海外大学進学に関心のある家庭が増加、IBプログラムは日本でも躍進する?

中学受験に関する数字を森上教育研究所の高橋真実さん(タカさん)と森上展安さん(モリさん)に解説いただく本連載。

中学校の受験校を考える際、学校側がどの程度「グローバル教育」を掲げているかどうかを判断基準にするご家庭もあるかと思います。しかし、ひと口にグローバル教育と言っても、そのアプローチは実に様々です。今回は、その切り口の一つとなるべく数字を取り上げます。

今回の中学受験に関する数字…46校


全国の国際バカロレア(IB)のDP認定校は46校

<タカの目>(高橋真実)

中学受験の学校選択において、グローバル教育は今や外せないポイントではないでしょうか。今回の数字は、そんなグローバル教育の潮流を読み解く数字の1つです。

46校。これは、全国の国際バカロレア(IB)のDP (Diploma Programme:ディプロマ・プログラム)認定校の数です。

IBは、2019年7月現在、世界153以上の国・地域、5,311校において実施、7万人以上が学ぶ、国際的な教育プログラムです。IBでは、年齢に応じて①PYP:3~12歳対象②MYP:11~16歳対象③DP:16~19歳対象④CP(キャリア関連プログラム):16~19歳対象の4つのプログラムがあります。このうちDPでは、所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると国際的に通用する大学入学資格(IB資格)取得につながります。

現在、全世界1,800以上の大学がこのIB資格を入学審査に活用。国内でも61大学でIBを活用した入試を導入しています。

IBでは次のような、目指す"学習者像"が示されています。

①探究する人②知識のある人③考える人④コミュニケーションができる人⑤信念をもつ人⑥心を開く人⑦思いやりのある人⑧挑戦する人⑨バランスのとれた人⑩振り返りができる人

カリキュラムを英語で学ぶ(現在は一部の教科が日本語でも学ぶことができます)ということだけでなく、このようなグローバル社会を生きて行くにふさわしい人材を育成するプログラムとして、昨今IBは注目度が高まっています。DP認定校の1つでは、数回の学校説明会が全て満席になるほど大盛況だそうです。

東京学芸大国際は28名の生徒が海外大学へ合格

認定校が徐々に増えていることもありますが、注目されるようになった背景として、グローバル教育に対するニーズの高まりとともに、海外大学への進学への関心が高まっていることもあります。

代表的なIB校の1つである東京学芸大学国際中等教育学校では今春、米国イェール大学を始めとして28名の海外大学合格者を出しました(卒業生131名)。

IBの学びとはいったいどのようなものなのでしょうか。そしてそれを学ぶ意義とは何でしょうか。

ここ数年でIBの認知度が飛躍的に高まった

<モリの目>(森上展安)

タカの目さんの今回の数字は46。国内にあるIB認定校の数とのこと。中学受験保護者にとっても教育関係者にとっても、この数年で一気にIB校の認知は高まりました。

IBとはインターナショナルバカロレアの頭文字をあらわしています。IBO(IB機構)が束ねるインターナショナルスクール規格です。基本は各国政府と、認定会員校との出資金で成り立っています。日本政府も毎年支出してこの機構を支えています。

IB認定された学校は、英米のお国柄ですからアソシエーション(協会)をつくって自主管理をするわけで、このアソリューションにあたるのがIBOです。自主管理と書きましたが会員校相互に担当者を決めてIBOが数年に1回、授業などをチェックにいきます。

もともと他の会員校の先生方ですから相互管理といった方が良いかもしれませんが、そうして教育の質を維持しているわけです。IBの最後の2年(日本の高2、高3)にあたるコースがDPといわれ、このDP修了の際のテストは各校ではなく、IBOが指定した試験会場で数日かけて行われ一人一人のスコアが決まります。このスコアを各人が持って志望先の大学に願書を出します。IBDPのワンランク上のハイアーをとると、いきなり大学3年に編入できたりしますし、そうでなくともIBの相応のスコア保持者は大学から優秀な学生と目されますし、世界の有名大学にも進学できます。

日本語IBが追い風となるも国内大学側の受け入れは充分でない?

因みにDPの授業は基本英語で行われますから、相当の英語運用能力が求められます。そして近年、IB認定校がわが国で多くなっていますが、その最大の理由は、日本政府(文科省)が6年前にIB200校宣言をし、ついで日本語IBを公式にIBOから裁可されたことによります。

より正確に言えばIBDPの前段階のMYP(中1~高1)を概ね日本語で授業できるようになったからです。またそれは日本の一条校(いわゆる私立中学・高校)で、IBプログラムを日本の学習指導要領で読み直したり、付け加えたりすることで導入することができるようになったことによります。

いわば標準的な学校のカリキュラムに加え、IBの基準とされる授業をいくらか付加する形になりますから、生徒にとっては相応に勉強量の負荷は重くなりますが、他方でIBDPのスコアで大学への進路が保障されているために、いわゆる「受験勉強」から免れます。

このスコアが高いと進学大学の選択肢は広がりますが、しかしわが国の大学の受け入れは必ずしも万全ではなく、近年国立大学医学部(岡山大など)に少数にとどまり、私大の雄の早大でも認められてはいますが相当高いスコアを求められるため、むしろ海外大学進学を促す面はあります。

とはいえIB校の授業は一言で言えば「探究」授業が基調ですし、社会に対して学校を開いていく姿勢が鮮明ですから、わが国でもこれからの大学進学のメインストリームとなる「総合選抜」にまさにもってこいの学習スタイルでもあり、注目されてます。

しかし、これまで述べてきたことからご推察頂けるように運営コストがそれなりにかかるため、私学というより公立なかでも市立などがこのIB校に取り組む例が増えています。

インターナショナルスクールは学校法人ではないので要注意

東京圏ではさいたま市立大宮国際がこの春開校したのはその例ですが、私立でも神奈川の聖ヨゼフが新しくIB認証となる準備をしていますし、東京の開智日本橋は本校、埼玉の昌平、茨城の茗溪などが先行してIB校に取り組んでいます。尚、古くからIB教育をしているところに玉川学園中高校があります。

また、中学受験ではありませんが、都立国際がIB校です。因みにインターナショナルスクールはこのIB校認証を受けているところが多いのですが、必ずしも(というかほとんど)「学校法人」の認可をうけてはいません。中学入学の資格を学校法人立の学校卒業生に限っているのでインターナショナルスクールからの私立中進学は不可能です。

実はここのネックは余り知られていませんから注意が必要です。一方で多くのインターナショナルスクールが専門学校認可をうけている中で、IBの私立中・高はいわゆる認可学校法人ですから相当の補助金がおりて、世間のインターナショナルスクールの半分くらいの費用で利用できます。そこが大きな魅力です。

世界は多様化し、学校も多様性を受ける方向で、日本国籍がない生徒が今後は増加していくでしょう。その時IB校は海外のネットワークがあるので選択されやすいでしょう。先ほどの入学資格である学校法人の卒業生でなければならない、とする法律はあくまで日本国籍を有している生徒に限定されます。

近い将来、外国籍の生徒が日本の私立中高で学ぶことが例外ではなくなるでしょうが、その恐らく対象としてファーストチョイスはIB校だと考えられます。

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