ユーロフォーミュラ・オープン最終戦:モンツァで佐藤万璃音、名取鉄平、角田裕毅が表彰台独占

 イタリア・モンツァで2019年10月10~13日、ユーロフォーミュラ・オープン(EFO)のシーズン最終戦となる第9大会が7チーム/18台の参加により実施され、佐藤万璃音(モトパーク)はレース1で2019年シーズン9勝目を挙げ、レース2では5位入賞を果たした。ホンダ育成ドライバーでレッドブル・ジュニアの角田裕毅(モトパーク)はレース1で3位、レース2で2位、同じくホンダ育成ドライバーの名取鉄平(カーリン)はレース1で2位とレース2で3位でシーズンを締めくくった。とくにレース1では日本人3名が表彰台を独占する快挙となった。

■タイヤ戦略が分かれた予選1回目は名取がセカンドロウ確保

 2019年からスタートしたEFO。その初代チャンピオンの座は佐藤がすでに手中にしているものの、ランキング2位の座はルーカス・ドナー(テオ・マルティン)、リアム・ローソン(モトパーク)、リヌス・ルンクイスト(ダブルR)、そして角田が争う格好に。

 スーパーライセンスポイント獲得という点では、並行参戦しているFIA-F3でランキングランキング9位(スーパーライセンスポイントは2点)の角田と、同24位(スーパーライセンスポイントは0点)の名取は、このEFOでより多くのスーパーライセンスポイントを獲得するためにランキング上位を目指す必要もあったと言えるかもしれない。

 角田と名取はともに2019年シーズン2勝目を目指し、いずれの予選でもポールポジション獲得を狙っていた。予選1回目の名取は新品タイヤを2セット投入してポールを狙う。つまり決勝レース1はユーズドタイヤでのスタートとなる戦略である。

 これが功を奏して名取は3番手タイムを記録。セッション中のスロー走行で決勝レースは1グリッド降格のペナルティが科せられたが、それでも決勝レース1のスターティンググリッド2列目は確保した。

 角田は予選1回目で新品タイヤ投入は1セットに抑えた。決勝レース1へ新品タイヤで臨む戦略である。しかし、スリップストリームをうまく使えずトラフィックにも悩まされて10番グリッド確保が精一杯。さらには、セッション中のスロー走行で決勝レース1は2グリッド降格のペナルティを科せられてしまった。

 佐藤に関してはすでにドライバーズタイトルを獲得していることもあり、チームは彼にランキング3位につけるチームメイト、ローソンを助ける“露払いの任務”を予選1、2回目で与えた。

 モンツァでスリップストリームを使えば、最終コーナーのパラボリカから第1シケインまで、第1シケインから第2シケインまで、レズモからアスカリまで、アスカリからパラボリカまで、それぞれの区間でコンマ4秒ずつ、つまり一周で1.6秒も稼げる計算だ。

 佐藤はローソンにスリップを積極的に使わせるため背後に彼を置きながらタイムアタック。各予選でチームメイトの2番グリッド獲得に貢献し、ローソンはポールポジションこそ奪えなかったものの、「ありがとう」の言葉を口にして佐藤に握手を求めた。

■名取と佐藤が優勝争い繰り広げたレース1。角田も3位にくい込み日本人が表彰台独占

 決勝レース1はモンツァという高速サーキットの特性がレース展開に大きく影響、日本のドライバー同士の首位争いという事情も手伝って近年まれにみる名レースとなった。名取は3番グリッドから1周目に早くも先頭に立ち、佐藤もローソンの自滅により5番グリッドから1周目に3番手へ浮上した。

 佐藤は2番手のチームメイトに少々手を焼きながらも10周目に2番手へ上がり、名取を追った。そして12~14周目、佐藤は第1シケイン進入で名取を交わしながら、第2シケイン進入でふたたびポジションを明け渡す攻防を3度繰り返した。

 迎えた最終16周目の第1シケイン進入でふたたび先頭を奪うと、チャンピオンの佐藤はそのまま名取を振り切って今季9勝目を飾った。

「最後は僕のほうが一枚上手だったかなと。第1シケイン進入で抜いて、第2シケイン進入で抜いてもらうのは僕のシナリオどおり。あのまま逃げ切ろうとは思っていなかった」と佐藤。

レース1を制した2019年チャンピオンの佐藤万璃音(モトパーク)

「もちろん逃げ切れたらラッキーだけど、3番手のクルマが追い付いてこなかったですよね? 3番手のクルマが追い付いてきたら、第1シケインで抜いたタイミングでそのまま逃げ切ろうと思っていたけれど、どうしても付いて来なくて“一対一”の勝負となり、そうなると抜いて抜かれてとなってしまう」

「だから、毎周毎周同じ展開を続けて相手のリヤタイヤの消耗を進めさせることに専念し、最終周の第1シケイン立ち上がりで頑張って振り切った。タイヤをコントロールし続けて来たから最後に差が出た」

「今季は先行逃げ切りが多かったけれど、こういう展開のレースでも勝てると証明できた」

 これに対して名取は、「僕たちカーリン勢は予選で新品タイヤを2セット使っていて、新品タイヤを1セット温存していたモトパーク勢とは決勝で履いているタイヤが違っていた。中古タイヤで決勝を走り始めたので、第2シケインで抜かれたら右コーナーが連続するセクター2で追いつけるペースはなかった」と悔しさをにじませる。

「つまり第1シケインで抜かれても第2シケイン手前で抜き返せば、中古タイヤでもセクター2で後ろを抑えきれると自分はイメージしていた。だから第1シケインでは抜かれても立ち上がりを重視して、それがうまくいって第2シケイン進入で先頭を取り戻せていた。でも、最後の最後で読まれてしまった感じはありますね」

「正直、最後の1~2周で後ろを引き離せていればと思ったけれどタイヤが厳しかった。最後の1周までは自分の理想的なレースだった。でも最後の1周はうまくいかなかった。自分の後ろにもドライバーが迫って来ていたので、そこのツメが少し甘かったかなと」

レース1で12番手スタートから表彰台へ食い込んだ角田裕毅(モトパーク)

 佐藤と名取によるトップ争いの後方では、12番グリッドから鬼神の追い上げを見せた角田がファイナルラップの最終コーナーをうまく立ち上がり、4位に0.015秒差で表彰台の最後の一角に食い込む大健闘をみせた。

「スタートのエンジンストールがなかったら、100%トップ争いはできていた」とレースを終えた角田。

「クルマの調子は良かった。本音を言えばスタートの失敗で力が抜けていた。『これはないなー』と自分のなかで感じていた。だから何も考えないまま順位を上げることだけに専念した。そうしたら先頭争いが見えるまでに接近したんです」

「とにかくトップ争いはしたかった。2台抜かないと先頭に立てなかったとはいえ、あと1、2周あれば面白い展開になっていたでしょう」

■レース2は名取、角田がトップ走行もセーフティカーの不運もあり後退

 決勝レース2もモンツァの高速コースが生み出す競り合いに目を奪わる展開となった。予選2回目でポールポジションを奪った名取は、そのまま逃げ切りを図った。

「後ろが混乱していたので、最初の5周くらいは逃げ切りたくてプッシュした。今日は大きな駆け引きもなく、先頭に立って1秒くらいは後ろとのギャップを築ければと思っていたけれど、それは叶わなかった。最初の5周でのプッシュが多すぎたのか、タイヤが厳しいと感じ始めたときに後ろから接近された」と名取。

レース2序盤をリードした名取鉄平(カーリン)

 ペースが落ちたとはいえ名取は、2番手スターとだったローソンと、レース1での攻防をほうふつとさせるバトルを第1シケインと第2シケインで繰り返す。しかし、レース中盤には後方から追い上げてきた角田にも抜かれて3番手へ後退。

「モトパークとはクルマのセッティングの違いがあったのか、セクター2で結構つらかった。僕らは昨日からストレートを重視して、第1シケインでオーバーテイクできるようダウンフォースをかなり削っていた。今日も昨日も同じようなセッティングを試したけれど、昨日よりもダウンフォースが必要なコンディションだった。少し欲張りすぎた結果、レース後半は厳しくなり勝利を逃してしまった」と名取。

 グリッド後方から優勝争いまで上り詰めた角田は、9周目にチームメイトのローソンから首位を奪った。「スタートは相変わらず悪くて、第1シケインでは1台に抜かれそうになった。そこは踏み留まり、あとはいつもどおり追い上げるだけだった。ペースはすごく良かった。抜いたり抜かれたりの展開になっても最後の最後には先頭に出られる自信はあったし、実際に先頭に立ったら後ろを引き離せるだけのペースはあった」と角田。しかし、セーフティカー導入で水を差されて優勝を逃した。

「最後は不完全燃焼だった。先頭に立ったあとセーフティカー明けの最終コーナーは、相当うまく立ち上がらないと第1シケインの進入で抜かれるのも止むを得ない。それで2番手に下がってしまった。しかも、セーフティカー明け直前の事故で最終コーナーはイエローフラッグが振られてしまっていた。残り2周で抜き返せる可能性はゼロだった。今季を振り返ると、FIA-F3は走れる機会が限られているので、その点EFOは良い練習になった。良いマイレージを稼げた」と角田は語った。

 また、決勝レース2で5位という不本意な結果に終わった佐藤は次のように振り返った。「決勝レース2のクルマのペースは強くなかった。勢いのあったチームメイトの角田選手に順位を譲って流れを変えようとした。でも、角田選手に付いて行けるペースもなく、さらに後ろから迫ってきた選手も危ない感じで迫ってきたので頭を切り替えて前へ行かせ、みんなのタイヤが厳しくなるレース終盤に勝負しようと思った」

「ただ、セーフティカーランがあれほど長引くとは予想外で時間が足りなくなった。終盤のパフォーマンスには自信があっただけに残念。残り2周になっても僕の勢いはあった。レースにはもちろん勝ちたかったけれど、僕はリスクを負ってまで勝つ必要はなかったとは言えるかもしれない」

「今季を振り返って、結果的には良い1年だった。ほとんどのことがうまく行った。安定して速かった。前大会のバルセロナではカーリンにやられたけれど、この最終大会は僕とローソン、モトパークのふたりが勝って締めくくれたのはチームとしても良かった」

「ドライバーズタイトルを獲得できたのはもちろん嬉しいけれど、シーズンを通して一度もリタイアが無く、さらにプライベート・テストや練習走行や予選まで含めて、まったくクルマにダメージを与えずに1年間を締めくくれたのは誇りに思う」

 2019年シーズンのEFOは本大会で終了。佐藤はこの後11月末から12月頭にアラブ首長国連邦で開催されるFIA-F2最終戦とFIA-F2のポストシーズン・テストを控え、角田は10月下旬にスペイン・バレンシアで実施されるFIA-F3テストを経て、11月半ばに中華人民共和国・澳門特別行政区で開催される第66回マカオGPへそれぞれ臨む。

 さらなる高みを目指す若き日本のドライバーの来季から目が離せない。

レース2を制したリアム・ローソン(モトパーク)

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