、男性社長(53)と従業員ら4人が金属部品の泥を一つ一つ洗い、さび止めの作業を急いでいた。当初は17日に納品予定だった部品で、発注元には来週中に先延ばししてもらったが、運搬用のトラックも水没してしまった。

 鉄を裁断する機械やコンピューターの基板も水に漬かり、社長は「機械はもう全部使い物にならない」と嘆く。被害は数千万円に上る可能性もあり、社長の姉(56)は「親の代からここで経営を始めた。リーマンショックにも耐え、ここまで来たのに」。今後の経営に不安を隠さない。

 42年続く町工場の男性社長(60)は「ごみ処理が一番困っている」と打ち明ける。工場のごみは産業廃棄物扱いとなり、災害ごみとして無料回収されないためだ。「武蔵小杉の被害はよく報じられるが、こちらの窮状もしっかり伝えてほしい」と求めた。

 市は、市内の中小企業向けに特別経営相談窓口を設置、災害対策資金など低金利の融資制度を案内している。市金融課によると、国によるセーフティーネット保証制度で当該地域が指定されれば、さらに優遇措置が得られるという。同課は「被害の状況が分かる写真などを残し、まずは罹災(りさい)証明をとってほしい」と呼び掛けている。

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